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品質バカと笑われた錬金術師の極上ポーションが、閑古鳥の工房から王都を救う  作者: 黒崎隼人


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9/12

第9話「決戦、錬金術博覧会」

 決戦の日がやってきた。

 王都の特設会場は、立錐の余地もないほどの人で埋め尽くされている。


 中央のステージには、二つのブースが設けられていた。

 一つは、黒と金を基調とした豪華絢爛な「インペリアル・ファーマシー」のブース。

 もう一つは、木材の温かみを活かしたシンプルな「工房アロマドロップ」のブース。

 対照的な二つの陣営が、観衆の注目を集めている。


「さあ、始めましょうか」


 カレンが余裕の笑みを浮かべてステージに上がった。

 彼女の手には、真紅の液体が入ったフラスコが握られている。


「これが我が社の最新作、『エンペラーズ・ブラッド』です。どんな重傷でも、一瞬で完治させます。ご覧ください」


 ステージ上に、怪我をした魔獣が連れてこられた。

 カレンが薬を振りかけると、傷口が煙を上げて塞がり、魔獣は瞬く間に立ち上がった。

 会場からどよめきが起きる。

 圧倒的な回復速度だ。これなら、戦場での生存率は飛躍的に上がるだろう。


「素晴らしい! これぞ帝国の技術力だ!」


「やっぱり大手は違うな……」


 観客の声が、カレンの勝利を確信しているようだった。

 彼女は勝ち誇った顔でアルドを見下ろした。


「さあ、次はお前の番だ。どんな時代遅れの薬を見せてくれるのかしら?」


 アルドは静かにステージへ進み出た。

 手には、淡い緑色の液体が入った小瓶。

 派手さはない。光ってもいない。ただ、どこか懐かしいような、優しい香りが漂っている。


「私の薬は、『森のゆりかご』と言います。傷を治すだけでなく、疲れた体を芯から癒やし、明日への活力を与える薬です」


 アルドは、別の怪我をした魔獣に近づき、ゆっくりと薬を飲ませた。

 派手な演出はない。傷が塞がる速度も、カレンの薬ほど速くはない。

 だが、魔獣の様子が明らかに違っていた。


 カレンの薬を飲んだ魔獣が血走った目で檻に体当たりを繰り返しているのに対し、アルドの薬を飲んだ魔獣は、ふっと憑き物が落ちたように穏やかな顔つきになり、その場に丸くなって静かに寝息を立て始めた。


「……なんだ、あれは?」


「傷が治っただけじゃない。苦痛が消えて、安らいでいるみたいだ」


 観客たちがざわつき始める。

 審査員を務める王宮医師団の長が、眼鏡の位置を直しながら言った。


「……カレン殿の薬は、強力な賦活剤を含んでいますね。確かに傷は治りますが、使用後に激しい反動が来るでしょう。寿命を縮める可能性もあります」


 会場が静まり返る。

 カレンの顔色がサッと変わった。


「対して、アルド殿の薬は……驚くべきことに、副作用が一切見当たりません。素材の持つ治癒力を極限まで高め、患者自身の自己再生能力をサポートする構造になっています。これなら、子供や老人でも安心して使える」


 医師団長の言葉に、会場から拍手が湧き起こった。

 最初はパラパラと。やがてそれは、雷鳴のような喝采へと変わっていく。

 派手な効果よりも、安全と優しさを選んだアルドの哲学が、人々の心に届いたのだ。


「そんな……まさか、最新技術が、こんな田舎の工房に負けるなんて!」


 カレンは膝から崩れ落ちた。

 勝負は決した。


 アルドは静かに一礼し、ステージを降りた。

 そこで待っていたのは、満面の笑みを浮かべたミナだった。

 彼女は何も言わず、ただ力強くアルドの手を握りしめた。その温もりが、勝利の何よりの証だった。


 こうして、工房アロマドロップは王都だけでなく、帝国の侵攻からも市場を守り抜いた。

 小さな工房が起こした奇跡は、長く語り継がれることになるだろう。

 だが、彼らの物語はまだ終わらない。

 これからも、街の人々のために、最高の薬を作り続けるのだから。

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