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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
最終章 崩壊の亡都編
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第百話 今の仲間とかつての仲間

(あか)の大樹海』での夜が明けた後、『人間・南瓜(かぼちゃ)同盟』およびほかのアンデッドたちも動き出した。

 まだ完全には回復していないジンロウタのみ休息を取る中、それ以外の者たちはそれぞれの仕事に取りかかる。


 ――まずは索敵担当のムウマだ。

 昨日に続いて朝早くから亡都ヤマトニアに入り、阿修羅地蔵が眠って動かない隙を利用して探すのは――『暗殺怪人』ニゴマルである。


 自身の右膝から下を失い、義足となった因縁の相手ではある。

 だが阿修羅地蔵の討伐を行うのならば、呪物を取り込みさらに力を増したこの強者は絶対に戦力として欲しいのが本音だ。


「……さて、本当に生きてやがるのか? そもそもヤツは一切、反応しねえからな。勧誘に成功するしない以前に……まずは見つけねえとだぜ」


 そのニゴマルはご存じの通り、高い隠密能力を持っている。

 ゆえにムウマ自慢の【種族感知(モンスター・サーチ)】でも索敵は不可能。

 足音すらまったくないため、唯一、目立つぶ厚い筋肉と脂肪を纏った青黒い巨体を目視だけで探すしかない。


 ……そもそもまだ亡都の中にいるのかさえ不明だ。

 阿修羅地蔵の影響で、ヤマトニアのアンデッドは南エリアでも激減している。

 とはいえ街の外も含めた広大な捜索範囲から考えても、かなり厳しい捜索活動になることは確実だ。


「――よかった。お前らは無事だったんだなっ!」

「――てっきりあの怪物に踏み潰されたと思って心配してたんだからね!」


 一方、ムウマと同じく亡都ヤマトニアに入っていたのが――ガガクとカグラの赤毛の双子兄妹である。


 二人が引率のロッポウとともにやってきたのは、南エリアにあるバクラ闘牛場だ。

 特徴的な艦船のような巨大建築物は、阿修羅地蔵のせいで一部、破壊されてはいたが……肝心のブツは無事だった。


 すなわち、呪物である。

 相変わらずの嫌な魔力を放つ呪物化した動物の頭蓋骨。

 それは今も楕円形のフィールドの中央に放置されたままであり、多くの木乃伊族(ミイラ)を生み出していた。


「よし、やるぞカグラっ! 樹海の魔物じゃ意味ないからな!」

「私たちの【不死族喰らい(アンデッド・イーター)】の糧となってね!」


 そして何日かぶりに行われる木乃伊族(ミイラ)狩り。

 これまで何度も行ってきたので、二人の成長曲線はすでに緩やかにはなっている。

 それでも狩り場としてはいまだに最も優秀な場所なのだ。


「「【乱風刃(らんぷうじん)】!」」


 息の合った二人の声と魔力が重なった直後、指先から数えきれない風の刃が生まれる。

 新たに覚えた共通の風の中位魔法は、下位魔法の【鎌鼬(かまいたち)】の強化版だ。


 一発の切断力と数が大幅に上昇。

 それによって肉を裂かれる音が一斉に響き、客席と隔たれたフィールド内に鮮血の雨が舞う。


「はっはー! 覚えたてでもこの精度とはなー。やっぱオメーらは相当、センスあるぜ!」


 その魔法攻撃を見て、ロッポウが吸血鬼族(ヴァンパイア)な牙をむき出しに笑う。

 現在のガガクとカグラが使える中位魔法はこれで三つ目だ。

