第十三話 訪問者たち
「――やい人間ども! さっさと扉を開けて出てきやがれ! ……おはようございます!」
一からの付与が始まってから数日が経過した頃。
食堂で朝食を食べていたテンドウたちの耳に、そんな外からの誰かの声が届いてきた。
「な、何だ? こんな朝っぱらから……」
「……訪問者? でもここは亡都ヤマトニアよ?」
「チッ、めんどくせえな。まさかのアンデッドのカチ込みかよ」
突然、聞こえたその声を受けて、皆が一斉に食事の手を止めて顔を見合わせる。
どこの誰かは知らないが、確実に言えるのはアンデッドだということだ。
人間とは敵対する存在であるため、わざわざ答えて対応してやる必要などないだろう。
そもそも今は亡都生活で最も楽しみな食事タイムなのだ。
そんなわけで無視を決め込んで食事に戻ったのだが……テンドウたちを呼ぶ声は止まる気配がなかった。
「おいコラ無視すんじゃねえ! 出てこいや! ……おはようございます!」
「食事中なのは分かってるのですハイ!」
「さっきからイイ匂いが漂ってきているのであるな!」
……むしろ声は大きくなる一方だ。
叫ぶ人数も徐々に増えて、人間人間! とちょっとした合唱状態になってしまう。
「ったく、しつこいな。――ああもう仕方ないな!」
結果、根負けしたのは人間たちの方だった。
美味しくて温かいスズランが作った食事を一旦中止して、皆で食堂を出て城の外へ。
敷地内であれば安全で攻撃すら届かないため、セイカやスズランやネゾウら非戦闘組が一緒でも心配はない。
そうして少し霧が出ている朝の敷地内を進むと、迷惑な者達の姿が見えてくる。
半壊状態でも不思議な力で入れない石門の向こうに――十数体ほどのアンデッドのファミリーがいた。
「あ、やっと出てきやがったな。まったく客人を待たせやがって! ……改めておはようございます!」
「お、おぉん……?」
その元気な声の主の姿を確認して、先頭にいたテンドウは戸惑ってしまう。
体長はわずか六十センチほど。小さな深緑色のマントを纏い、そこから出ている腕や足は亡霊族系のようだが……何より驚きだったのはその頭だ。
南瓜をくり抜いて作ったオバケみたいな顔は、西方の国々で見られるアレに酷似している。
またよく見てみると、くり抜かれた形の表情が一体一体違っており、それぞれに個性が存在していた。
「……あら何だい。ずいぶんと可愛らしい子たちだね」
「南瓜頭族か。こりゃ想定外だぜ」
まるで子供を見るような目のスズランと、珍しいものを見たような目のムウマ。
どうやらムウマだけは正体を知っているようで、テンドウたちが気になって聞いてみたところ、
彼らは南瓜頭族という亡都固有種のアンデッドらしい。
ただ弱小も弱小であるため、どのファミリーも眼中にはないようだ。
基本は放っておかれて、機嫌が悪い時に気晴らしで虐げられるだけ、という悲しい存在である。
対して、力なき小さな彼らがすることと言えば、地味なイタズラだ。
抗争をする力はとてもないため、せめてもの対抗としてイタズラし返すらしい。
「――ってのがパンドラのヤツらから得た情報だぜ。亡都のアンデッドとは思えねえほど弱えらしい」
「おいコラ、クソ坊主聞こえたぞこの野郎! ……否定はできません」
ムウマの発言に抗議するも事実だと認める南瓜頭族。
そのファミリーの頭らしき個体はオホン! とせき払いをすると、急に両手を腰に当てて胸を張った。
「じゃあ改めて。我が名はドンチン。南瓜頭族ファミリーの頭だ! ……よろしくお願いします」
「あ、ああ。まあ、よろしく?」
強気なのに礼儀正しさも残るちぐはぐな印象を受けて、さらに戸惑うテンドウたち。
とりあえず敵意や殺意はまったく感じないが……一応はアンデッドなので警戒心は解かない。
