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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第二章 騒乱の南エリア編
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第三十七話 集合住宅

 次なる狙いは南東の集合住宅。

 軍宿舎での会議を行った二日後、テンドウたちは動き出した。


 セイカたちに見送られながらカンナギ城を出て庭園を抜けると、さらに南下して軍宿舎の前でドンチンたち南瓜頭族(パンプキン)ファミリーと合流。

 そして謎の集会以来となる貴族街壁まで到達すると、パンドラの責任者イマタイの言葉を信じて、南エリアを東へと向かう。


「アカツキ通りをひたすら東か。アンデッドたちの状況はどうだ?」

「……貴族街と比べりゃやはり多いぜ。さすがに大通りはキツイから一つ手前の道でいくぞ」

「了解。任せた」


 ムウマの索敵を頼りにルート選択をする一行。

 前回は謎の集会中という特殊な状況だったため分かりづらかったが……目で確認できる範囲だけでも相当、アンデッドが多いと分かる。


 そんな危険な貴族街の外を、細い道に入って引き続き徒歩で進む。

 ただじつは一人だけ、ここまでの道中でもテンドウだけが黒仮面馬族(ヒッポマスク)のクロちゃんに騎乗していた。


「どうどう。少しだけかかり気味だぞ、クロちゃん。まだ標的は先だからな」

「……ブルルゥ!」


 そのテンドウが優しい声でクロちゃんに語りかける。

 ……別に戦闘班のリーダー、いわばかしらだから偉そうに乗っているわけではない。


 機動力に優れるムウマ、ガガク、カグラはそもそも乗る必要はなし。

 ヨシくんは後方支援で、ヒュウガに関しては乗る時にどうしても重装備の荷重がかかってしまうため、テンドウ一択となっていたのだ。


 ――もちろん、戦闘面でのプラス材料も理由の一つである。


 種族の能力による騎乗者との一体化。

 これによって今日まで鍛えた剣技が馬上でも問題なく使えるのだ。

 素のテンドウと騎士スタイルのテンドウでは、機動力と回避性能の点から後者の方に軍配が上がる、というわけである。


「――おっと、どうする騎士さんよ。アイツのお出ましだが……やるのか?」

「……ふむ、アイツか。まあ今なら大丈夫だと思うぞ」


 先頭のムウマからの声に、一つ後ろのテンドウが答える。

 石畳が敷かれていない細い道の数十メートル前方。そこには動く光源が存在し、このまま大通りに戻らず直進すれば遭遇となる状況だ。


 それでも進むことを選らんだテンドウの先にいたのは――不死火族(ヘルフレイム)だ。

 全身が燃え上がる人型のアンデッドは、かつてダメージを通せずに討伐を諦めた相手である。


 炎と炎。相性から言えば最悪だ。

 以前の青い炎刀では炎の下の肉体までは傷つけられなかったが……果たして今回はどうか。


「リベンジマッチだ。いくぞ、クロちゃん!」

「ブルルゥッ!」


 気合いを入れて合図をして、クロちゃんに乗って駆け出していく。

 全力疾走で瞬く間に距離を詰めると、あの時とは比べものにならない白い炎太刀を馬上から振るって――。


「グ、ガ……ァ!」


 瞬間、炎すらも焼き尽くす白い業火。

 相性的には最悪なはずなのに、見事に一撃でその首を刎ねることに成功する。


「まあ予想はしてたが……さすがだぜ」

「もしかして今のテンドウなら……火竜族(ドラゴン)の鱗も焼けそうだべな」


 あまりの火力に、味方ながら少しだけ恐ろしくなるムウマとヒュウガ。

 そんな二人の視線の先では、もう完全にバケモノの領域に入っているテンドウがこちらに手を振っている。


 とにかく邪魔な障害は取り除かれた。……ただこれだけで終わるはずもない。

