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第5話 魔王、ただいま帰宅中。

「デェストルチィオ、朝イチの我の魔力はどうじゃ」


助産師がベッドのカーテンを開けて入ってきた。


「狩野さん、退院手続きは終わりました。…短い間でしたが楽しかったです」


「うむ。お主には… 迷惑かけ……っ」


(言葉がでんぞ!なぜじゃ…なぜ、涙がでるのじゃ)


「狩野さん… 健琉くん…」


助産師がそっと魔王へかがみ背中を擦ってくれた。


「真央、おまたせ……。 お世話になりました」


健は言葉を呑み、ゆっくり助産師へ頭を下げた。


「真央、行くよ」


魔王は健琉を抱いたまま、ゆっくりと助産師たちへ頭を下げた。


「ありがとう…ござい……ました」


(我が礼だと! ありえん!)


魔王は健に肩を抱き寄せられながら、正面玄関へ向かった。

窓から差し込む陽の光。


魔王は通路の途中で立ち止まった。突然の動作に健は立ち止まれず、真央の首へアックスボンバーが入った。だが、魔王は微動だもしない。


「真央…急に立ち止まるなよ」


「健、なぜ明るい」


「は?」


「なぜ日が出ておる」


「朝だからな。行くぞ」


真央の背へ手を添えながら歩き出すが、魔王は一歩も動かなかった。


「ちょっ!真央?」


「杖」


魔王は片手を前へ出した。


(なぜでない…)


「なにしてんの?」


「ん?うむ…杖をちとな」


健は真央の顔を見つめながら首を傾げた。ぐっぱーする手はなにも起きず、時間だけが過ぎていく。


「駐車料金かかるから行くよ」


「嫌じゃ!!」


「なにっ!どうしたの?」


「日が…日が!」


「日焼けしたくないって?はいはい。日傘なら持ってきたけど?」


健は日傘を差した。


「ほら」


真央の前で窓の日を遮った。


「ほう…」


魔王は日傘というものへ手を伸ばす。


「持たんでいい。俺が持つから健琉を……可愛い。寝てるな」


二人はゆっくり健琉を覗き込む。


(さすが、我が子じゃな。破壊せよ、この世界を我ものにするのだ)


魔王は高笑いしだした。


「いいから行くぞ」


健は一度、折りたたみの日傘をたたみ出口へ歩き出した。

ガラス張りの扉を全開に開く。


「どうぞ、魔王様。 お通り下さいませ」


魔王は、照りつける外の世界へ 恐る恐る 歩き出した。

風が髪とスカートをなびかせる。そっと、日陰が 真央のからだを隠した。


魔王は 空を見上げ 目を細めた。日傘を差す 健の姿は 反射する光で 眩しかった。


「足元、気をつけて」


健の声に 優しく健琉を抱き直す。

ゆっくり、二人は 階段を下る。


日傘を持ったまま、健は ワイン色の車へ駆け寄り スライドドアを開けた。


「真央、健琉をチャイルドシートへ」


「チャラレル…シート?」


「チャイルドシートだよ。 運転中、危ないから 寝かせようね」


「嫌じゃ!!」


真央は 健琉を 抱き寄せた。


(離れとうない… 我が ディストルチィオ……)


「それより… なんじゃ? この箱…」


「車だが」


「くるまとな? …んー… 不思議な形をしとるのう」


「……真央、健琉 貸して?」


「むう…」


「そんな顔しないでよぉ… 俺も抱きたい」


「ふむ… 仕方あるまい」


そっと、健の腕へ 健琉を移した。


「少し重くなった? ふふっ可愛い」


と 言いつつ、健は チャイルドシートへ 健琉を寝かせた。


「健? 我を騙しおったな!」


「ん? なんのこと?」


「とぼけ… んっ」


後部座席から出てきた 健に 甘く口づけされる 魔王であった。


(貴様…! 黙れ!)


はいはい。


健に 強く抱き寄せられた。


「ぷはっ… おい!」


「ふふっ 可愛い」


「可愛い!? 可愛いは ディストルチィオだっ!」


「はいはい。 さあ、座って! 出発するよ」


「うむ…」


魔王は 後部座席へ 座った。チャイルドシートに寝ている 健琉へ視線を向ける。


「帰ろう! 我が家へ」


車が 動き出す。


「なっ ななな! なんじゃぁあ!?」


魔王は どこか掴まれる場所がないか、周囲を見渡し慌てる。


「しっ! 健琉が起きちゃうでしょうが」


健は バックミラー越しに 真央へ 声をかける。 が、真央の姿が見えない。


「おっ おお?ぬし…… 唸る この生き物は なんじゃ!?」


座席と 座席の間で 縮こまる 魔王。


「車だって さっきから… なんか… 真央、変わったね」


「我は 我だっ! か… かかっ 変わっておらんっ!」


車内で ずっと 魔王の声が 裏返っていた。チャイルドシートの中で 健琉が 一瞬、微笑んでいたことは 二人には 内緒。

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