二十二話 魔王
【楓視点】
学術院のシステムが変わって、一週間が経った。
普段の生活は、以前と何も変わっていない。
強いて言うなら、四区の南端にある自宅からスサノオまでの距離が、以前より遠くなったくらいだろうか。
毎日の運動には丁度いいかな、と思うようにしている。
収入に関しては、国から補助金が出ているという点は変わらない。
以前は、その補助金を皐月家が受け取り、外から商品を仕入れて学術院内でトークンとして流通させていた。
今は流通の透明性が増しただけだと思えば、大した問題ではない。
国の事業として魔術師の保護は、今後も継続されるということだ。
これはお義祖父さんの意向が、国政にしっかりと反映されているのだろう。
睦月本邸に来ていた仲間達も、それぞれの家に戻っていった。
ショップの運営は外部企業に任せることになった。
皐月コンツェルンの業績が悪化して、足元の立て直しを優先することになったからだ。
多角的に展開していたセクションを、利益率の高い部署に絞って経営していくという。
網走さんが洸介君の片腕として側についているらしい。
前の会長が「有能な男だ」と語っていたので、きっと立て直しは成功すると信じている。
ヴィクトリアさんは学術院から出たと聞いた。
暗殺者だと聞いていたが、結局、彼女の本当の目的が何だったのかは分からないままだ。
どこかで出会うことがあれば、その時にでも確認してみようと思う。
魔力回路持ちにとって大きな変化があった。
それは学術院の外に出られるようになったことだ。
以前は、旧月家であっても申請して許可が必要だった。
国から補助金が出ていることもあって、外出の敷居は依然として高い。
それでも、外に出られるという選択肢が増えたことは、大きな一歩だと思えた。
またテレビやネットも外部とつながり、本や雑誌なども店頭に並ぶようになった。
外部から人が入ってくる以上、完全に情報を封鎖することはできないと判断したのだろう。
それによって、今までは買えなかったパソコンやゲーム機なども、ショップで見かけるようになっている。
今までのことを思うと、学術院は大きな変化を遂げていた。
母の望んだ学術院――魔力回路持ちの未来に、少しは近づけたのだろうか。
きっと間違っていないと考えながら、俺はスサノオに向かって歩き出した。
☆
リニアから降りた時、タブレットが鳴った。
俺は発信者の名前を確認して、着信を受ける。
「どうした? あ〜その件か。港区の店舗がロスファー家に魔道具を卸していた記録があった。どうやら支店長が仲介していたみたいなんだ。魔道具の事は何も知らないみたいだけど、ロスファー家の情報を知っているかも知れない。うん、それはいい判断だと思う。それと向陽サービスをネットワーク管理会社にしたいんだけど……。助かるよ、洸介君。また何かあったら連絡してきて」
通話を終えてタブレットの電源を切る。
洸介君が思い通りに動いてくれていて、ロスファー家に接近できそうだ。
皐月家の利用価値は、計り知れない。
(今度、凛とコンサートに行く前に、港区の宝石店と向陽サービスに寄ってみよう)
コンサートのチケットは網走さんが既に手配してくれている。
その時に港区の霜月別邸に足を運んでみるのも面白そうだ。
エレーナさんとやらに一度、直接会っておく価値はあるかもしれない。
一応、俺のお義祖母さんに当たるわけだし。
皐月家のネットワークに侵入したときに見た、あの件――凛の両親を殺害したことも確かめないといけない。
これから起こるであろうロスファー家との決着を、どういう形で着地させようか。
頭の中で筋道を思い描く。
数分後、出来上がったシナリオは、とてもシンプルなものだった。
それでも三十年前に始まった、この物語の幕引きにはちょうど良さそうな気がする。
時計を見ると始業時間が近づいていた。
清々しい日差しを浴びながら、俺はスサノオへの道を走り出した。