 地獄の本番、アンデッドの数が増えた貴族街の外では――その後も敵をスルーできない状況が多発。

 何度も戦闘を繰り返すハメになり、魔力消費のないテンドウや完全物理のヒュウガを中心に撃退していく。


「……よし、特別にデケえ魔力の反応は……ねえようだな」


 ――そしてもちろん、忘れてはならないのがヤツらである。

 ニゴマルを筆頭にタタリやヨギといった南で目撃されている『三大ファミリー』の幹部にも、細心の注意を払わなければならない。

 慎重かつ確実に、時に遠くで起きているファミリー間の抗争の音を聞きながら進んでいく。


「――あ、あれは……!?」


 その道中、横目に見たアカツキ通りの方で人型の集団を確認したテンドウたち。

 ただムウマの索敵に引っかからなかった彼らは……アンデッドでなければ生きてすらいなかった。


 十数人ほどの石化した人間たちだ。

 軍のような統一された防具一式の格好からしても、おそらくは百年前の大規模発生(スタンピード)の頃のものだと思われる。


「間違いねえ。『(あか)の大樹海』の石眼蛇族(バジリスク)の仕業だぜ。……まさかまだ残っているとはな」

「必死で街を守ろうとしたハレルヤ王国軍……だった者たちか」


 当時の状況を想像したムウマとヨシくんが、同じ人間の彼らに向けて手を合わせる。

 それに続いてテンドウたちも一旦、脚を止めると、彼らに向けて手を合わせて冥福を祈った。


 そうして気を取り直してから、再び歩を進める一行。

 アカツキ通りの一本手前の道をひたすら東に進んでいけば――ようやく今回の目的地が見えてきた。


「……あそこか。もう人間がいないと考えると……立派なほどに虚しく見えるな」


 ついにたどりついた南東の集合住宅エリア。

 十数棟もの五階建ての建物が集まっているそこは、亡都ヤマトニアの中でもかなり異色な感じがある。


「うわー……。うじゃうじゃだなっ!」

「さすがは中堅ファミリーってとこかな?」

「フッ、上等だ。相手にとって不足なしだぞ。……とても強そうです」


 同じく目的地を確認したガガク、カグラ、ドンチンの三人。

 少し前に出すぎているのをムウマやヨシくんが引き戻しながら、一行はまず全体がよく見える場所へと移ることに。


 集合住宅からアカツキ通りを隔てた、反対側の小さな商店。

 そこの二階にゾロゾロと皆で上がってから、ゆっくりと集合住宅の全容を観察する。


「……目当ての十号棟はあそこか。百年前でも判別できるのは助かるぞ」


 まず確認したのは『役立つブツ』があるという十号棟だ。

 建物の上の方に『十』と書かれた数字は、だいぶ擦れてはいるがまだ普通に読める。


 ここの三○七号室にテンドウたちは用があるわけだが――当然、すんなりと入っていけるはずもない。


 それぞれの棟の一階周辺、共用部の廊下に階段、果ては屋上まで。

 至るところに見回りを配置しているそいつらからは、絶対にこの拠点は渡さないという強い意志を感じさせる。


 怪人形族(カイドール)ファミリー。


 独特な動きのぎこちなさや、大きくないサイズだからと侮るなかれ。

 群雄割拠な南エリアでも上から数えた方が早い、高い戦力を有する中堅ファミリーの一角である。


 彼らが今回の相手だ。

 ベニムラサキの時はあくまで個人軍だったため、ファミリーとの全面対決は包帯人族(マミー)ファミリー以来の二度目となる。


 そんな人形だらけの集合住宅ではあるが……通りを挟んで微かに漂ってくるのは血の匂いだ。

 どうやらここ数日中にも戦いはあったらしい。

人形な彼らに血は一滴も流れていないため、別のどこかの敗北したファミリーのものだと思われる。


「――よし。じゃあ作戦通りにいこう」


 だとしても、怖気づいて帰るわけもなく。

 敵の数や配置をしっかりと確認してから、『人間・南瓜同盟』はいざ勝負を挑むべく、建物の外へと出たのだった。



  ◆



 目当ての『役立つブツ』が欲しいだけ。

