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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第一章 暗澹の貴族街編
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第十四話 種族感知

 引き続き付与を積み重ねて訓練に励む日々。

 脱出への鍵を握る主戦力のテンドウを城に残して、貴族街の東側に足を運んでいたのは丸坊主の男――調査担当のムウマだ。


 いつものように【魔力感知】を展開したまま、風属性の【追い風】も駆使して街中を進んでいる。


はやきこと風のごとくっ!」

「コラ調子に乗らないの! 戦闘以外ではムウマの前には出ない、って約束でしょ!」


 ただし、今回は一人ではない。

 一緒にいるのは赤毛の双子兄妹、九歳児のガガクとカグラだ。


 二人もまた【追い風】を発動して機動力を上げて、ムウマとともに死と隣り合わせの貴族街を走っていた。


「ははっ。もう自分のモンにしてやがるな!」


 そんな二人を見て珍しくムウマが笑う。

 この魔法を教えたのはほかでもないムウマ本人である。

 同じ風属性に適正があったため、教えてみたところ一日で習得してしまったのだ。


 ……しかも現在はムウマ以上に使いこなしている。

 走りだけでなく戦闘での動きにも転用し、すべてにおいて速度が上昇していた。


「「――フゥッ!」」


 と、テンドウを真似た呼吸で邪魔な植物系のアンデッド、黒薔薇族(ローズネロ)を切りつける二人。

 風が付与された片手剣で正確に根元から切り裂き、【不死族喰らい(アンデッド・イーター)】によって魔力の残滓を吸収する。


 その戦闘力はすでに、ヒノモト王国軍兵士の平均レベルに達している――というのがテンドウ評だ。

 一発の威力や、中立域パンドラでまだ完成していない防具面など足りない部分はある。

 だとしても大人顔負けの、とても九歳児で収まるような力ではないのだ。


(マジでどこまで伸びるのやら……。テンドウといい、『特異体質』ってのは笑っちまうほどスゲえぜ)


 遥か年下に頼もしさと恐ろしさを覚えつつ、ムウマは索敵と調査を続ける。


 目的はもちろん有用な装備や物資調達のためだ。

 とくに魔力回復薬などは百年経っても劣化しないため、ぜひ見つけて手に入れておきたい。

 一応、装備も含めてパンドラでも手には入るが……必要なものすべてを物々交換するのは現実的ではないのだ。


 ゆえに目ぼしい建物を見つけるべく、リスク承知で大通りを進んでいく。

 いつもと違う方角であっても、肌に纏わりつく湿ったような魔力を含む空気はまったく同じだ。

……やはりこの街を出ない限り、この独特で嫌な空気からは逃れられないと改めて思い知らされる。


「ッ!? ――まずい。一旦、止まるぞお前ら!」


 と、ここで先頭のムウマからストップがかかった。

 その慌てた声と様子に異変を感じたガガクとカグラは、すぐさま脚を止めて建物の壁際で待機することに。


 そして訪れた不安を煽る静けさの中、ムウマたちの耳に聞こえてきたのは――。


「だーるまさんがー、こーろんだー」


 貴族街に響く不気味すぎる声。

 弱弱しくもやけに通るかすれたようなその声は、ムウマたちの前方から聞こえてくる。


 ……少し霧が出ているため姿はまだ確認できない。

 それでもムウマたちは隠れる行動を取らずに一切の動きを止めていた。


「(……アイツはヤベえからな。お前ら絶対に、指一本たりとも動かすなよ?)」

「(お、おうっ)」

「(うん)」


 小声でやりとりをして、息を殺すようにその場に待機。

 そんな中で不気味な声は同じセリフを繰り返しながら、段々とムウマたちの方に近づいてくる。


 そして現れたのは――『車椅子の老婆』だ。

 中立域パンドラで重要な情報の一つとして聞いていた、亡都ヤマトニアにいる恐ろしい存在の一体である。


 名前の通りに姿形は車椅子に座った老婆だ。

 青い頭巾を被った骨人族(スケルトン)系のアンデッドで、ずっと同じリズムで「だるまさんがころんだ」と口にしている。


(……ったく、ツイてねえな。『三大ファミリー』を除けば一番会いたくねえ相手だぜ……)


 遭遇した『車椅子の老婆』を見ながらムウマは冷や汗をかく。

 動かなければ安全とはいえ、精神的にかなりの緊張を強いられてしまう。


 ――理由は単純明快、見た目通りに恐ろしすぎる存在だからだ。


 いわゆる強個体の『はぐれ』であり強くはある。

 ただ『三大ファミリー』の幹部クラスほどではない。

 今のガガクとカグラではまだ厳しいが、青い炎刀の頃のテンドウなら勝てる相手だ。


 ……だとしても、絶対に戦ってはいけない。

 それは亡都で最強とうたわれる『不死の三傑』も例外ではなかった。


 もし交戦して勝利したとしても、己の力を何割か持っていかれる。


 変則的な道連れのような形の弱体化――。

 決して逃れられない強制的なデメリットを押しつけられるため、戦ってもいいことは何一つないのだ。


(おまけに討伐しても一月後には復活する永遠の命。……ある意味、あの婆さんが一番ヤベえアンデッドかもな)


 そんな恐怖の存在をやり過ごすムウマたち。

 幸い動かなければ害はないが、監視の範囲までは不明なため迂闊には動けない。


 ――――――…………。


 体感では十分ほど、実際の時間では三分弱。

 石畳の上でカタカタと揺れながらゆっくりと進んでいった車体――。ようやく霧の向こうに『車椅子の老婆』が消えたのを確認して、短くも長い待機時間を終えたムウマたちは揃って息を吐いた。


