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二十一話 事後処理

 楓との通話を終えた巌は頭を抱えていた。


(あのクソガキ。困ったことが起こると、すぐに頼ってきやがる)


 そして、その困ったことが厄介な場合が多い。

 皐月コンツェルンへの金融制裁は、その最たる例だと言える。


 それでも、トークンが通貨と連動しておらず、人を掌握するために設計されていたことや、魔道具が人の命から作られていたこと、学術院が魔術回路持ちを養殖する器になっていたことを見抜いたのは、称賛に値する働きだった。


(法案は次の国会で通すとして、緊急で対策するべき案件は通貨と身分制度だな。まずは閣議決定か)


 巌はスマホを操作して、通話ボタンを押した。

 二コールで相手は電話口に出る。


(多忙な身で律儀深いヤツだ)


 知らずに口角が上がる。


「総理。明日の閣議で決めて頂きたいことが――」


 巌は要望を伝えると電話を切った。

 総理には以前からの貸しがたまっている。

 こういう時にこそ、その人脈を最大限に活用してこそ意味がある。


 続けてタブレットを操作する。

 こちらも、すぐにつながった。


「如月さん。学術院の基本システムを――」


 如月理事長に総理と交わした話を伝える。

 予め仕込んでおかないと、すぐには対応できない内容だった。


「――その辺のことは俺に任せろ。金融大臣には通しておく」


 あとは、八本に連絡しておくだけだ。


(最近は、あのクソガキに振り回されてばかりだな)


「ああ、八本君。実は――」


 黒塗りの車は、次の会合に向けて走っていた。


   ☆


 一週間後、旧月家の面々が理事会に呼ばれていた。


 既に学術院内の物価は安定していて、少し前のような状況ではなくなっている。

 皐月コンツェルンの新会長となった洸介が、物資を通常価格で放出したことで、事態は収束していった。

 枯れていた品物が、突然潤沢になった理由は謎のままだが。


 理事会には旧月家の十名全員が集まっていた。

 その中に多忙で普段は参加しない霜月巌の顔もある。


 そして時間が来た。


「本日、お集まり頂いたのは霜月様のご提案です」


 全員の視線が巌に集中した。


「先日、理事会が開かれたが、そこでは何も変わらなかったと聞いている。そうだな睦月楓」


 ざわりとした空気が流れる。

 それは議長ではなく楓が指定されたからだった。


「はい。話し合いは平行線で終わりました」


「俺は変更した方が良いと思っている」


 再び場の雰囲気が大きく乱れた。

 皐月家の格が落ちた今、霜月家の影響力は圧倒的に高くなっている。

 その当主が変更の意志を明確にしたのだ。


 その巌が、楓の方を時々気にしていることが、不気味だと言えた。


「まずはトークンという制度を廃止して円を導入するべきだ。公的な貨幣を使っていなかったために、一部の人間が管理してきたことが権力を増長させたと言ってもいい。貨幣の管理は個人がするべきではない」


「円に切り替えたとして、これまでの貯蓄はどうなる」


「没収に決まっている。おい、睦月楓。貴様のトークンを、ここにいる連中に見せてやれ」


「え、普通に嫌なんですけど」


「今の状況を手っ取り早く理解させるためだ。さっさとやれ」


「分かりましたよ」


 楓は不満を隠さずに、ため息をついた。

 タブレットを立ち上げると、全員に見えるように画面を立てる。


 状況を知っている巌や洸介、詩織は黙って見ている。

 だが何も知らない旧月家の代表たちは揃って息を呑んだ。


「こ、これは一体……」


「適当な貨幣だから、こういうことができてしまう」


 画面には、一京弱のトークン。

 普通に生活していれば、絶対に届かない数字だった。

 ちなみに的場から使わなかった分が戻ってきている。


「お義祖父さんにバラされてなかったら、黙ってようと思ってたんだけどな」


 楓は独り言のような気軽さで呟いた。

 数人の当主の喉が鳴る。

 楓が持っている一京トークンがそのままだとしたら――。


「わ、わたしは霜月さんの意見を尊重したいと思います」


「わたしもトークンは没収して、通貨を変更するべきだと思っていたんですよ」


 一斉に手の平を返す、旧月家の面々。


「俺のも没収ですか?」


「当然だ」


「ひどくないですか? 没収される額に、差がありすぎるんですけど」


「お前だけ例外にしたら制度改革にならん」


 巌は現状を嘆くしかできなかった。

 最高権力者達ですら、目の前の利益しか見ていないという現実を。

 楓を見ると、タブレットの画面を消して、周囲を観察するような視線を送っていた。

 さっきのおどけた会話は本気ではなかったようだ。


(このクソガキ、相変わらず飄々として読めん。だが終始、意見が一貫していたのはコイツだけだった)


「如月理事長。この件はすぐに実施したほうがいい。それでないと、何処ぞの当主が何か悪さをしそうだ」


「誰ですか、それは」


「黙れ、クソガキ」


「え〜。……それでは今から全住民にメッセージを送りましょう」


 理事長が専用端末を操作する。

 タブレットに着信を知らせる音が鳴った。


「今後、学術院内の通貨は円とします。タブレットでの運用は変わりません。既に金融大臣から日銀に話は通っていて、学術院に現金が運び込まれています。それを裏付けにしますので、不正に増やすことはできません」


「このシステムは外部から人を入れないと成り立たん。そうすると階級というシステムが問題になってくる。これは今回、発覚した問題でもあるので、階級制度はなくさなくてはならない」


 それは困るという顔をする当主が数人いた。


「反対意見があれば対案を出せ。なければ不満顔を見せるな。外部から人が入るということは、内部からも外に出れるということだ。覚えておけ」


 巌の宣言に近い形で、議会は終了した。


 その日、学術院創設から続いたシステムは、大幅な変更を遂げた。

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