「よし、じゃあ本題に入るぞ。耳をかっぽじってよく聞け人間ども! 単刀直入に言えば――オイラたちと同盟を組め! ……というご相談です」
「……はい? 同盟だと?」
一瞬、耳を疑うもたしかに聞こえた同盟という言葉。
さらに戸惑うテンドウが視線で聞き返すと、ドンチンは南瓜な頭でうんうん、と頷いた。
「そうだ同盟だ。この亡都で死にたくねえなら組んでやってもいいぞ! ……というこちらからの提案です」
「「「「…………、」」」」
まさかの同盟の申し出にテンドウたち全員が黙ってしまう。
アンデッドの口から出た予想外すぎる言葉は、人間たちに衝撃を与えるには充分なものだった。
――――…………。
そこから流れたしばしの沈黙。
テンドウたち人間は顔を寄せ合い、霧に包まれた朝の中でヒソヒソと緊急会議を行うことになって――。
「いや断る。というか嫌だぞ。……さっさとお引き取りください」
割と早めに出た結論を代表してテンドウが言う。
もちろん戦力は欲しくはあり、多いに越したことはない。
何せこれから脱出する予定の舞台は、世界で最も危険な地とされる亡都ヤマトニアなのだ。
今日も今日とて朝だというのに空気は淀んで清々しさなど皆無。
それは街の中心から離れるほどに濃く強くなっていくのも知っている。
……だとしても、である。
相手はアンデッド、魔物なのだ。さすがに種族の壁を越えるほどの信用などできるはずがない。
唯一、例外があるとすれば、平等に取引をしてくれるパンドラの住人たちくらいだろう。
「な、何でだ! 悪い話じゃねえだろ!? ……もう一度、ぜひ考え直してください」
「だって仕方ないだろ。お前ら魔物なんだし」
「あと弱いんだろ? それにチビじゃんかっ」
「大きくて壁になれるなら別だけど、弱くてちっちゃいとなると……ね」
「んだとコラそこの赤毛のガキども! お前らだってチビじゃねえか! ……たしかにオイラたちの方が小さいです」
ガガクとカグラの言葉に怒るも、ドンチンは弱いという部分に関しては否定しない。
そこは彼らも自覚があるようだ。やはり打算的に考えても、あまり戦力としては期待できないだろう。
弱くても背中に乗れる種族なら移動で役に立つのだろうが……このサイズでは逆にテンドウたちがおんぶする側だ。
「とにかくほら、帰った帰った。この話はもう終わりだ」
「ぐ、ぐぬぬぬぅ……!」
そう言ってドンチンたち南瓜頭族ファミリーを追い返す。
一方、彼らはもっと怒ったり粘ったりするかと思ったが……さっきまでの威勢はどこへやら、皆がしょんぼりとしている。
「頭、帰るのですハイ……」
「やはり断られてしまったのであるな……」
そしてとぼとぼと帰っていく小さな南瓜な頭のアンデッドたち。
その体格の小ささも相まってか、大の大人たちが子供たちに意地悪をした感じに見えなくもない。
「……あれ、おかしいな? 何か俺らが悪いことをしたみたいな気がするぞ?」
「まあでも、いきなり同盟なんか結べないしね。仕方ないわよ」
「ほかのファミリーに気をつけて帰るんだよー! あとご飯だけなら食べにきてもいいからねえ!」
肝っ玉母ちゃんのスズランが優しさを見せる中、皆でドンチンたちの背中を見送る。
薄気味悪い亡都の霧の向こうに消えていくのを見ていると、相手はアンデッドながらなぜか心配になってしまうが……。
まあ、今日まで生き抜いてきているのだから、きっと大丈夫だろう。
「何かこの街……死んでいるわりに色々とありすぎるよな?」
――とにもかくにも、こうして人間とアンデッドの『異種族間同盟』の話は破談となった。
テンドウたちは妙な罪悪感を覚えながらも、城の中に戻って朝食を再開するのであった。