「……危なかったぜ。あまり生きた心地がしなかったな」

「ほかのアンデッドと比べてもっ……明らかに異質だったぞ、あのお婆さん」

「でもムウマよく分かったね? 霧の中で姿も声も確認できなかったのに」


 緊張と恐怖のせいで気づけば唇が渇いていた三人。

 無意識にその唇を舐めて湿らせながら、そうムウマに聞いたのはカグラの方だ。


「ま、そりゃ種族まで把握してたからな。不明族(アンノウン)なんざほかにいねえし……索敵範囲に入った瞬間に分かったぜ」

「……えっ、魔力だけじゃなかったのか?」

「しゅ、種族まで……?」


 ムウマの返答にガガクとカグラが揃ってポカンとする。

 さらに兄妹二人して顔を見合わせて……また周囲に変な静寂が訪れることに。


「……何だお前ら。急に黙ってどうしたよ?」

「いやだって……。なあムウマっ、種族まで分かるって……それっていつからだ?」

「あん? つい二日前からだぜ。毎日毎日使ってたからか、俺の【魔力感知】もかなりの精度になってきたってわけだ」

「精度……? うーん、でも……」


 ムウマの返答にまたもガガクとカグラが顔を見合わせる。

 さらに二人して何かを考え始めたと思ったら、目を見開いたまま何度も大きく頷いた。


 ――そして兄妹仲よく揃って一言、


「「それって『特異体質』でしょ!」」



  ◆



『特異体質』。


 それは千人に一人の確率で現れるという摩訶不思議な力で、天からの贈り物(ギフト)と呼ばれている。

 そんな常識はムウマも知っているからこそ――二人の言葉に首を横に振った。


「はあ? ……あり得ねえだろ。もしそうなら転移事故の被害者八人中、半分の四人が『特異体質』持ちっつう異常事態になるぜ?」

「でも、テンドウが言ってたのと同じだぞっ。僕たちが発現した後に『特異体質』について聞いた時……なあカグラ?」

「うん。過去に【魔力感知】の魔法の上位互換となる、【種族感知(モンスター・サーチ)】っていう『特異体質』の人がいたって」

「……は? マジかそれ?」


 まさかの過去の事例を引っ張り出されて、急に信憑性が帯びた情報にムウマは驚いてしまう。


 確率的にはまずあり得ないことだ。

 流行り病でもあるまいし、そうホイホイと発現した者が現れるはずはないのだが……。


 たしかによくよく考えてみれば、逆に【魔力感知】で種族まで把握できた者がいたという事例は……一度も聞いたことがない。


「じゃあマジで俺も? いやでもさすがにおかしいぜ。……まさかこの亡都に何か秘密でもありやがるのか?」


 一転してムウマは混乱してしまう。

『特異体質』はいつ誰に発現するかは分からない。幼いころに発現する者もいれば、年老いてから発現する者まで様々だ。


 だが、こうも亡都で連続で発現したとなれば……運の一言で片づけるのは無理がありすぎる。

 世界で最も特異と呼べる場所ならば、普通ではない特異な現象が頻発する……のだろうか?


(何が何やら……。もうワケが分からねえぜ)


 ――とにもかくにも、謎すぎるうえにノーヒントで考えても埒が明かないので。

 一旦、この件については棚上げして、ムウマは本来の目的である調査と物資調達に戻ることに。

 引き続き貴族街の東を霧に紛れて進み、何かしら役立つものを入手したいところだ。


「――っと。こりゃまた予想外な……今日は怒涛の一日すぎるぜ」


 そんな中、ムウマたちの視界に入ってきたのは鮮やかな景色だった。


 赤、青、黄色、白に紫――。

 亡者の街によく似合う黒や灰色ではない。一面に広がっていた花壇と呼ぶには広すぎる花畑が、アンデッドだらけの亡都の中に存在していたのだ。


「うわあ! なんだこりゃっ」

「この世の地獄に咲く花々があるなんて……」

「キレイではあるが……場違い感がスゲえな」


 その予想外すぎる光景に呆気に取られる三人。

 陰鬱な亡都に咲き乱れた花畑は、例えるなら砂漠のオアシスのような場所だった。


 ただ詳しい者がよく観察すれば……ここがただの美しい花畑ではないと気づくだろう。


 香水に使える花や解毒に使える花、食用可能な花に麻薬の原料となる花まで。

 明らかに目で楽しむ以外の目的を持つ花々だけが群生していたのだ。


「……なるほどな。だから邪魔な守護者がいやがるってわけだ」


 物陰からのぞくムウマたちの視線の先、美しい花畑の中にはアンデッドが存在していた。


 人骨と獣骨が混ざった異形の骨人族(スケルトン)が二体。

 明らかに通常種よりも上位の個体が、まるで守護者のように花畑を巡回している。


……正直、成長した今のガガクとカグラでも厳しい相手だ。

 ムウマたちとしてはぜひ入手したい花はいくつもある。それでも欲望のままに今すぐ手を出すほどバカではない。


「ま、今回は大人しく諦めるしかねえな。……けどよ、そう遠くねえ未来にまた来させてもらうぜ?」

「首を洗って待ってろよ、ガイコツ二人組っ!」

「時間は私たちの味方だからね」


 そう言い残して、早々と進路を変えるムウマたち一行。

 いずれ必ず手に入れることを決意しながら、ほかの場所の調査を続けていく。


 彼らがもう一人を加えて再び訪れた時――花畑を巡る人間対骨人族(スケルトン)の守護者の戦いは始まることになる。

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