第三十三話 新たな被害者
「いやはや、まさかセイカの演奏から城の秘密に触れるとはな……」
ピアノがある二階の音楽室(?)にあった隠し階段。
その先に存在する地下室に眠っていた聖遺物を発見し、テンドウたちは度肝を抜かれていた。
そんな彼らは受けた衝撃を引きずったまま一階へ。
そろそろ昼食の時間で食堂にはほかの皆も集まっているため……今さっき見た真実を話して共有しなければならない。
「……でも、秘密ならほかにもあるわよね? 同じ二階の『開かずの扉』とか」
「ああ、いずれそっちもな。今回のピアノみたいにトリガーとなるものが必ずあるはずだ」
アンデッドが不可侵である理由は判明した。
となればセイカの言う通り、残る『開かずの扉』の方も気になるのは自然なことである。
「――あと転移陣もだぜ。っとに、あり得ねえ転移事故を連発しやがって……」
「城の生活環境も変に整っていたし……。脱出までにこっちの謎も解ける日がくるのか?」
続いてムウマとヨシくんが言い、その視線が一階エントランスの中央に向けられる。
大きな古時計と並んでエントランスの顔となっている、床に描かれた転移陣。
今は発光していない休眠中のそれは――すべての始まりとなった原因なのは誰一人、忘れてはいない。
「って、そうよテンドウ。そろそろ破壊できるんじゃない?」
と、食堂に入る直前でセイカがそんなことを言った。
何カ月か前に一度、テンドウは破壊を試みたが……あの時は強固な防護魔法を突破できずにあっさりと諦めていたのだ。
「……たしかにな。もう威力的にも頃合いかもしれないぞ」
「でしょ? また一回、挑戦してみなさいよ。ダメならダメでそれだけだしね」
「だな。今のところは新たな事故の犠牲者は出ていないけど……次いつ起こるかも分からないしな」
――そんなセイカの提案により、昼食前にちょっとした仕事を。
だが内容は極めて重要だ。テンドウの言った通り、次の犠牲者を出さないためにも放置はできない問題である。
「…………、」
テンドウは一人、前に進んで転移陣のそばへ。
相変わらず複雑怪奇な模様が描かれており、素人目に見ても超難解な設計図といった印象を受ける。
その転移陣を前にして、常に携帯している青い炎太刀を鞘から抜くと、さらに成長した業火が勢いよく噴き出して刀身を燃やす。
今朝の【属性付与】でちょうど八十回に到達。
前回は青い炎になってすぐの三十数回だったため、倍以上の積み重ねとなっている。
加えて、炎を付与された刀剣自体も強化されているのだ。
あのニゴマルとも打ち合えた上等な魔法金属製となれば……今度こそ破壊できるかもしれない。
「……じゃあ、一丁やってみるか」
灼熱の青い炎太刀によって温度が急上昇した一階エントランスにて。
テンドウは上段に構えると、振り下ろす前に一度、呼吸を整える。
そして勢いよく振り下ろす――その直前。
「「「「!?」」」」
まるでテンドウの魔力に呼応するかのように輝き始めた転移陣。
急に青白い光を放ち、一階エントランスをその眩しい光で包んでしまう。
このままでは破壊されてしまうと転移陣が暴れ出した……なんてはずもなく。
転移陣が光り輝くということは、それすなわち誰かが転移する以外にない。
「おいウソだろ今かよバカな……!?」
光に包まれた一階エントランスにテンドウの慌てた声が響く。
その光が最大限まで強まった直後。
一転して収まって元に戻った一階エントランス、その中央にある転移陣の中心には――一人の男が立っていた。
……もちろん、驚愕の表情を浮かべながら。
◆
――約五カ月ぶりとなる転移事故が発生してしまった。
どよめくテンドウたちの前に現れたのは、爽やかな黒髪短髪で人畜無害そうな顔の若い男だ。
頭からつま先までゴツイ全身鎧を身に纏い、左腕には大きめの腕盾を装着し、さらに背中には大きな鎚矛を背負っている。
そんな完全武装な男の第一声は――。
ぐぎゅるるる! ……という腹の虫の音だった。
「ひゅ……ヒュウガ先輩!?」
と、代わりに第一声を放ったのはテンドウだ。
転移事故で新たに飛ばされてしまった悲運の男の顔を見て、さらに驚愕の表情となっていた。
「……え? て、てててテンドウ!?」
続いて新たな被害者の男も口を開き、テンドウの顔を見て負けず劣らずの驚愕の表情となる。
そして二人は互いの顔を指差したまま、驚きすぎてそのまま固まってしまう。
「オイ、ちょっと待ちやがれ。……まさか二人は知り合いだってのか?」
その状況にたまらずムウマが口を開く。
するとテンドウも新たな被害者の男も、黙ったままコクリ、と静かに頷いた。
……じつはすでに二人にはある共通点があった。
それは装備の上に着用した、胸に鳳凰の印が刻まれた外套である。
材質も色も肩で留められたブローチの形もまったく同じそれは――とある一つの国のものだ。
「彼の名前はヒュウガ。見ての通りに同じヒノモト王国軍の兵士で……しかも俺と同じ部隊だった人だぞ」
まだ驚きの表情となったままテンドウが答えた。
さらに続けて説明しようとするも、新たな被害者の男、もといヒュウガが割って入る。
「ど、どうなっているんだべ? いや転移事故なのは分かるけど……皆、心配していたんだべよテンドウ!」
