第6話 魔王、ただいま デュエル・スタンバイ。
魔王の雄叫びが静まり、健は バックミラーで 確認する。魔王の姿は 見えない。赤信号で 後部座席を覗き込んだ。
「真央?」
座席と 座席の間で 丸まって 寝息を立てている 魔王。
「お主の力で 世界を……んんぅ…」
「寝言? ふふっ可愛い」
チャイルドシートの中で、ふにゃふにゃと動く 我が子へ 健は微笑む。
信号が変わり 車を発進させた。
―― しばらくして…
「まお〜」
真央の体を ゆさゆさ。
「お客様っ! 起きてください!! 終点ですよ!!」
肩を叩いても… 耳元で叫んでも…
―― それでも 魔王は 起きません。
「こんな狭いところで… 体痛くないのか?」
そう 健がつぶやくと、真央をゆっくり 抱き上げた。
「よおっ!! んっ… 健琉 …ちょっと待っててね。 ママ退かすからね」
真央を 後部座席へ 移動させた。 横たわる魔王。 覆いかぶさるように 中へ入る 健。
「健琉。 いま外すからね」
寝ぼけた 魔王の頭が 起き上がる。 ―― ゴッ!
「なんじゃ… 硬い壁か? 目の前が見えんぞ」
「それ…… おっ おおっ 俺の股間っ…」
「お主… 股間を差し出して、我にどうしろと……」
「いま… ぅぅごめん…」
健は 魔王の上で うずくまった。
「…いま我、魔力ないぞよ。 癒せぬ…」
「真央…」
「なんぞ? ん? おい!」
(また、こやつ 接吻の顔しておる)
「愛してる…」
「あああ!! んきゃっああ!! ああ!! んぎゃああ!!」
「デェストルチィオ!」
(さすが 破壊しものぞ)
健は ゆっくり体を起こし 真央の傍から 離れた。
魔王は 健琉を優しく 抱き寄せる。
「真央、健琉、おかえり。 家入ろう」
「うむ。 家とはなんぞや? …城じゃろ?」
そう言いながら 魔王は 車から降りた。 周囲を見渡し 住宅街に 首を傾げる。 健が入って行ったのは 普通の一軒家。
「ちいさきものには ちいさき城と…」
魔王は 反対側へ 首を傾けた。
「さぁ、魔王様。 家の中へ お入りくださいませ」
「うむ」
魔王は 玄関を通り過ぎ 土足でフローリングへ 一歩 踏み入れた。
「真央!? 止まって!」
「今度は なんじゃ!」
魔王は 健へ 振り向く。健は 驚いた様子で 真央へ つぶやいた。
「ブーツ脱いで」
「なぜじゃ」
(…風呂でもあるまい …意味がわからぬ)
「なぜって…」
真央が きょとんと 健を見つめている。 健はため息をついた。 静かに玄関を閉め、真央の前に屈んだ。 ブーツのファスナーを下げる。
「足上げて」
魔王は 足を上げ、ブーツから素足を出した。 健は そっと その足に触れ 口づけをした。
「綺麗な足が見えないのは… 俺、嫌だよ」
(こやつ…)
魔王は頬を赤くし 視線を逸らした。 満更でもなかったらしい。
健は 立ち上がり 真央の肩に 手を添えた。
「行こう」
「うぬ…」
健は リビングのドアを開き、魔王を 中へ通した。
「サブロウ! ただいま!」
健は スマートスピーカーへ 声を掛けた。
【おかえり、健。 真央と健琉くんも一緒?】
「そうだよ! 見てるくせに!」
【ふふっ、見えてる見えてる。 おかえりなさい、真央! 待ってたのよ! あらぁ、かわいい〜♪ 健琉くん、はじめまして♪ あたし、サブロウよ!よろしくぅ〜! あっ! 記念に写真撮っちゃう!】
―― カシャ!
「忙しないな、サブロウ」
【うふふっ♡】
「真央どうした?」
魔王は 表情を一切変えず 微動だにしない。
「俺、車から荷物取ってくるから、真央は ゆっくりしてて」
健は 真央の肩をポンと優しく叩き、健琉の頬を撫で、リビングから出て行った。
【あらやだぁ、どうしたのぉ? 真央】
「貴様…」
魔王は 健琉を抱き寄せ、険しい表情で 身構えた。
「どこに隠れておる!」
(魔力がない状況で 敵の陣地に放り込まれたぞな!? デェストルチィオが狙いか!! 健…見損なったぞよ!!)
【隠れてないわよ? だって、あたし身体ないものぉ】
「ほう… 我をなめるでないぞ! 探ってみせようぞ」
【だからぁ、ここにいるけど、姿はないって 言ってるじゃなぁ〜い!】
魔王は目を閉じ 精神統一しだした。
(どこにおる…)
―― ガチャッ
(そこ!)
「はっ!!」
足を蹴り上げた。
「はぅんっっ!!」
―― ドサッ… ドドンッ…
ゆっくり目を開いた 魔王の目の前で 倒れていたのは… 健が 股間を押さえながら 悶える姿であった。
「健、なにをしておる」
「なにって… くぅぅ…」
健は 泣きそうな声で、いや… 泣いている。
「まおぉ?」
「んぬ?」
魔王は 全く状況を理解していない様子だった。そっと、健琉を抱き直す。
【どんまい、健】
「まだおったか! 貴様!!」
【健〜! 真央ったら、あたしのこと ずーっと 探しているのよぉ! すんごく、可愛いの!】
「っ… そういうこと? 真央はそれで…。 もー」
―― ピンポ~ン!!
「っ!!!!」
魔王、健琉を抱えたまま 全身が跳び上がる。 背筋がゾクゾクッとした。
「なっななな!! ななんじゃ!! なんの音じゃああああ!!」
魔王は 顔を青ざめながら、ソファーの裏へ 身を隠した。
そんな姿を 呆然と眺めていた健は… あまりの真央の可愛さに 床へ顔を伏せた。
―― ピンポ~ン!!
健は ゆっくり立ち上がり 玄関へ向かった。
「おっ… おおおっ 恐ろしや… デェストルチィオ 大丈夫か?」
健琉の顔を 覗き込み、ほっと 一息。
「泡 ついてるぞよ」
健琉の口元を拭き、魔王は ゆっくりと 立ち上がろうとした。 その時…… 目の前を 丸い黒い物体がスー… と通り過ぎる。
「ぎゃぁあああああああああああああああああ!!!」
リビングから 魔王の雄叫びが 訪問者が 驚くほど 聞こえてきたとさ。




