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十八話 次代の英雄

  【楓視点】


 最上階に到着して、最奥にある洸介君の部屋のチャイムを押した。


「誰ですか?」


 すぐに緊張した声で返事がくる。


「久しぶり。変わりないかい」


 途端、解錠の音。


「睦月さん。待ってました」


 ワンコのシッポが見えたような気がした。


「今日は話があって来たんだ。お邪魔しても?」


「大丈夫です。どうぞ」


 洸介君は踵を返して中に入っていく。


「お邪魔します」


 俺も靴を脱いで後を追った。


「どうぞ」


 ダイニングで座布団が渡される。

 この生活環境にも、大分と慣れてきているようだった。


 それを受け取り、対面に座った。


「今日の目的なんだけど。洸介君を皐月家に戻したいと思ってね」


 彼の顔色が、明らかに悪くなった。

 ジリジリと後ろに下がっている。

 俺から少しでも離れようとしているように感じた。


「睦月さんまで僕を苦しませようとするんですか!?」


 絶叫に近い甲高い声だった。

 よほど堕天した時に、怖い思いをしたのだろう。


「苦しむ? 違うな。時が来たんだよ」


「時が……来た?」


「そういうこと。洸介君が皐月家を継ぐ時がね」


「それはどういう……」


「今、学術院がどんな状況か知ってる?」


 洸介君がタブレットを壊したことは知っている。

 今、彼には情報を集める術がない。


「卵を買うのに二万トークン、下着を買うのに十万トークン必要になった。そうなったのは皐月家の責任だ」


「そんなことないでしょう。どうして皐月家だけの責任になるんですか。学術院の運営は旧月家全体の話ですよね」


「ここの物価を決定しているのが皐月家だからだよ。学術院の運営として考えれば、俺達、旧月家は皐月家を滅ぼさないといけなくなるね」


「そんな……」


「俺は皐月家を潰すのは下策と思っている。そして皐月家には継続して欲しいと思っている。そうなると頭の入れ替えは決定事項なんだ。責任を有耶無耶にできないからね」


 洸介君の顔色は、青を通り越して真っ白になっていた。


「洸介君、皐月家を継いでくれないか。被害を最小限に抑える為に。そして学術院の未来の為に。君が決意するなら、俺が全面的にバックアップするよ」


「本当ですか!」


「当然だよ。俺を信じて欲しい」


「それだったら受けます。睦月さんがいてくれるならやります!」


「分かった。この危機的状況を乗り切ろう」


「はい!」


「そうと決まれば善は急げ。管理局に行こうか」


「はい!」


 洸介君が着替える間、俺は外に出て待つことにした。

 今の間に、お義兄さんへの連絡を済ませておこう。


   ☆


 マンションから天の壁を越えて、三区に入った。


 日増しに、街の雰囲気が重くなっているように感じる。

 全ての店はシャッターを下ろしていて、以前の活気は感じられない。

 すれ違う人々は俯き気味で、挨拶をしている姿を見ることはなかった。


 俺達は足早に駅からリニアに乗って、特区管理局がある天御柱に向かっていた。


「洸介君はしばらく外出してなかったんじゃない?」


「そうですね。外に出るのが怖くて」


「その割には歩くのが早いね」


「そうですか?」


「若さって大事だね」


 他愛のない話をしていると、天御柱に到着していた。

 駅から出て局長室へ向かう。

 さっき連絡をして、お義兄さんの動きは押さえている。


 局長室の扉をノックした。


「どうぞ」


 中からお義兄さんの声が返ってくる。


「失礼します」


 扉を開けて中に入る。


 禁書庫に行った時から、何も変わっていない室内。

 ただ学術院の環境は、比べられないほど変わってしまっている。


「要件はなんだい? 要件を伝えずに、局長室で待っておけ、というのはどうかと思うよ」


 目を細めて微笑んでいる。

 その表情を、額面通りに受け取ることはできない。


「洸介君のタブレットが壊れたので、新しい物に交換して下さい」


 俺は彼の部屋から持ち出したタブレットを渡した。

 画面は割れ、中の基板も破損している。


「これを持ってこられても、わたしにはどうすることもできないね。所定の手続きを――」


「お義兄さん。今夜がヤマだと思いますよ」


 俺は自分のタブレットを見せた。

 そこには用意していた文章が表示されている。


「これは、どういうことかな。睦月楓」


 お義祖父さんに似た獰猛な顔を見せる流星さん。


「この文章を俺か洸介君が流すかの違いです。個人的には洸介君が流す方が良いと思っています」


「これを今流してみろ! 暴動起こるぞ! 分かっているのか!」


「当然です。そうなるように煽っていますから。でも遅かれ早かれ暴動は起こります。この流れは誰も止められない」


「わたしは管理局の局長だ。それを許すわけ――」


「俺は睦月家当主です。旧月家として、今の学術院の状況は看過できません。もしくは、タブレットの交換を賭けて、あなたに魔術決闘を申し込みますか? 時間の無駄にしかなりませんが」


「くっ! わたしを愚弄するのか」


「愚弄ですか。そんな言葉遊びをしているほど暇じゃありません。俺の希望はタブレットの交換だけです」


 お義兄さんは椅子に背を預けて天井を見上げた。

 顔を両手で覆い、大きなため息をつく。


「管理局の受付に行きなさい。話は通しておく」


「さすが、お義兄さん。無理を聞いてもらってすみませんでした。また今度、ファンタジー談話でもしましょう」


 俺達は下の階にある総合案内に向かった。


   ☆


 学術院に着いて、最初に来た場所がここだった。


 受付に着くと要件を伝える。

 話が通っていて、すぐにタブレットを交換してくれた。


 洸介君が受け取ると、近くの椅子に腰を下ろす。


「洸介君、この文章をそのまま打ち込んで、全住民に送ってくれるかな」


 お義兄さんに見せた文章を表示させる。

 洸介君はそれを見て、顔が引きつった。


 それは、皐月家に対しての宣戦布告。


 皐月洸介をリーダーとして、住民の怒りを皐月家に向かわせる煽り文句だった。

 二区と三区の住人、合わせて二万六千人。


(さあ、どうする皐月雄介。一ヶ月前から始まった、このゲーム。現場を見ていれば対処できたはずだ)


 自分の口角が、わずかに上がっているのを感じた。

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― 新着の感想 ―
 楽しい! でも……タイトル通りの魔術無双もみたいっ!
最新話まで楽しく読ませていただきました。 魔術を前面に出しすぎず、その他の要素に重きを置いて展開していく物語は、とても新鮮で面白かったです。 今後にも期待して、ブクマ、星5で登録させていただきます。…
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