第4話 魔王、ただいま面会中。
―― ブオー
(我、なぜ 温風が吹くもので 髪をなびかせておるのだ?)
体が ぽかぽか している中、洗面所の前に座り 鏡を見つめる魔王。
カチッ ――
椅子から立ち上がり 洗面所から 自分のベッドへ 移動した。
(ん?)
不在中、何者かに 魔王のベッドのカーテンが 閉められていたようだ。
―― シャァァー
「おかえりっ真央!」
「健!」
(椅子に座って こちらへ 手を降っておる)
「いい香りだね。ふふっ」
(こやつ 我に抱きついてきおった)
「誘ってる?」
「何を言っとる…」
健は真央の頬へ手を添え口づけした。魔王は抵抗することは……なかった。
(ちっ! 違う! 断じて! こやつを認めたわけじゃ!)
はいはい。
「お主…昨夜は突如消えおったな? 今までどこにおった。 まさか! 野宿か?」
「野宿?」
健は 真央へ 小さく笑った。
「なに? 寂しかったの? ふふっ、家に帰ったに決まってるだろぉ」
(うお! また、口づけしてきおった!)
おや? 抵抗する気もないくせに?
(さっきから 貴様! 五月蠅いぞ!)
はいはい。
「真央、冷蔵庫に グレープジュース冷やしておいたから 飲んでね」
健は 真央の髪を 撫でながら 微笑んでいる。
「ほう、あのワインか」
「ワインじゃないってば、もー」
(また、こやつに笑われた…)
真央が猫のように 健に甘えていたことは… 魔王本人には 内緒にしておこう。
―― ガラガラガラ…
音を立てて 新生児用コットが 部屋へ入ってきた。
「狩野さーん」
―― シャァァァ
ベッドのカーテンが 大きく開かれた。
「パパ、ボクきたよ〜」
助産師は 新生児用コットを ベッドの側面に 設置した。
「指導したとおりに 赤ちゃんを 抱いてあげてください」
「はい」
健は 新生児用コットの前に立ち そっと 優しく 我が子を抱き上げた。
「んくっ…あっ…はくぅ…」
小さくつぶやく 我が子に 健は目を細める。口元と頬が自然と緩む。
その姿を見つめていた魔王は、うっとりしていた。
(うっとりなんぞしておらぬ!! さっきから貴様…)
「真央」
「おっ…ん?」
「ありがとう…っ」
「健!? なぜ泣いておる!」
健を 泣かせてしまったと 慌てる魔王。健の隣でも 目を潤ませている 助産師。何とも微笑ましい光景。
魔王の瞳から 雫が落ちていたことは ここだけのヒミツ。
♡
授乳中の魔王を、健に ガッツリ 見つめられている。
「真央…」
「なんぞ?」
「なんでチチにバスタオル当ててるの?」
「外してもよいが…お主、覚悟できておろう?」
「どういうこと?」
「顔」
健を手招きする。顔が近づいてきたところで バスタオルを外した。
「っ!! ぶふっ!! あっま!!」
「ハハハハッ!」
バスタオルで押さえなおした。
「我が チチの破壊力 思い知ったか!」
「ぐおおお!! 会心の一撃!! 真央様 恐れ入りましたぁ」
「ん? もういらんとな… 残りどうする気じゃ…」
「俺がいただこう!」
「ゲップの時間じゃ」
赤子を抱き直し、背中を優しく叩く魔王。
―― ポン ポン ポン ポン…
「ぐがっぁぁ…」
「うむ、いい鳴き声じゃ」
「魔物みたいな 立派な ゲップだったな」
「じゃろ」
「あっ真央! 名前、俺決めてみたんだけど」
「ほう… 聞こうぞ」
「狩野 健琉〈たける〉」
「…………は?」
「え?」
「我、ディアボロス8世。 そんな 貧素な名は 許さん!」
「はい? ディアボロスだったの? かっけぇ… じゃあ、健琉の代わりは?」
「デェストルチィオ」
「健琉〜 パパのがいいよね〜?」
「ん…きゅぅ…はぁっんっんー…」
「おっ! 握ってくれた! かわええ〜」
完全に 命名を スルーされた 魔王であった。




