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不死ノ国XX記  作者: 三月坊主
最終章 崩壊の亡都編
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第九十九話 解放のために

 治療がすべて終わったのは夜を迎えた頃だった。

 長時間に及ぶ回復魔法を終えたモモヒメは、だいぶ疲れた様子で小屋の中に戻って一人、休息に入る。


「「「「…………、」」」」


 そしてどこか緊張感のある静寂に包まれた、小屋がある土壁に囲まれた空間。

 夜の樹海の不気味な静けさと比べても、一段と空気が重々しく感じるのは……やはりジンロウタがいるからにほかならない。


 なぜ樹海の中で倒れているジンロウタを連れてきてしまったのか?

 なぜ瀕死の状態から回復させてしまったのか?


 全快には程遠いとしても、魔力が戻った今の強敵の姿を見て。

 テンドウたちは内心で冷や汗をかきつつ、今さらながらそう思ってしまう。


「……一つ借りを作ってしまったからな。ここで敵対して暴れるほど落ちぶれた覚えはない。だからそう警戒しなくていい――と言ったところで、まあ無理な話だろうがな」


 と、静寂を破ってまず発言したのはそのジンロウタだ。

 地面の上にあぐらをかいて座ったまま、ウッドデッキの上で少し距離を取っているテンドウたちに視線を向けてくる。


 ……どうやらウソをついているわけではないようだ。

 今のところ敵対的な空気はなく、魔力も体から自然に漏れ出ている分だけ。

 伴う不気味な『吐息』の声も聞こえず、浴びせるようには放ってきていない。


 ただ細く釣り上がった目は一見、睨んでいるように見えなくもないが……これは元々の目つきの悪さだろう。


「うんうん。ジンロウタ様の言う通りだね。恩を仇で返すのは悪い人間か、心まで完全に魔物になった存在だけだよ」


 さらに直属の配下(妹?)のサラサが続く。

 彼女の方も、というか彼女の方は最初から敵意など微塵もなかった。

 ジンロウタの治療中もずっと南瓜頭族(パンプキン)たちと無邪気に遊んでいたほどである。


「本当かよ? パンドラや地下集落の連中じゃあるまいし、いまいち信じ切れねえな。……というのが本音です」

「右に同じくですハイ。何たってアンタは超大物アンデッドだからですハイ!」

「……ぶっちゃけ我々、まだビビり散らかしているのであるな」


 だが南瓜頭族(パンプキン)の中では三体のみ、かしらのドンチンと幹部的存在のピンとコロは警戒を解いていない。

 揃ってテンドウの背中に隠れつつ、これまで言葉を交わすことすらあり得なかった『三大ファミリー』、それも幹部相手に疑問を口にした。


 ……正直、それは自然な反応ではある。

 回復魔法を行ったことで契約状態となったモモヒメとは違うのだ。

 それ以外のほかの者は全員、攻撃される可能性は残っているのだから。


「まーまー。気持ちは分かるがちーっと待て。『黄金弓(おうごんきゅう)』といやー一応、荒くれどもと違ってそこら辺はちゃんとしてるっつー認識だぜ。……それに今の状態じゃ万に一つも俺様たちには勝てねーだろ?」


