第三十八話 恐ろし人形
「テンドウが一番ヤバイ相手を引き受けてくれたんだべ。だから僕らが押されるわけにはいかないべよ!」
「おうっ!」
「もちろん!」
ついに始まった集合住宅での戦い。
頭のワダチを除いた八十七体の怪人形たちが、数にものを言わせて正面から突っ込んでくる。
対して、構えて迎え撃つのは中央にヒュウガを置いたドンチンたちだ。
頑丈さが売りの彼らが壁となる一方で、戦局を左右するガガクとカグラは速度を活かして遊撃のような形を取っている。
……そのどちらの中にも、ハンチング帽を被ったおっさんと丸坊主の男――ヨシくんとムウマの姿はない。
ただ決して逃げたわけではなく、二人が戦場のどこにいるかというと――。
「【迅雷矢】!」
付近の棟の屋上からヨシくんの電撃の矢が放たれる。
大人数での乱戦となっている地上から五十メートル圏内。【必中射撃】の有効射程距離から、百発百中の援護射撃を行っていたのだ。
ムウマはその隣で屋上から戦場全体を把握している。
ヨシくんと二人一組でいる理由は、こちらに気づいた配下が上ってきた時にいち早く気づくためだ。
「ハハッ。何だ上手くいってるじゃねえか!」
そのムウマが戦場を見下ろしながら笑う。
なぜなら、地上ではドンチンたち南瓜頭族ファミリーが抗争とは思えぬ動きをしていたからだ。
「おりゃあああ!」
「ていやあああ!」
たくましい叫び声とともに行っていたのは――ジャイアントスイングである。
仲間の両足を持ってぐるぐると回転して、その勢いのまま敵に放り投げていたのだ。
……一見、ふざけているようにも見えるが本人たちは大真面目である。
自ら頭から突っ込む【頭突攻】では勢いが足りない。
そこで考えたのがジャイアントスイングだ。
重くて硬い頭を遠心力に利用することで、より威力のある攻撃を実現したというわけである。
これは同盟を組んでから毎日、軍宿舎内で練習していたものだ。
仲間の頑丈な頭を的にして投げ続けたからこそ、今ではもうかなりの正確さで投げられるようになっている。
「チッ! 雑魚でチビのくせに鬱陶しいな南瓜ども!」
それが当たればダメージ――は柔らかい人形ゆえに微々たるものだとしても。
普通に体勢を崩すだけなら充分な威力となっている。
だが当然、敵も黙って受け続けるはずもない。
スイング中は隙だらけとなるため、逆に攻撃を受けるリスクは高くなってしまう。
「おっと、させるかっ!」
「邪魔はさせない!」
そのピンチにガガクとカグラが待ったをかける。
自身の【追い風】を受けて戦場を縦横無尽に駆け回りながら、【鎌鼬】や風を付与した属性剣で助けに入った。
鋭い風の斬撃と人形な体は相性がよく、下位魔法でも充分に切り裂けている。
「……でも、思ったよりは歯応えがあるべな。普通に一体一体がヒノモト王国軍の新兵クラスは卒業している感じだべ!」
そこらの森や平原の亜人族ならいざ知らず、このレベルの魔物が群れを成している。
数の猛攻を腕盾で受けながら反撃するヒュウガは、改めて亡都ヤマトニアの恐ろしさを体感していた。
――だとしても押されてはいない。前線はずっと固定されたままだ。
ジャイアントスイングを行う個体以外の、守りに徹した南瓜頭族は想像以上に硬く、しぶといため簡単には崩されない。
「絶対に! 壁は喰い破らせないべな……!」
そしてもちろん、ガガクやカグラとは違うタイプの実力者であるヒュウガの存在だ。
戦線が崩れず安定しているのは、何もドンチンたちの頑丈さだけではない。
最も負荷のかかる中央に陣取って弾き返している、この屈強な重戦士の影響が大きかった。
