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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
第一章 暗澹の貴族街編
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第十一話 連戦

 休む間もなく始まったテンドウの第二戦。

 包帯人族(マミー)かしらの影から現れた次の頭、ブンサイとの連戦に入ってしまう。


「さあ、どうした人間! 死にたくないならしっかりと踏ん張れ!」

「くッ……!」


 開始早々、剛腕からの連打によって青い炎刀のガードごと吹っ飛ばされる。

 テンドウの体はその勢いのまま、開け放たれていた扉から軍宿舎の中へと転がり込んだ。


 その扉の内側、入口近くには積まれた机や椅子が散乱していた。

 おそらくは百年前の大規模発生(スタンピード)の際、篭城のために築いたバリケードの名残か何かだろう。

 破損や返り血も生々しく残っており、堅牢な軍宿舎も被害は免れなかったようだ。


「吹っ飛ばされておいて悠長に内見か? 欲しいなら力づくで手に入れてみるがいい」

「……へっ、言われなくてもそのつもりだ。思った通りのしっかりとした造りだから、改めて奪いたくなるな!」


 すぐさま立ち上がり、テンドウは強い声と表情で言う。

 とはいえ、額から大量の汗が流れているのを見ても……あまり余裕はない。


 前の頭、ゴンサイ戦でのトドメの連撃の影響でまだ完全に息が整っていないのだ。

 疲労も脚を中心に溜まっており、変わらず元気なのはごうごうと燃える青い炎刀だけである。


(一体目に全力を注いだのが裏目に出たか? 二体目がいるなら少し温存すればよかったか……!)


 そう後悔するも時すでに遅し。

 こちらの都合などお構いなしにブンサイは猛攻を仕掛けてくる。

 威力も回転力もある小さな竜巻のような左右の拳を、回避や炎刀での受け流しで何とか防いでいく。


 ――激しく交戦する中で分かったのは、やはり戦闘力的にはゴンサイとまったく同じということだ。

 硬化および肥大化した拳で殴り合うスタイルも変わっていない。

 衝突の度に飛び散る魔力も火花も衝撃も――まるでデジャヴのような光景だ。


「すべてにおいて瓜二つだな。言いたくないけど……最初から二体がかりだったら俺は負けていたぞ?」

「フン。残念ながら俺らは同時に出られないからな。どちらかが常に影の中にいなければならないのさ」

「……なるほど、それは助かったな。けど正直、双子なら片割れが死んだ時に残った方も成仏してほしかったぞ!」


 叫び、テンドウは反撃に転じる。

 受け続けてもジリ貧なだけだと判断し、多少は無理をしてでも攻めにいく。


 逆袈裟斬りから繋げた自然な斬撃の流れに――虚を突くように混ぜて放つのは刺突だ。

 刀はあまり突きでの攻撃に向かないが、五十回分の炎が重なっていれば威力の心配はない。


「ッ! 忌々しい炎め……!」


 その突きがブンサイの頬を掠める。

 通常ならわずかな切り傷ができるところを、強力な青い炎が焼いたことで軽くはない火傷を負わせた。


 疲労はしていても掠りさえすればダメージは通る。

 問題はトドメを刺す前にテンドウが一撃を貰わないかどうかだ。


 軍宿舎内での戦いは、両者とも一発の恐怖を持ちながらの一戦である。

 それでも互いの戦闘スタイルゆえに、危険な接近戦となるのは免れない。


 弾き、防がれ、回避され、相殺される。

 常に一歩で詰まる間合いの中で――流れを手にしたのは刀ではなく拳の方だった。


「がはッ!?」


 鮮やかに決まってしまったブンサイの右の突き上げ。

 みぞおち部分に一撃を受けたテンドウは、その衝撃で壁際まで吹き飛ばされて激突してしまう。


(く……まずったな。少し強引すぎたか……!)