 そんな中、連れ帰ってきた張本人であるロッポウが間に入る。

 そしてテンドウと視線を合わせて頷くと、座っているジンロウタおよびサラサの方に視線を向けた。


「さっき借りを一つ作ったって言ったな? ならちょーどいい。単刀直入に言うと……オメーの力を貸してくんねーか?」

「何? 力を貸せだと……? 『一匹吸血鬼』よ、すでに大ファミリーが壊滅した今、一体何に力を貸せと――いや待て、まさか貴様……?」


 そこまで言ってジンロウタが気づく。

 ロッポウの差した指先が亡都ヤマトニアの方に――いまだずっと届いてきている恐ろしい魔力の発生源に向けられている、と。


「あの怪物を倒すつもりか。……正気の沙汰とは思えんな。百年君臨した『不死の三傑』どころの話ではないぞ?」

「分かってるっつーの。だからオメーに頼んでんのさ。『黄金弓』様が加わってくれりゃー、大戦力に間違いねーからな」


 驚いた表情のジンロウタに対し、ロッポウは吸血鬼族(ヴァンパイア)の牙を剥き出しにして大真面目に笑う。


 ――じつはこれこそがロッポウの狙いだった。

 強大すぎる阿修羅地蔵に挑むのなら、戦力はあればあるだけいいに決まっている。

 それが幹部の中でも別格の存在であるジンロウタなら尚更だ。


「……ねえねえ。それだったら――『暗殺怪人』の人も必要じゃない?」


 と、ここで突然、サラサが提案してきた。

 挙げた名前は同じ『三大ファミリー』の元幹部にして、下剋上で頭にまで成り上がったニゴマルである。


「まーたしかに、アイツもいりゃー心強いが……。そもそも生きてやがるのか? 阿修羅地蔵に真っ先に狙われたって聞いたが」

「……そこはおそらく問題ないだろう。あのデカブツは巨体に似合わぬ隠密系でもある。逃げに徹したのなら、そのまま逃げ延びた可能性は高いはずだ」


 ロッポウの心配をよそに、敵の能力をよく知るジンロウタが断言に近い言い方をする。

 たしかによくよく考えてもみれば……あのニゴマルがそう簡単にられるとは考えづらい。


 ――となれば、ぜひニゴマルも仲間(もちろん一時的にだが)に加えたいところだ。

 呪物で強化されたあの強個体からも協力を得られれば、これ以上ない戦力の上積みとなるのは明白だ。


 ただ生きていたとしても、肝心の居場所は分かっていない。

 また常に隠密状態であることを考えれば……探し出すのは困難だろう。


「俺個人は大きな借りができたからな。手を貸しても構わん。……そもそもファミリーを壊滅させられたのだ。あの未知なる怪物と、元凶となった魔道士も殺せるのなら殺したいのが本音だ」