 九歳児という年齢から考えれば偉業も偉業ではあるが……どちらもまったく満足はしていない。


「まだ、もう一つ……っ!」

「魔法には上のステージがあるからね!」


 遠く東エリアに見える眠れる怪物――阿修羅地蔵。

 この規格外なバケモノと戦うのなら、やはり上位魔法の一つは覚えなければ話にならないのだ。

 だが十歳未満で上位魔法を習得した者など、歴史上に一人も存在しない。

 それでも必ずや習得してみせると、ガガクとカグラは固く決意していた。


 ――そんな頼れる仲間たちがいる地上から――数十メートル下。

 の光が届かない地下空間に戻ってきていたのは、人間ファミリーの最大戦力にして阿修羅地蔵討伐の言いだしっぺこと、テンドウである。


「……んじゃ、仕事ついでに片づけるとしますか」

「悪いが頼む。このレベルの相手では俺の錆びた剣ではまったく歯が立たんからな」


 隣にいるゲッコウからの頼みに、テンドウはクロちゃんに騎乗したまま白い炎太刀を抜く。


 ……すでにゲッコウには例の策の話はしてある。

 テンドウから話を聞かされたゲッコウは至極驚いていたものの、有識者として可能ではあると判断。

 結果、テンドウはゲッコウからの協力を取り付けることに成功していた。


 また地下集落ではイマタイらパンドラの住人たちとの再会もあった。

 あの後、阿修羅地蔵から逃れた彼らは地下へと逃げ込み、ちょうどテンドウたちと入れ替わる形で集落に身を寄せていたようだ。


「ギュモォオオオオ……ッ!」


 そんなこんなで色々とあって現在、テンドウが対峙するのは地下のアンデッド――ではない。


 牛鬼族(ミノタウロス)……に近い魔物。

 全身が苔に覆われている見たことのない人獣型の魔物は、おそらく樹海の『はぐれ』個体だと思われる。

 大きな斧を持って鼻息荒く、苔のせいで目元は見えないが、雰囲気からして殺意満々の視線を向けてきているはずだ。


「亡都のアンデッドが減って入ってきたか。でも地上にはアレがいるから……地下を選んだってわけだな?」


 場所は『第五地下街』。

 模倣された亡都の西エリアの一角で、テンドウは馬上にて白い炎太刀を構える。


「よし、やっちまえテンドウ! ……でも油断だけはしないでください」


 その近くの土魔法の建物の陰から、小さな南瓜による応援の声が。


 今回はドンチンも同行してはいるが……肝心の兜化はしていない。

 頼れる相棒を被っての黄金の炎太刀状態こそ、今のテンドウの最強形態とはいえ、だ。


 あまりそれに頼りすぎて腕が鈍るのも嫌なので、必要以上の火力は出さないようにしている。


「――まあ、それでも充分、ヤバイ火力だけどな!」

「ブルルゥゥ――ッ!」


 人馬一体のクロちゃんが踏み込み、テンドウは苔肌牛鬼族(ミノタウロス)に白い炎太刀を振るう。

 敵の振り下ろした斧と正面衝突した愛刀は、種族間にある圧倒的な腕力の差を当然のように覆し――その苔だらけの巨体を灼熱とともに大きく押し返す。


 これまでに積み重ねた火種の数は百三十七回。だが実際の回数と威力には大きな差が出ている。

 赤から青へ、青から白へ。節目節目で炎の色が変わって超強化されたことに加えて、


人間魔力炉マジックパワー・リアクター】。

 新たに発現したセイカの『特異体質』によって、出力が大きく上がった限界突破の付与により、直近二日間の上昇は体感で十五回分ほど一気に上がっている。


(こんなヤバそうな魔物相手に一対一、か。転移事故前は一人で戦うなんて考えられなかったぞ)