「……すまん、さすがに人外魔境から外への連絡手段はなくてな。本当に心配をかけたとは思っているけど……俺たちもご覧の通りなのさ」
困惑するヒュウガにテンドウが苦笑いしながら言う。
すでに死んでしまった冒険者の男も含めれば、これで十人目。
新たに生まれた犠牲者に対して、転移事故の先輩としてはきちんと説明をしなければならないが……。
「ひとまずヒュウガ先輩、そこの食堂に行ってから話そうか。……どうせ腹が減っているんだろ?」
「う、うむ。……それもそうだべな」
さっきからヒュウガの腹の虫が騒いでいるので、テンドウは彼を連れて隣の食堂へ。
中にはもう椅子に座って待機しているほかの面々がいた。
そんな彼らも入ってきた見知らぬ新顔を見れば――経験者としていちいち説明を受けなくても分かる。
「あ、久しぶりな感じかっ!」
「ご、ご愁傷さまです……」
「あらあら、まあとにかく一緒にご飯でも食べなさいな」
「……うぅむ。恐れていた事態がまた起こってしまったのう」
それぞれが反応し、まだ戸惑い中の新顔ヒュウガに声をかける。
とりあえず適当な椅子に座ってもらうと、テンドウが改めてヒュウガのことを皆に紹介した。
ヒノモト王国軍で同じ部隊の先輩であること。
兵士らしからぬ優しい性格で、誰よりも食いしん坊で規格外な胃袋の持ち主。
そして少しだけぽっちゃりとしているも、ともに鬼上官のシゴキに耐えてきた信頼できる仲間である、と。
「――ってわけだ。というかヒュウガ先輩、ずっと気になっていたけど……何で完全武装状態なんだ?」
「そりゃ任務に向かう途中だったからだべ。一応、ほかにも一緒に転移したけど……なぜか僕だけ事故に巻き込まれたっぽいべな」
「……なるほど。んじゃ休暇中だった俺とは違うのか」
ヒュウガの答えにテンドウがふむふむ、と頷く。
聞けば同じ王都でもテンドウとは違う転移陣からだったようだ。
一般ではなく軍専用のものから小隊単位で転移して、今回の事故に遭ったらしい。
ただ一つだけ運がいいとすれば、すでに装備が揃っていることだ。
使い慣れた装備一式と一緒に巻き込まれたのは不幸中の幸いだろう。
「……で、テンドウ。僕たちがいるここはどこだべか? さっきのエントランスといいこの食堂といい、何やら立派な城に見えるべよ」
「ああ、ここはカンナギ城っていう城だぞ。ちょうど亡都ヤマトニアの中心に立っているな」
「なるほど、ここは亡都ヤマトニアの中心で……って! あの亡都ヤマトニアだべか!? 『赫の大樹海』の先にあるっていう!?」
「おう。残念ながらな」
「あの大量のアンデッドが支配するっていう死の街の!?」
「そうだ」
「あの禁足地に指定された陸の孤島の!?」
「その通り」
「な、ななな……ッ!」
これまでの困惑の表情から一転、ヒュウガの顔が絶望の表情に変わる。
……いくら兵士であろうともそれが普通の反応だ。
亡都ヤマトニアなど、名前を聞いただけで身震いするような危険な場所なのだから。
だからこそテンドウは務めて冷静に、かつ丁寧に説明していった。
城や街の状況はもちろん、今日まで起きたこともすべて包み隠さず喋っていく。
「中立域パンドラ? アンデッドとの『人間・南瓜同盟』……?」
説明をしてもヒュウガの混乱が完全に解けることはないが……今はそれでいい。
テンドウたちがそうだったように、ここで生活していけば自然と理解できるだろう。
――そうして、ヒュウガからの質問も交えて一通りの説明が終わった後。
さあ皆で昼食を食べようと、スズランが料理を台車に乗せて運んできた時だった。
「もしかして僕が飛ばされたのは……ご先祖様にハレルヤ王国民がいたからだべか?」
ぽつりと、ヒュウガが食堂の天井を見上げながらそんなことを言った。
「……おや、君もか。私にも直系の先祖にはハレルヤ王国民がいてね」
それを聞いたネゾウが反応した。
少しだけ驚いた様子で、すでに装備を脱いでいるヒュウガの方を見る。
まさかのヒュウガとネゾウの共通点。――だがそれだけでは終わらなかった。
「マジか。じつは俺もだぜ?」
「えっと……おっさんもだが?」
立て続けにムウマとヨシくんまで先祖のことを告白する。
これまで一度もそんな話をしなかったから知らなかったが……まさかの四人とも家系がハレルヤ王国と関係していたのだ。
「ただの偶然……なのか? 俺はそもそも先祖のことは何も知らないから分からないけど……」
「私も同じよ。とくに興味もなかったから把握してないわ」
「僕とカグラは……親のことすら知らないからなあ」
「うん。もう調べる術もないしね」
テンドウとセイカについては詳細不明だ。
またガガクとカグラも早くに親を亡くしているため、こちらもハレルヤ王国との繋がりは分からない。
「……私の直系にはいないね。ただ遠い親戚にいたという話は聞いたことがあるよ」
残るスズランは四人と比べると関連性は薄いが一応、いるにはいるとのことだ。
こうなると転移事故に遭った不運を偶然と片づけるには……少し無理があるかもしれない。
(……どうなっているんだ? せっかく城の謎が一つ解けたと思った矢先に……)
きっかけはまさかの十人目の被害者、ヒュウガの何気ない一言から。
テンドウで約五カ月。最古参のムウマ、ネゾウ、スズラン、ヨシくんで約七カ月。
もう慣れた長い亡都生活で――また新たな謎が生まれてしまうのだった。