 ジンロウタが羽織袴についた土を払い落しながら、ゆっくりと立ち上がる。

 まだ少しよろめく感じはあるが、一人で自身の半霊体な体を支えられるようにはなっていた。


「――それで、もし仮に『暗殺怪人』も戦力に加えられたとして、だ。……『炎の剣士』よ、お前は本気であの怪物を倒せると思っているのか?」


 今度はジンロウタがテンドウへと視線を向ける。

 改めて相対した超大物アンデッドは、羽織袴という格好もあってか妙な風格を感じさせてくる。


「……まあ、小細工なしの真っ向勝負じゃ無理だろうな。お前やニゴマルが仲間になったとしても、俺の炎太刀がさらに成長しても……正面から叩き潰されるのがオチだ」


 ……ただし、とテンドウは付け加える。


「色々と考えてみた結果――策はあるかもしれない。上手くいくか分からないけど、大きな一手がな。そのためにはゲッコウの協力も必須になるだろう」


 言って、テンドウは夜と樹海の向こうにある亡都の方を見る。

 姿こそ見えずとも、その亡都や『赫の大樹海』、下手をすれば北のダイセツ山脈よりも存在感のある強大な敵を倒すには――生半可な策ではどうにもならないだろう。


 だから覚悟を持ってやるしかない。それこそ今日まで過ごした亡都での生活以上に。


 そうテンドウが決意していると、夜の闇の中で人間らしき足音が近づいてきて――。


「――遅くなった。悪いがメシの前に緊急会議の時間だぜ」


 阿修羅地蔵の偵察に行っていたムウマが、亡都ヤマトニアから帰ってきた。



  ◆



 森の小屋へと戻ってきたムウマ。

 その我らが頼れる索敵担当から入った、緊急かつ重要な報告はというと――。


「……え? 動きが……止まっているだと?」

「そうだ。理由は分からねえが、双眼鏡越しにヤツをしばらく観察してたら……急に街中で動きを止めやがったぜ」


 伝えられたのは阿修羅地蔵の行動停止――。

 それを聞いて一瞬、皆の心に期待が生まれるも……続くムウマの言葉ですぐに打ち消されることに。


「残念だが死んではいねえ。何せあのドギツイ魔力も瘴気も鼓動の音も、それらは何一つ止まってねえからな。――いわばただ眠ってるだけ、って感じだぜ」


 つまり、召喚は失敗などしていない。

 残念ながら『穢れ魔道士』プリバトヤの野望は続いているというわけだ。


「……なるほど。眠っている、か。まあそりゃそうだよな。少しだけ期待しちゃったけど……逆にそう聞くと生物らしくて若干、希望の光が見えなくもないぞ」

「だべな。もしかしたらアンデッドよりは普通の生物に近いかもだべよ。……見た目やサイズ的にはとてもそうは思えないけども」


 ムウマからの報告にテンドウ、ヒュウガの兵士コンビが顎に手を当てて考え込む。


 巨体ゆえに大きなエネルギーを消費するからか?

 あるいは召喚されたばかりで完全に安定した状態ではないからか?


 理由はまったく分からないが、とりあえず今は動きを止めてくれているようだ。


「はい! それなら今が攻め時だなっ!」

「動かないうちに体力を削るチャンスかも?」


 と、ここで三人の話を聞いていたガガクとカグラが揃って手を上げる。

 人間ファミリーではテンドウに次ぐ主戦力は、恐れを知らない子供らしい強気な発言をした。


 ……たしかに言っていること自体はそこまで間違ってはいない。

 魔力と同じく膨大であろう体力を削るなら、眠っている状況はチャンスにも見えなくはないが……。


「いやダメだ。眠ってはいやがるが、噴き出す瘴気とは別にまゆみてえな魔力の鎧を全身に纏ってやがるからな。それにすぐには起きないっつう保証もねえし……そもそも戦力が完璧に整う前に仕掛けるのは危険すぎるぜ」

「む、むむぅ……」

「そ、そうかあ……」


 勇気ある提案ではあったが、ガガクとカグラの案は却下だ。

 状況的には先手を取れるチャンスではある。

 それでもまずはムウマの言った通り、戦力を整えることやほかの策を講じる方が重要である。


「ただ考えたくはないけど、アレが亡都の外に出られるようになる可能性もあるからな……。あまり悠長にはしていられないし、何とかその前には……」

「ああ、同感だぜ。……それでテンドウ、例の考えてる一手の方はどうするつもりだ?」

「もちろんやるぞ。明日にでも地下集落に行ってゲッコウと話をしてくるつもりだ」


 今度はどれくらいの期間になるかは不明だが……まず間違いなく、約八カ月にも及ぶ亡都生活ほどは長くならないだろう。


 当初の目標であった亡都ヤマトニアからの脱出よりも、難易度的には遥かに上。

 完全体の阿修羅地蔵の討伐という、前代未聞の難易度SS級の任務を成功させるべく――テンドウたちは本格的に動き出す。


 ……が、その前に。しっかりとその重大任務に取りかかるためにも。


「――ほら皆、できたわよ。スズランの腕やネゾウが育てた野菜には及ばないけど……結構、いい感じに仕上がった気がするわ」


 さっきから漂ってきていた良い匂いとともに、小屋の中からセイカが登場。

 山菜やキノコや猪など、森の恵みをふんだんに使った夕食(ごちゃ混ぜ鍋)の時間だ。


 そうして皆で鍋を囲み、しっかりと腹を満たしたら――テンドウたちは早めに休息を取ることに。


「ではセイカ嬢! とその他大勢! あとは俺にお任せを、でござるよ!」

「いいや俺でい! せめてセイカ嬢だけでもいい夢をゥ!」


 重要な夜間の見張りについては、ゴザエモンとギュウベエ、あとはロッポウらアンデッド組の担当となった。

 加えて高い土壁という防御もあるため、もし樹海の魔物が襲ってきても返り討ちは確定だろう。


(明日からまた仕切り直し……だな)


 小屋の中で皆で雑魚寝をしながら、テンドウはゆっくりと目を閉じる。

 いまだ亡都から届いてくる魔力に寝苦しさを覚えつつも、初めてとなる『赫の大樹海』での一夜を過ごすのだった。

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