第二十四話 南瓜の乱入
「あ、アイツ!? 何でこんなところにいるんだよ!?」
南の南瓜頭族ファミリーの乱入。その数およそ三十体。
小さな南瓜な頭のアンデッドたちを見て、テンドウだけでなくこの場にいる全員が驚いていた。
彼らは以前、城まで来て同盟を持ちかけてきたファミリーだ。
その時は即答で話を断り、しょんぼりと帰っていったはずなのだが……なぜかここで再び登場したのである。
「同盟を結びたいならちゃんと行動で示して納得してもらうしかない! ――ってパンドラの責任者が言ってたからな! ……というわけで混ぜてください!」
また叫んだドンチンも扇状の階段を駆け下りて戦場へ。
三十もの子供のように小さな南瓜頭族が、それぞれに散らばって交戦状態に入っていく。
……どうやら本当に援軍に来たらしい。しかも以前よりも数が増えた、ファミリー全員が揃った状態で。
(おいちょ、アイツら……! 本気じゃないか!?)
だがテンドウたち人間は喜びよりも心配してしまう。
また敵対する側となる亡霊族たちに関しては、不敵な笑みを浮かべている。
それもそのはず、彼らは亡都ヤマトニアでも弱小中の弱小ファミリーなのだ。
その可愛らしい見た目も相まって、殺し合いというよりも祭り(?)の様相といった方がしっくりくるか。
苦しい戦場に差した光は弱すぎる光で、数こそ多いが戦力的には大した積み上げにはならない。
実際、亡霊族が振るった霊体の爪を受けて、生命力を削られて成す術なく殺られてしまって――。
「ん!?」
ベニムラサキと対峙しながら、横目で確認していたテンドウは驚愕する。
なぜなら完璧な一撃を頭部に喰らったと思いきや、その個体はすぐに立ち上がったからだ。
しかも一切のふらつきもなく、ピンピンとした様子で。
頭に喰らった箇所を手で擦りながら平然としていたのだ。
……想像以上の石頭、いや頑丈さである。
しかも純粋な物理攻撃ではなく、生命力を削るという特殊な一撃に対しても硬いとは驚きだった。
「ていやッ――ぐおッ!? ……何のこれしき!」
すぐに反撃に転じるが、またも霊体の一撃であっさり返されるのを見ても、攻撃に関しては絶望的ではあるが……。
またもすぐに起き上がって反撃に向かうなど、防御(と気合い)は相当なものだ。
――つまり、敵からすれば脅威ではなくとも邪魔ではある。
その恩恵を最も受けたのは、ほかでもない最も窮地に追い込まれていたヨシくんだった。
「ついカッコつけてテンドウを行かせたけど……! おっさん、だいぶギリギリだったから助かるぞ、カボチャくんたち!」
「いえいえ、何のこれしきですハイ!」
「同盟のためにはいくらでも引き受けるであるな!」
屈強かつ影の魔法を使う亜人亡霊族と戦うヨシくんのもとには、五体の南瓜頭族が。
同じくガガクの方にも五体が加わり、重要となる主要配下との戦いはどちらも六対一の構図となる。
残る個体は会場いっぱいに散らばってそれぞれが各個戦う流れだ。
ただ舞台上にいるベニムラサキはさすがに無理と判断したのか、テンドウとの一騎打ちは変わっていない。
「――で、お前は俺に手を貸してくれるってわけか」
「フッ、ありがたく思え丸坊主。感謝の言葉は後で聞いてやるぞ。……共闘よろしくお願いします!」
そして、頭であるドンチンはムウマのところへ。
まだ二十体以上残っている亡霊族の半分近く、計九体もの注意を引くことに成功している。
「あ、そうだ。魔力回復薬も持ってきてやったから受け取れ! ……どうぞどうぞ」
「いいのか? 一応、俺たちも用意してるが……高えだろこれ」
「男に二言はない。それに同盟のための賄賂だ! ……本当にどうぞどうぞ」
「ハハッ、ならありがたく頂くぜ!」
ドンチンから魔力回復薬を受け取り、ムウマは二人並んで亡霊族の群れに立ち向かう。
ほかの戦場を見回しても、押されていた流れを押し返すほどまでには至っていない。
だがドンチンたちが加わったことで、明らかに戦いは安定していた。
「おのれ! 最下級のアンデッドの分際で邪魔を……!」
「まあ許してやれよ。……こっちには誰も割り込んでいないんだしな!」
怒るベニムラサキに今度はテンドウが笑う。
そのテンドウは心の中で南瓜頭族ファミリーに感謝しつつ、目の前の敵に向けて青い炎太刀を構えた。
強力なベニムラサキ個人軍に抗う、人間および弱小のアンデッドたち。
花畑の一件で勃発した抗争は、新たな局面へと向かうのだった。
◆
どこもかしこも苛烈さを増した戦場にて。
階段席のちょうど中段あたりで、誰よりも激しい汗を流し、呼吸も乱れてお気に入りのハンチング帽を落としても――気にせず戦い続ける男がいた。
(慌てるな俺! おっさんが欲を出して攻めたら手痛い反撃であの世行きだぞ!)
