第四十話 役立つブツ
「何で、何デなんでナンデェエエエエ――ッ!」
最後の一体の断末魔が響く。
しばらく続いていた騒音は収まり、静けさを取り戻した集合住宅エリアには……もう動く人形は存在していない。
『人間・南瓜同盟』と怪人形ファミリーの抗争は同盟側の勝利で幕を閉じた。
だが勝者である彼らには、安堵の気持ちこそあれど喜びの表情はない。
その理由の一つが……人形たちの中身だ。
戦いながら薄々、気づいてはいたが、おそらく彼らは小さな子供だったと思われる。
言葉づかいや反応からしても、大の大人がアンデッドに生まれ変わったとは考えにくい。
……ゆえにこれまでと違って若干、後味の悪さは残っている。
ただ殺さなければ殺されていたので、テンドウたちに後悔は微塵もない。
「「「「…………、」」」」
――そして、もう一つ。勝ったとしても喜べない大きな理由というのが――。
「……そうか逝っちまったか。今度こそ天国でゆっくり過ごすんだぞ。……おやすみなさい」
南瓜頭族ファミリーの頭であるドンチンが呟く。
その両手には一つづつ、ただのくり抜かれた南瓜に戻っている仲間たちの姿があった。
今回の戦いで出た犠牲者は二体。
敵ファミリーとの三倍近い数の差から考えれば、少ない犠牲で済んだとはいえ……だ。
どんなに虐げられてもナワバリを追われても、今日まで必死に生き延びてきた大切な仲間。
ほかの野蛮なファミリーたちとは違う、たしかな絆で結ばれていた存在を失ってしまった事実は変わらない。
「ドンチン……っ」
「ドンチンちゃん……」
そこへガガクとカグラが近づいていくも、かける言葉が上手くみつからない。
一方のドンチンは振り返ると、二人に向かって首を横に振った。
「お前らは気にするな。コイツらも覚悟の上だったからな。犠牲が出なかった前回のベニムラサキとの戦いが例外だっただけだ。……これが本来の、ファミリーの抗争というやつです」
ドンチンが悲しそうな声で言う。
二体の仲間が命を落としてしまったのは――主要配下による貫通攻撃が原因だった。
……彼らにとっては間違いなく相性最悪の攻撃である。
物理にも魔法にも特殊な亡霊の一撃にも、すべてに頑丈だった南瓜の頭部。
その抜群の防御に対して、主要配下の中では最後まで残っていた天馬人形によって、頑丈さを無視して入るダメージに耐え切れなかったのだ。
その死んだ二体とドンチンを囲むように、合流したテンドウ、ムウマ、ヨシくんも含めた面々が立っている。
そうしてこの場にいる全員が、死んだ仲間に弔いの念を向けていたところで――。
「頭にテンドウ! ダメだったですハイ!」
「どうにも上手くいかないのであるな!」
ここで別行動をしていた南瓜頭族の二人組、ピンとコロが戻ってくる。
彼らは本隊から離れて、東側にある十号棟の三○七号室を目指して『役立つブツ』の回収に向かったのだが……その手には何も持っていない。
そんな戻ってきた二体も、死んでしまった仲間の姿を確認した。
だがぐっと堪えると、任された仕事を全うすべく、まずはテンドウたちに報告する。
「三○七号室はすぐに見つけたけど全然、入れなかったですハイ……」
「どう足掻いても無理だったのであるな……」
「入れなかった? ……そうか、鍵が掛かっていて壊せなかったのか」
「いや違うですハイ。鍵は普通に開いてて扉も開けられたけど、なぜか一歩も入れなかったですハイ」
「まるで見えない壁に阻まれていた感じであるな」
「お、おおう……?」
その報告に困惑するテンドウたち。
だがウソを言っているようにも見えず、そもそもウソなどつく必要もないのだ。
同じくピンとコロも困惑したような顔と声で手ぶら状態なのだから……実際に部屋には入れなかったのだろう。
「……分かった、ご苦労だったな。とにかく二人は死んだ仲間のそばにいてやってくれ。部屋の方は俺たちが見てくるから」
二体の南瓜な頭をポンと撫でてから、テンドウはまた行動を再開する。
念のため索敵担当のムウマも同行し、二人は皆から離れて東の十号棟に向かうのだった。
◆
「……ここか。何か感じるか、ムウマ?」
「……いや特別ねえな。感知にもまったく引っかからねえぜ」