「どけテメェら! このデカブツ鎧は俺に任せろ!」
「つうッ!?」
と、ここで初めてヒュウガの口からうめき声が漏れた。
腕盾で敵の攻撃をしっかりと受け止めたはずが、まるで防具を身につけていないかのように、左腕に直接的な衝撃が伝ってきたのだ。
「ッ――貫通攻撃か! 皆、気をつけるべ! おそらく目と同じで拳が赤くなっている個体が使ってくるべよ!」
「「「「了解!」」」」
……幸い腕は折れてはいない。
だが痺れて痛む左腕を伸ばしつつ、ヒュウガは敵の追撃を鎚矛で捌きながら冷静に指示を出す。
拳が赤くなった個体はいわゆる主要配下だと思われる。
――その数は四体。ヒュウガと交戦中の魚人人形をはじめ、青年人形と虎人形と天馬人形だ。
この四体の主要配下は最初から拳が赤かったわけではない。
人形の四肢の末端に魔力が込められると、赤熱して発動するタイプの技のようだ。
「気づいたところで遅え! どんな装甲だろうと俺ら四天王の前じゃ――ぐがッ!?」
うち一体の虎人形が南瓜頭族に攻撃を加えようとするも、その攻撃は不発に終わる。
虎の眉間に電撃の矢が直撃し、貫通はせずとも深く突き刺さったからだ。
屋上から狙い撃ったヨシくんの【迅雷矢】である。
見事に決まった意識外からの不意打ち、そこへさらなる追撃をかけるのは――。
「【竜巻の牙】!」
後ろから忍び寄っていたガガクが風の中位魔法を叩き込む。
風の奔流を纏ったその右腕によって、虎人形の首から上が抉り削られて――中身の綿が四方八方へと弾け飛ぶ。
「何やっている虎!? 我ら四天王が負けてどうす――ぐぉおお!?」
同じ主要配下である虎人形の死を受けて、青年人形が吠えたところでその言葉と動きが止まる。
原因はいつの間にか背後を取っていた赤毛の少女、カグラだ。
ガガクと同じ風の中位魔法の【風圧天井】を発動し、青年人形の拘束に成功していた。
そんな動かぬ的に、ドスンドスン! と。
地面を揺らして接近するのは、重装備の戦士ことヒュウガである。
「いつの、まに!? お前は魚人と戦っていたはずで……!?」
「そりゃもう決着がついたからに決まっているべな!」
球体状の鎚矛を軽々と振り上げながら、ヒュウガが叫ぶように答える。
一度は貫通攻撃を成功させるも、すでに魚人人形は敗北を喫していたのだ。
「――ぬんッ!」
直後、鎚矛が青年人形の頭に打ち下ろされた。
魔力も纏わせて武器の重みもフルに利用した一撃。
その勢いのまま体ごと潰されると、地面と挟まれた瞬間、耐え切れずに中身の綿が飛び散っていく。
「「「「!?」」」」
立て続けに仕留められた主要配下、彼らで言う四天王の姿を見て。
ずっと威勢がよかった怪人形たちの集団に初めて動揺が走った。
陣形こそ崩れてはいないものの、想定以上だった人間ファミリーの力に戦慄したのだ。
「今さら驚くことだべか? テンドウたちはベニなんとか、っていう幹部を倒しているんだべよ。……僕はまだいなかったけど!」
数秒間だけ止まった大乱闘の戦場。
集合住宅エリアを吹き抜けた風の音が聞こえる一方、種族ゆえにいつもの戦場とは違って血は流れていない。
残る主要配下、厄介な貫通攻撃を持つ四天王は天馬人形ただ一体。
ほかの配下の怪人形たちはまだ大勢残っているが……どちらが有利なのかは火を見るよりも明らかだ。
「さあ来い! 趣味じゃないけど遊んでやるぞ人形っ!」
「成仏させてあげるから覚悟しなさい!」
そんなガガクとカグラの声が合図となり、再開された大集団の戦い。
かつて子供たちの声が響いていた集合住宅エリアにて、真逆な抗争の叫びはまだ続いていく。