自身の武器である竹弓を握り、ヨシくんは四十歳の体に鞭を打ち続ける。
南瓜頭族たちとの共闘で楽になってはいるが、決して余裕がある状態とは言えない。
【電電矢】による痺れでの足止め作戦に変更はなし。
威力に勝る【迅雷矢】でダメージを与えたいのは山々だが、発動までに少しの溜めが必要になるのだ。
ほかの亡霊族が相手だったなら、それは大した問題にはならないだろう。
ただ亜人型ゆえか、全身鎧であっても機動力に優れる目の前の主要配下。
かつ近接タイプでもあるこの強敵相手には、少しの溜め時間でもリスクが高すぎるのだ。
「これしきの戦力で我らを止められると思うな! ベニムラサキ様の勝利は揺るがんぞ!」
その亜人亡霊族の一体であるルイゴが叫ぶ。
足元の南瓜頭族を鬱陶しそうに蹴飛ばすと、荒々しく金棒を振るってもう一体を弾き飛ばす。
さらに立て続けに発動された【影踏み槍】。
下から襲う刺突攻撃を、ヨシくんは大きく後退するように回避した。
「【電電矢】!」
と同時に反撃の魔法を空中で放つ。
【必中射撃】の恩恵もあり、体勢が崩れていても命中率に関係はない。
脚甲の隙間に見える半霊体な右脚に、電撃の弓矢がストンと突き刺さった。
「おのれ、鬱陶しい痺れを……ッ!」
「「【頭突攻】!」」
足止めの矢を受けたルイゴの半霊体な体が一瞬、痺れて止まると同時。
隙を見逃さなかった二体の南瓜頭族が跳躍して頭から突っ込んだ。
タイミング的には完璧な一撃だった。……ただ残念ながらダメージを与えるには至らない。
いくら頭が硬くても低い身体能力で勢いが弱すぎたのだ。
また属性を纏わない純粋な物理攻撃でもあったために、半霊体とはいえ屈強かつ全身鎧なルイゴにはダメージが通っていない。
――が、ここでとある奇跡が起きた。
同時に飛んだ南瓜頭族のうちの一体。
彼の方だけ攻撃を終えてなお、なぜかルイゴの顔にくっついたままになっていたのだ。
「あれ!? 何か僕だけ奇妙なことになっているですハイ!?」
殺し合いの最中とは思えないあまりに滑稽な光景――。その原因はくり抜かれた南瓜の目の部分だ。
ファミリーの中でもとくに大きな目を持つ彼のそれが、ルイゴの兜の角部分に引っかかったことで、
南瓜な頭と纏うマントの体で……ちょうど目隠しをする格好になっていたのだ。
それすなわち、かつてない大きな隙が生まれたことを意味していた。
(――ここだ!)
そんな奇跡をヨシくんは見逃さない。
ルイゴが鬱陶しそうに南瓜頭族の頭を掴み、地面に叩きつけようとした瞬間。
満を持して放たれたのは、手持ちの魔法で最大火力の【迅雷矢】だ。
ヨシくんの指先から離れたそれは、兜に隠れていないルイゴの顎を射抜く――ことはなかった。
放たれた電撃の矢は目の前の強敵ではなく、まったく違う方向へと飛んでいったのだ。
「フン、手元が狂ったか! 絶好の好機にどこを狙っている!?」
「……悪いな。最初から狙いはお前なんかじゃないんでね!」
「何!?」
ニヤリと笑ったヨシくんの視線の先。
そこには抗争が始まってからずっと捕まっていた、舞台上で跪かされているカグラの姿があったのだが――。
バキィン! と。
カグラを拘束していた手錠が電撃の矢に射抜かれて――その小さな手は自由となっていた。
「弓矢の数の増加とか威力の底上げとか。派手で分かりやすい方がいいと思っていたけど……! 精密系の『特異体質』で本当に助かったぞ!」
捕まっていたカグラの解放。それこそがヨシ君の狙いだった。
ただ単に仲間を助けるという意味だけではない。
カグラはガガクと同じく、テンドウに次ぐ人間ファミリーの戦力、言わば幹部なのだから。
そんな重要戦力だからこそ、必中距離である五十メートル以内に入るために。
最も有利な階段席の最上段ではなく、囲まれるリスクもある中段付近で戦っていたのだ。
「カグラ! 早速で悪いけど手伝ってもらえるか!?」
「もちろん! 助かったよ、ヨシくん!」
自由になった手で猿轡を外し、カグラが力強い声で答える。
さらに手に風を纏わせた【風流刀】を発動。足と柱を繋げていた鎖を断ち切ると、カグラは大将二人が交戦している舞台上から飛び下りた。
そして、矢に続いてヨシくんが放り投げていた片手剣。
カグラの解放後を想定して城から持参していたそれを、ひょい、と拾い上げてから。
即座に【追い風】を発動して、流れる風のごとく階段を駆け上がる。
そのカグラが真っ先に向かった先はもちろん――。
「お待たせ! コイツは私に任せて!」
「ははっ。その頼もしい言葉を待っていたぞ、カグラ姉さん!」
九歳児に強敵を任せることに罪悪感がないと言えばウソになる。
だがカグラの成長とその実力を知っているからこそ、ヨシくんはテンドウから受けたバトンをカグラに渡した。
そんな大役を終えたヨシくんが、ムウマやドンチンを狙うほかの下っ端亡霊族の群れに向かったのを見届けた後。
剣に風の【属性付与】を付与したカグラは、体の後ろに剣を隠した、独特な脇構えとなって対峙する。
「……もう二度と隙は与えないから。また私を捕まえられると思わないでね!」
「フン、言われなくてもそのつもりはない。……今度は小娘、貴様の息の根を止めるのだからな!」
敵意を乗せた言葉を交わし、次に交わったのは互いの刃。
戦場のあちこちでは戦闘と破壊の音が繰り返され、抗争は激化の一途を辿っている。
戦いの果てに勝つのは人と南瓜か、亡霊か。
カグラが解放されたことにより――ついに全戦力が揃った総力戦が始まった。