 白い炎太刀だけでなく、自分自身の成長を改めて感じながら斬撃を叩き込む。

 流れる水のような『魔道無心流』と、元の剣術を組み合わせた『テンドウオリジナル』。

 師匠のオオダケから免許皆伝を受けたその剣技をもって、苔肌牛鬼族(ミノタウロス)を一方的に攻めていく。


「ギュモ、オォオ……!」


 ――まともな反撃すら許さない。敵はもはや苦し紛れのガードしかできない。

 ヒノモト王国最強の『青龍騎士団』の団員であっても手こずるだろうレベルの相手に、余裕すら持ったまま押し込み続ける。


「恐ろしい『はぐれ』が赤子扱いとは……。もしハレルヤ王国が続いていたのなら、テンドウは間違いなく騎士団長に満場一致で推薦されていただろうな」


 そして、馬上のテンドウから放たれた剣の奥義。

 メビナ戦の時と同じく攻撃に転用した【流舞散華(るまいさんか)】を見て、同じ流派を学んだゲッコウから感嘆の声が漏れる。


「……討伐、完了」


 続けてテンドウの静かな声が『第五地下街』に響く。

 阿修羅地蔵という強大な敵に挑まんとする炎の強者は――かすり傷一つなく『はぐれ』を討伐したのだった。



  ◆



「さーて、俺様は終わるまで何してっかなー?」


 再び亡都ヤマトニアの地上にて。

 ガガクとカグラがバクラ闘牛場で木乃伊族(ミイラ)狩りを始めた中、縦縞のスーツを着た吸血鬼族(ヴァンパイア)のロッポウは一人、場外へと出た。


 今日のロッポウの仕事はガガクとカグラの引率である。

 二人とも強くなっており、今や二対一ならロッポウでも勝てないほど成長しているが……それでも九歳児の子供なのだ。

 とくにガガクは先走ることもあるので、大人が必ずつくことになっている。


 ――といっても、慣れた闘牛場内ではとくにやることはない。

 狩りが終わるまでは待機なので、ロッポウはふらりと外に出たというわけだ。


「こうも急激に様変わりしちゃー……さすがにちーっと寂しさを覚えちまうぜ」


 阿修羅地蔵が出現した影響か、アンデッドの巣窟だった南エリアはウソのように一変している。

 少なくとも目立つ通りには姿が見えず、ファミリーの一つもいない――と思っていた矢先。


 通りを少し歩いたロッポウの視界の隅に、とあるファミリーの姿が映った。

 彼らは破壊を免れた建物の前にたむろし、見る限りファミリー全員が一体も欠けずに揃っている。


「…………、」


 ロッポウはそのファミリーの方へと無言で歩き出す。

 だが視線はいつもとは違い、強者との戦いを求めて仕掛ける時のそれとは違う。


 そして不気味な静けさの通りを進み、徐々に彼らに接近していくと――。


「――よう。この状況でも元気そーでよかったぜ」


 そうロッポウが声をかけた相手は、全員が黒頭巾を被った腐肉族(グール)たちだ。


 つっかかりファミリー。テンドウたちがそう呼んでいるファミリーだ。

 顔を合わせれば嫌味なことや煽るようなことを言ってくる、ただただ不愉快なアンデッドたちである。


 だから決して襲ってはこない。

 ほかの敵対アンデッドやファミリーとは違い、殺気すら向けてこないという……けれど友好的でもないという、かなり特殊でよく分からない存在だ。


「……ロッポウか。お前は相変わらずなようだな」


 ファミリーの頭の黒頭巾腐肉族(グール)が口を開き、その視線をロッポウへと向ける。


 そこに敵対的なものは一切ない。

 それはほかの構成員たちも同じだ。テンドウたち人間に対する時とは違って、嫌な言葉も吐いてはこない。


「ったく、相変わらずはオメーらの方だよ。……いつまでそーやってウジウジしてる気だよ?」


 逆にロッポウの方が辛辣な言葉を投げかけた。

 両手に腰を当てながら一体一体の顔を見て、わざとらしく深いため息をつく。


「オメーらは別に街に囚われちゃいねーんだ。外にも出ずにずーっといるなんて……よく飽きねーな?」

「「「「…………、」」」」


 さらなるロッポウの問いかけに、俯いたままの彼らは答えない。


 テンドウたち人間ファミリーの前とではもはや別人のようだ。

 その無気力とも言える雰囲気は、まるで地下に閉じ込められていたアンデッドたちに通ずる部分があった。


「やれやれ……だぜ」


 そんな彼らの相変わらずな様子を見て。

 ロッポウはまた深いため息をつくと、一度、眠って動かない東エリアの阿修羅地蔵を見てから、また視線を彼らに戻す。


「アイツら人間は、このヤベー状況を変えるべく頑張ってるぞ? とくにテンドウとヒュウガの二人はヒノモト王国の兵士らしく、強い責任感を持ってるぜ。……それはかつてのオメーらと同じだろ?」


 ロッポウは彼らに思い出させるべく伝えた。

 かつての戦友たちの、本来あるべき勇ましい姿を。


 ――黒頭巾腐肉族(グール)のつっかかりファミリー。

 彼らが人間時代に最後に名乗っていた名こそ――『ヤマトニア解放戦線』である。


 時は二十五年前の夏、亡都ヤマトニアをアンデッドの支配から解放するために。

 ヒノモト王国の兵士たちが己の意志の下に集い、『赫の大樹海』を越えてヤマトニアへと入ったのだ。


 そこにあったのは使命感ただ一つ。どこの誰からの指示や報酬などなくとも、彼ら全員が命を賭けたのだ。


 だが結果は……百年変わらなかった状況を見ての通りだ。

 当時はまだ開いていた東門から街に入り、『三大ファミリー』の一つの骨人族(スケルトン)ファミリーに挑むも――あっけなく敗北してしまう。


 その『ヤマトニア解放戦線』の一部がアンデッドとして生まれ変わったのだ。

 ある意味、リベンジの機会を与えられたわけだが……力の差に絶望した彼らはもう二度と戦うことを諦めてしまっていた。


「オメーらは一人残らず戦死し……俺様だけが無様に敗走した。今でも鮮明に思い出せるぜ」

「「「「…………、」」」」


 懐かしそうなロッポウの声に、黒頭巾腐肉族(グール)たち十一体は黙ったままだ。

 抜けがらのように地べたに座ったまま、種族を越えてともに戦った戦友の目すら見てくれない。


「……なあ、また一緒に戦わねーか? 相手はあの時よりもさらに強大だが……。味方陣営もまた、比べもんになんねーほど強力になってるぜ?」


 それでも、ロッポウは柔らかな笑顔を彼らに向ける。

 二十五年前のあの時と同じく、ハレルヤ王国を想ってまたきっと立ち上がってくれることを信じて。


「いつでも来い。……ハヤテ、オメーら。俺様は待ってるぜ」


 最後にそう言って、ロッポウはくるりと背中を向ける。

 今の仲間たちの狩りの音が響いてくる中で、かつての戦友は来た道を戻っていくのだった。

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