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品質バカと笑われた錬金術師の極上ポーションが、閑古鳥の工房から王都を救う  作者: 黒崎隼人


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第8話「海外からの黒船、新たな火種」

 王都が平和を取り戻しつつある中、港には不穏な影が近づいていた。

 巨大な黒塗りのガレオン船が、異国の旗を掲げて入港してきたのだ。

 船体には「インペリアル・ファーマシー」の文字。

 東方の大帝国に拠点を置く、世界最大級の製薬会社だ。


「……嫌な予感がするわね」


 ミナが港の方角を見ながら呟いた。

 サンクタム商会との取引停止を機に、帝国側が直接乗り込んできたのだろうか。

 その予想は的中した。


 翌日、アルドの工房に、帝国の使節団が訪れたのだ。

 先頭に立つのは、鋭い眼光をした女性。軍服のようなかっちりとした衣装に身を包み、腰にはサーベルを下げている。


「初めまして。インペリアル・ファーマシー極東支部長の、カレンと申します」


 彼女は丁寧だが、どこか冷ややかな口調で挨拶した。

 後ろには、いかにも腕の立ちそうな護衛たちが控えている。


「単刀直入に申し上げます。我が社は、この王都での独占販売権を求めています」


「独占販売権……?」


「ええ。サンクタム商会の不手際により、我が社のブランドイメージは傷つきました。これ以上、現地の下手な商人に任せるわけにはいきません。今後は我が社が直接、高品質なポーションを供給します」


 カレンは自信たっぷりに言い放った。

 彼女たちの狙いは明白だ。ソラリスが倒れ、サンクタムが撤退した今、この国の市場を丸ごと乗っ取ろうとしているのだ。


「そのために、まずは邪魔な競合を排除する必要があります。……つまり、あなたのことです、アルドさん」


 カレンの視線が、鋭い刃のようにアルドを射抜く。


「王女を救った英雄として、あなたの名は帝国にも届いています。ですが、所詮は個人の工房。我々の大量生産技術と品質管理には敵わないでしょう。悪いことは言いません。我々の傘下に入りなさい」


 またしても、買収の提案だ。

 だが今回は、相手の規模が違う。世界を股にかける大企業だ。

 アルドは静かに首を横に振った。


「お断りします。私たちは、この街の人々のために薬を作っています。帝国の利益のために働くつもりはありません」


「……交渉決裂ですね。残念です」


 カレンは冷たく微笑み、踵を返した。


「では、実力で示しましょう。一週間後、王都で開催される『錬金術博覧会』。そこで我々の新製品を披露します。もし、あなたの薬が我々の製品より優れていると証明できれば、撤退も考えましょう。ですが、負ければ……この店を畳んでいただきます」


 一方的な挑戦状を叩きつけ、カレンたちは去っていった。

 残されたアルドとミナは、顔を見合わせた。


 博覧会。それは年に一度、各国の錬金術師が技術を競い合う祭典だ。

 今年は、帝国の威信をかけた新製品が登場する。

 勝てるのか? 世界最高の技術を持つ巨大企業に、たった一つの小さな工房が。


「やるしかないわね」


「ああ。逃げたら、この街の薬屋は全部あいつらに乗っ取られる」


 アルドは拳を握りしめた。

 これはただの勝負ではない。職人の誇りと、街の未来をかけた戦いだ。


 その日から、工房は再び戦場と化した。

 アルドは過去のレシピをすべて見直し、さらに改良を加えるための研究に没頭した。

 ミナは情報収集に走り回り、帝国の新製品がどのようなものかを探った。


 どうやら彼らは、「瞬間回復」に特化した強力なポーションを用意しているらしい。

 飲んだ瞬間に傷が塞がる。それは戦場では有用だが、体への負担が大きい諸刃の剣だ。


「僕たちが目指すのは、ただ治すだけじゃない。体に優しく、心まで癒やす薬だ」


 アルドは方向性を定めた。

 速効性では勝てないかもしれない。だが、安全性と持続力、そして「飲んだ時の心地よさ」では絶対に負けない。

 それが、日本人のような繊細な感性を持つアルドだからこそ作れる、究極のポーションだった。

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