 だがそれが敵ファミリーの拠点内にあるのなら、この街では絶対に戦闘は避けられない。


 集合住宅近くの商店を飛び出したテンドウたちは敷地内へ。

 対する怪人形(カイドール)ファミリーは数多くの見回りがいるため、即座に侵入者たちに反応する。


「敵襲だ! 全員、迎え撃て!」


 その号令が飛んだ瞬間、怪人形(カイドール)たちは警戒態勢から戦闘体勢に入った。


 無論、敷地内の地上にいる個体だけではない。

 十数棟ある五階建ての集合住宅、その部屋の扉が次々と開き――一斉に建物からも出てきている。


 人に獣に魚に空想生物に。

 人形の形こそ違いはあれど、共通するのは全員が血走ったような赤い目をしていることだ。


 そんな彼らの、号令からの迅速かつ統率の取れた行動はまさに軍隊のようだ。

 肝心のファミリーの数はかなり多く、ムウマの索敵により八十八体と割り出されている。


 一方のテンドウたちは六人と三十一体。

 数の上ではだいぶ劣勢なのだが……なぜか突撃したのは全員ではない。


「(よし今ですハイ!)」

「(であるな!)」


 本隊から離れたところに二体の南瓜頭族(パンプキン)の姿が。


 彼らはファミリーの幹部的存在の二人組、ピンとコロだ。

 集合住宅エリアで騒ぎが起きて、見回りもすべて向かったのを確認してから、誰もいなくなった十号棟の方へと向かう。


 テンドウたちが派手に突撃したのはこれが理由だ。

 本隊が戦っている間に、別働隊のピンとコロが三○七号室から『役立つブツ』を回収。

 その後、パンドラで仕入れた発煙筒で合図を出して、一転して逃げ帰るという作戦である。


「(さあ、さっさと回収するのですハイ! 僕の予想は霊山羊族(ゴースゴート)の角笛ですハイ!)」

「(いやそれだとただの楽器であるな!? しかも人間には逆に悪影響であるな!)」


 そうヒソヒソ声で喋りながら、仲間を信じて二体だけ別行動を。

 小さな体を活かして見つからずに東側の十号棟までたどり着くと、全力の階段ダッシュで三階を目指していく。


 ――そんなピンとコロから離れた集合住宅エリアの一角。

 中央やや西側寄りの戦場では、早くも戦いの構図が決まっていた。


 ガガク、カグラ、ヒュウガを中心とする本隊には、同じく怪人形(カイドール)の配下たちが。

 数の多さゆえに完全に集団戦の様相となっており、両軍が入り乱れる寸前となっている。


 ――そして、そこからさらに西側。

 一つだけ崩壊している二号棟付近には、打って変わって一対一で睨み合う者たちが。


「……へえ。真っ先に僕のところに来たね、君」

「当たり前だろ。一番ヤバイのは俺の担当だからな」


 クロちゃんに乗った騎士テンドウの前には、長い手足が特徴的な金髪少年の怪人形(カイドール)の姿が。


 大きさは一メートルと種族の中ではかなり大きな部類だ。

 内側に宿った凶悪な魔力も配下たちより遥かに多く、器となっている人形の体がはち切れそうなほどの印象を受ける。


 この個体こそが怪人形(カイドール)ファミリーのかしらだ。

 突入前からムウマの索敵で場所は判明していたので、すぐにテンドウが単独で向かったというわけだ。


「そのちょんまげみたいな変な髪型と燃える刀……君が『炎の剣士』だね? 僕はワダチ。君を殺すアンデッドの名だからよろしくね」

「……ご丁寧な自己紹介どうも。俺はテンドウ、お前に殺される気は毛頭ない人間だ」


 互いに敵意が込められた言葉を交わす。

 テンドウを乗せたクロちゃんもまたワダチに敵意を向けると、「ブルルゥ!」と鼻息荒くその場で足踏みをする。


 そして始まるのは――降参など許されない抗争という名の殺し合い。


 頭と頭。仲間たちと配下たち。

 人間ではなく恐ろしい人形たちが住む集合住宅エリアにて、それぞれの戦いが始まった。

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