 深追いしすぎた追撃からの反撃の一発。

 防具がなければ間違いなく死んでいたその一撃にテンドウは冷や汗をかく。

 高い防御力のおかげでダメージは軽減されているも、鈍く重い痛みは体まで届いていた。


「……『魔砂護(まさご)銅具足』か。パンドラのヤツらめ、まさか人間とも商売をするとはな!」


 包帯の下に見える釣り上がった目でブンサイが睨む。

 一撃を受けても膝はついていないテンドウに対して、全身包帯の体がズンズンと距離を詰めてきた。


 すでに青い炎による大火傷は何カ所も負っている。

 焼失した包帯部分の下の肉は焼け爛れ、多少なりとも動きに支障はあるはずだ。

 それでもまだ、もう一体の包帯人族(マミー)の頭は止まってはくれない。


「――【電電矢(でんでんや)】!」


 と、テンドウのピンチにここで第三者の介入が。


 竹弓を持ったハンチング帽を被ったおっさん――ヨシくんだ。

 軍宿舎を囲う壁の上から狙撃していた仲間は、リスク承知で敷地内に下りて軍宿舎の扉の前に立っていた。


 そして放たれた雷属性の一本の弓矢。

 後方から不意を突かれる形となったブンサイの右肩に、電撃で形づくられた矢が突き刺さっている。


「チィ! 痺れ狙いの足止め魔法か!」

「悪く思うなよ。こっちもおっさん含めてファミリーで戦っているのさ!」


 ほんのわずかな間の硬直。ヨシくんが作ったその隙をテンドウが逃すはずがない。


 まだ痛みが残る体に鞭を打って放つ一振り。

 すり抜けるように放たれた青い炎の斬撃は、ブンサイの左肩口から腰までを切り裂いた。


「ぐッ! まだまだァ!」

「何!?」


 致命傷となりうる直撃を受けてなお、ブンサイは倒れない。

 それどころか、斬られてもお構いなしとばかりに即座に反転。背後にいたテンドウへ再びカウンターを狙ってくる。


 ――肉を切らせて骨を断つ。その想定外の動きにテンドウの回避は間に合わない。


「させるかっ!」

「させない!」


 だが、ブンサイの拳が届くことはなかった。

 その前に放たれた二つの風の刃が、包帯が巻かれた首に直撃したからだ。


 ヨシくんに続いてガガクとカグラの合流である。

 どうやら配下の包帯人族(マミー)はすべて片づけたらしく、テンドウの援護に間に合ったようだ。


(……助かった。いや本当に情けない……俺もまだまだだな!)


 仲間への感謝と心強さと、自身への不甲斐なさと。

 様々な感情を味わったテンドウは、また動きが止まっているブンサイに攻撃を仕掛ける。


「――フゥッ!」


 低い姿勢からの逆袈裟斬りを一閃。

 激しい血飛沫が飛ぶとほぼ同時、包帯に包まれた全身が傷口から燃え上がった。


「ふざ、けるな……! 何者でもなかった人間の時とは違う。たとえ一人になろうとも――必ず、この街で、俺は成り上がるゥウウウウ!」


 ――それでもまだ終わらない。

 全身が青い炎に燃えたまま、ブンサイはまたも突っ込んでくる。


「コイツ……!」


 ここでテンドウはカン違いをしていたことに気づいた。

 一体目の頭、ゴンサイとすべてが同じ個体だと思っていたが……心に宿した執念はブンサイの方が遥かに強い、と。


 だとしても、その執念に飲み込まれるわけにはいかない。

 素早く真横に移動して、炎上したまま突撃してきた攻撃を回避。

 右側に回り込む形になると同時、青い炎刀を横薙ぎに振るう。


 そして響いた切断音。

 炎上と硬化した胴体を断ち切り、包帯に包まれた上半身と下半身が二つに分かれる。


「今度こそ……討伐完了、だ」


 二つに分かれた体が崩れ落ち、ブンサイはついに力尽きた。

 まだ燃え続けているその光景を確認して、テンドウ、ガガク、カグラ、ムウマ、ヨシくんたちの五人は安堵の息を吐く。


 初となるファミリーとの抗争は人間ファミリーの勝利だ。

 そんな大切な勝利以上に、誰一人として欠けなかったことに全員が安堵していた。


 激しかった戦闘音は消え去り、死体が燃える音だけが静かに流れていたのも束の間――。


 ――キン――。


 突然、そんな音が軍宿舎内に響き渡った。

 甲高い金属音はテンドウの方から生まれ、さらに続けて何かが落ちる音も響き、皆が一斉に音の発生源に視線を向ける。


「「「「!?」」」」


 ……そして見た。テンドウが握っているはずの青い炎刀、その刀身が。


 ちょうど真ん中辺りから折れる形で、ブンサイの死体のように真っ二つとなり――足元に落ちていたのを。


「な……」


 テンドウの目は見開かれ、口からは細い声が漏れる。

 同じく事態を確認したほかの四人もまた、一点を見つめて固まっている。


 目に映るのは一切の燃焼音も宿す魔力もない、纏う青い炎を失った刀の姿。

 軍宿舎という第二の拠点を奪い取った一方で――肝心要の武器を失ってしまうのだった。

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