件の十号棟の三○七号室。
血痕や爪痕などの百年前の痕跡が残る階段を上がり、目的の部屋までたどり着いた二人は――開きっぱなしの扉の前に立っていた。
部屋の前、廊下の位置からではとくに異変は感じない。
ただピンとコロは『なぜか入れない』と口を揃えて言っていたため、テンドウたちも弾かれる覚悟で一歩踏み出すと、
「「ッ!?」」
三○七号室に入れは――した。
彼らが言うような見えない壁など別になく、普通にスルリと玄関まで入れたのだ。
だが、部屋に入るなりテンドウもムウマも驚愕の表情となっていた。
その目は大きく見開かれて、口も無意識のうちに半開きとなっている。
……どこかで感じたことのある、見覚えのある独特な空気感だ。
しかもそれは最近の出来事であったため、二人の脳裏には同じ存在が浮かんでいた。
「ちょいムウマ、まさかこれって……」
「ああ、おそらく……そうだろうぜ」
そしてズカズカと部屋の中へ。
手前にある台所兼食堂を通り過ぎ、奥の居間へと入った瞬間、その空気感はより濃いものとなる。
たとえ窓ガラスが大きく割れて風が吹き込んでいようとも……何ら濃度に影響はない。
特別な空気の発生源は壁際の棚の上にあった。
ただの備品などではないというのに、適当な感じで置かれているが……間違いない。
「誰がここにこんなものを……! 値段もつけられない貴重な聖遺物だぞ!?」
――そう、聖遺物。
ただの集合住宅の一室にあったのは、国宝級の代物だったのだ。
テンドウとムウマのカン違い、というのはあり得ない。
実際にアンデッドである南瓜頭族たちが一歩も入れなかったのだ。
なおかつ道中で通った部屋と違って、この部屋だけが魔物の魔力の魔の字もなし。
何より、この独特で背筋が伸びるような空気感を見れば――否定する材料は何一つない。
「……なるほどな。たしかに聖遺物ならリスクを負ってでも奪いに来る価値はあるぜ」
「ああ、イマタイが俺ら人間だけに役立つもの、って言ったのも納得だぞ」
その聖遺物は聖杯のような形をしていた。
銀製で二つの取っ手が対向するようについており、サイズ的には一般的なコップと同程度の大きさだ。
それがただ存在するだけ。
それだけで怪人形たちに支配されていた集合住宅で唯一、ここ三○七号室だけがアンデッドの魔力で穢れていない。
さすがにカンナギ城の地下に眠っていた十字架と比べれば、放つ効力の範囲は落ちるようだが……。
肝心要の効果についてはまったく同じ。アンデッド不可侵の領域と化し、また攻撃対象にすらできず外からは破壊できない、というのも変わりないようだ。
「アンデッドの楽園で二つ目の聖遺物とは……。砂漠にこそ黄金が落ちているって話か?」
「……いやそれは何か違う気がするぜ?」
――とにもかくにも、である。
これで今回の戦利品として、想像以上であった目当てのものを入手できたのだ。
聖遺物を触ることは恐れ多いが……せっかく見つけた代物なのだ。
このまま放置するわけもなく、テンドウは自然と深く一礼してから、丁重に聖杯を手に取った。
「あとはこれをどこに移すかだぞ。第二拠点の軍宿舎はもうドンチンたちがいるからな」
「それにあそこは城から近えからな。もっと南で最低でも貴族街の外、脱出経路沿いの建物がいいだろうぜ」
「となると……どこか最適な場所はあるか? 調査担当大臣のムウマ殿」
「ああ、ちょうどいい候補があるぜ。……まあ楽しみにしておけって」
聖遺物を移す場所について少し話をしてから、テンドウとムウマは部屋を後にする。
携帯している魔法袋にすでに聖杯は収納したため、もう部屋の中には廊下を漂っていたアンデッドの魔力の残りが入り込んできていた。
そうして、三○七号室を出た二人は地上で待つ仲間たちのもとへ。
ドンチンたちは亡骸となった仲間の南瓜な頭を背負い、すでに帰る準備を整えていた。
「待たせたな。目的のものは無事に手に入ったぞ。……それじゃ帰ろうか。皆で一緒に」
「おう。……皆で一緒に、です」
言って、『人間・南瓜同盟』は集合住宅エリアを後にする。
南瓜頭族ファミリーから二体の犠牲が出てしまったものの、テンドウたち人間ファミリーは新たな聖遺物を手に入れたのだった。




