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43 お話ししながら、料理を作ります

◇◇◇


「はい、ここがうちのアパートですよ」


 スーパーから数分。細い路地を走り抜けて到着したのは一人暮らしをしているアパートだ。

 街中より随分と奥に入った住宅街の中なので、静かで暮らしやすいのだ。まあ、実家の静けさとは段違いだけれど、実家と違って気が狂いそうな程のカエルの大合唱に悩まされたりとかはないので、そこだけは気に入っている。


 車を降り、アパートの階段へと向かう。住人達はほとんど出かけている様子で駐車場には夏帆の車しかなかった。


「このアパートの人って、さっきの人以外はほとんど知らない人なの?」

「はい。そうですね。たまにすれ違っても頭を下げるくらいしかしないですね」


 ふうん、とテオは呟いた。テオの騎士団宿舎は所属は違えど、全員騎士だから毎日賑やか……を通り越して騒々しい。


「一人だと……寂しくなっちゃったりしない?」


 テオの言葉に、階段を先に上っていた夏帆は驚いたように振り返り、笑った。


「大丈夫です。慣れましたし、意外と気楽でいいものです」

「そっか」


 特に無理をしている様子もないし、そうなのだろう。それに元の世界へ戻ってしまうテオが何をしてやれるわけでもないのだ。自分の心がもうすっかり囚われてしまったとしても。


「ここが、私の部屋です」

「ああ、じゃあこっちが……」


 隣の部屋のドアを見るテオに、夏帆は恥ずかしそうに頷いた。


「テオさんが居ると思って……その、ピンポンしちゃった、リョーヘイさんのお部屋ですね」

「……ごめん、カホちゃん…!」

「えへへ、もう大丈夫です」


 両手をパンと合わせるテオに、笑ってから夏帆は自室の鍵を開ける。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 夏帆が先に入り、テオが続く。しかし、玄関はテオが思っていたものよりも遥かに狭かったので、先に入った夏帆の背に扉を閉めたテオの体がぶつかってしまう。


「あ、ごめん!」

「大丈夫です。狭くてごめんなさい」


 慌てて離れようとするが、夏帆は慣れたものでさっとしゃがんだかと思うとくるりと向きを変え、低い上り口のマットに腰掛けて靴を脱ぐ。


 狭い玄関は綺麗に片付いており、靴棚の上には小さなサボテンが置かれている。

 靴を脱いだ夏帆は立ち上がり、サボテンの横にある小さなカゴに車のカギを入れた。


「テオさんも、どうぞ。すぐご飯作りますね」

「ありがとう」


 テオも靴を脱ぐ。こちらに来たときに履いていた向こうの編み上げブーツではなく、こちらで買ったスニーカーだ。


「テオさんの靴、買ったんですか?」

「ううん。これはね、ジロキッサンが少し早いけどプレゼントってくれたんだよ」

「あはは、おじちゃんからクリスマスプレゼントだったんですね」


 嬉しそうに笑う夏帆に、テオは不思議そうに首を傾げた。


「でも、オレは子どもでもないし、ジロッキッサンとは……カップルでもないんだけど」

「!」


 テオの言葉に夏帆は目を丸くし、噴き出した。


「あはは、テオさんとおじちゃんがカップル……! そうですね、ええっと。クリスマスプレゼントは家族とかの親しい人と交換するのもアリなんですよ」


 テオの手から夏帆は買い物袋を受け取って、そのままキッチンへと進む。テオに手招きをし、蛇口をひねって手を洗い始めた。


「おじちゃんは、ずっと独り暮らしなので。お二人が一ヶ月も滞在してくださって嬉しいんだと思いますよ」

「お世話になっているばかりなんだけどな」


 テオの言葉に夏帆は笑って、タオルで手を拭く。場所を入れ替わって、テオに手を洗うように促した。


「一人で自分の為に何かをするのと、誰かの為にする作業は全然違いますもん」

「ああ、それは分かるけど……そっか」


 テオは嬉しそうに微笑み、頷いて玄関にあるピカピカのスニーカーに視線を向けた。


 夏帆は電気ケトルに入るだけの水を入れてスイッチを入れる。その間にピーマン、玉ねぎ、ウィンナーを取り出して開ける。


「オレも、ジロキッサンになにか上げたいんだけど。何がいいかな」

「うーん……おじちゃん、なにがいいかな」


 おじちゃん、何を欲しがっていたかなと考えながら、玉ねぎの皮を剥いて行く。

 そうしている間にお湯が沸いたので、大きめの鍋にお湯を移し、足りない分は水を入れて火にかける。


「そういえば、作業用の長靴がぼろぼろですね」

「確かに。穴だらけになってたね」


 農作業には十分だけれど、本来の防水機能が働いていないので、水はだーだー流れ込んでくる長靴を思い出し、二人は顔を見合わせて笑う。


「後で、一緒に見に行きましょうか」 

「やった! 実はそう言ってくれると思ってた」


 確信犯のテオに、夏帆は柔らかく笑って頷いた。


「テオさん、すいませんけどそっちの棚から、瓶に入ったパスタを取ってもらえますか?」

「あ、ええっと。これかな?」


 長い瓶に入ったパスタを探し当てたテオは、蓋を外してから夏帆に渡す。夏帆は礼を言ってからパスタを二人分程取って、沸騰したお湯にぐるりとパスタを入れて塩を振り入れる。ポケットのスマホを取り出して、忘れないようにタイマーをセットした。


「これ、元の場所に戻すね」


 テオが蓋を閉めて、また定位置へと戻してくれる。


 切り終えた玉ねぎから、熱したフライパンへと投げ込んで炒めていく。透明になる少し前位にウィンナーを入れて一緒に炒め、最後にピーマンを入れてまた炒めて行く。


「カホちゃんのそれ、すごいね。ハサミみたい」

「これはトングですよ。すっごい便利なんです」


 スマホのタイマーが鳴ったので、畳んであったザルを広げてシンクへと置き、そこに茹で上がったパスタを上げておく。


 すっかり火が通った具材にケチャップとソースで味付けをして、ザルを振って湯を切ったパスタを入れてよく混ぜる。


 2枚の皿を取り出し、それぞれにトングで一人分を大きく掴み、皿へとねじり上げるようにして高く盛っていく。


 空になったフライパンを洗って再度火にかけて、卵を二つ落として目玉焼きを作っていく。


「わ。おいしそう。オレの所にもパスタはあるんだけど、だいたいスープに浸かってるんだよね」

「え、そうなんですか。スープパスタも美味しいですよね」


 パスタに粉チーズをかけ、最後に目玉焼きを乗せて……できたてほかほかの湯気がたなびくナポリタンの完成だ。


「!」


 とたんに鳴いた自分の腹を押え、テオは苦笑した。我ながら、随分と調子の良い腹の虫だと思う。

テオ、卵食べ過ぎですね!!!


夏帆は

 テオの腹具合>>>>>穴の重要性

と、判断したようです。

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