↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

80/94

十三話 反撃の狼煙

 的場はマンションの一室で、指揮を執っていた。


 楓から預かった五千兆トークン。

 その途方もない資金を、的場は一度に動かすつもりはなかった。

 まずはその一部――五千万を、メビウスの主要メンバーに分配する。

 そこから先の采配は主要メンバー、それぞれの腕の見せどころというわけだ。


 購入した商品を納める倉庫の手配も既に済ませてある。

 上手い立ち回りを見せた人間には、追加のボーナスも用意していた。


 こういう采配の仕方は、これまでの的場のやり方とは違う。

 喧嘩や脅しなら得意だが、金を使って人を動かすというのは、別の筋肉を使う作業だった。

 それでも不思議なことに面白いとさえ思えていた。


「的場さ〜ん、トークン無くなったッス」


 主要メンバーの一人が、慌てた様子で基地に戻ってきた。

 作戦が始まってから、まだ一時間も経っていない。


「テメエのタブレットを見せてみろお」


「どうぞッス」


 差し出されたタブレットに表示されたトークンの残高は、ほとんど無くなっていた。


「買った品は倉庫に運んだのかあ?」


「まだッス。ダチに買い付けをお願いしてるッス」


「ああん、ダチだ? テメエ、友人とかいねえだろうがあ」


「失礼ッスね。俺の特技は人と壁を作らないことッスよ」


 言われてみれば確かに、マンション前で誰にでも気軽に話しかけていた男だった。

 何を考えているか分からない楓にも、臆することなく挨拶していた記憶がある。

 確かに愛想の良さだけは突出していた。


「どれくらいで倉庫に集まりそうだあ?」


「それは分からないッス。百人くらいで動いてるッスから」


「百人だ? ダチが多すぎだろうがあ」


「それは普段の挨拶の結果ッスね」


 挨拶だけで人間関係を築けたら誰も苦労はしない。

 それでも、この男の場合はどうやら冗談ではないらしい。


 そう考えている的場のタブレットが鳴った。


「なんだ、どうしたあ?」


『的場さん。商品が届き始めました』


 倉庫からの連絡だった。


「そうか。どれくらい届いたんだあ?」


『五十人くらいいるので、結構な量が集まっています』


「なるほど。オメエ、一般人の皆さんと話をまとめられるかあ?」


『無理ですよ。そんなことができたらメビウスにいませんって』


「そりゃそうだよな。そっちは頼んだぜえ」


 通話を切った的場の喉が、楽しそうに鳴った。


「テメエのダチが倉庫にブツを持ってきたそうだ」


「そりゃそうッス。そういう風にお願いしたッス」


「テメエの名前、教えろ」


「俺っスか。山田太郎ッス」


「平凡すぎてビビったぜえ」


「それは俺の責任じゃないッス。親に言ってほしいっス」


 的場は少し呆れながらも、腕を組んで考える。

 この男の顔の広さは、思っている以上に使えそうだ。


「山田。今からテメエの仕事量は二倍だぜえ」


「に、二倍ッスか」


「何だあ。やっぱ無理かあ?」


「いえ、楽勝ッス。多分、五倍くらいまではイケるッスよ」


「ほう、言うじゃねえか。それじゃあ、五倍いってこいや! その分、報酬も五倍だぜえ!」


「ラジャーッス」


 的場は山田のタブレットに追加でトークンを送る。

 数字が跳ね上がったのを見て、山田の目の色が変わったのを的場は見逃さなかった。

 金に釣られる素直さも、使いようによっては武器になる。


「山田。テメエ、大工に知り合いはいるかあ?」


「いるッス」


「それじゃあよ、一つ頼まれてくれねえかあ?」


「何をすればいいッスか」


「それはな――」


 的場は山田の耳元に顔を寄せて、声を落とした。


「おー。睦月の旦那には世話になってるから、それは賛成ッスね。絶対に確認しとくッス」


 山田は敬礼のような仕草をすると、勢いよく部屋から出ていった。


(今まで力こそ全てと思ってきたが、力だけじゃあダメだってことだなあ)


 的場は足を組み直して椅子に座った。

 荒っぽさだけで四区を統べてきた自分が、今こうして人を配置し、資金を動かし、倉庫を管理している。

 柄でもないと思うが、この湧き上がる高揚感は嫌いではなかった。


 タブレットが再び鳴った。


「俺だあ。どうしたあ?」


 それは倉庫からの救援要請だった。


☆


 翌日、的場は倉庫に赴いていた。


 巨大な山脈を思わせるほど積み上げられた物資が、目の前に広がっている。

 昨日一日で使った資金は、三千万ほどだった。


 この倉庫は二つのブロックに分かれていて、常温商品と冷凍商品がそれぞれ備蓄できる造りになっている。

 メビウスの連中と、協力的な住民のおかげで、四区のショップからは品物が軒並み消えていた。


(次の入荷はいつだろうなあ)


 的場は獰猛に口角を上げた。


「あ、的場さん。来てもらってスミマセン」


 倉庫の管理を任せている男が、慌てた様子で駆け寄ってきた。


「どうしたんだよ? 俺も忙しいんだぜえ」


「スミマセン。ですが回線はあまり使うなって聞いていたので」


「確かにな。学術院のシステムは皐月が握っているらしいからな。それで相談ってのはなんだあ?」


「実は……倉庫の在庫管理をどうするか困ってまして」


「タブレットで管理すりゃいいだろうがあ」


「それが、システムを使うと皐月に見つかるんじゃないかって……」


「だったら、ソレを使わずに管理すりゃいい。俺ら……いや、四区は人の数だけはいるだろうが」


 紙とペン、それに人手さえあれば管理は何とでもなる。

 手間はかかるが、痕跡を残さない方が重要だ。


「なるほど。見返りはどうします?」


「何のために、これだけの品を集めていると思ってるんだあ?」


 的場は当然のように答えた。

 人を動かすには相応の見返りが必要だということも、この数日で身についていた。


「了解しました! 的場さん。実はもう一つ問題がありまして」


「まだあんのかあ?」


「四区の住民から、商品を売ってほしいって問い合わせが来てます」


 的場は少し考え込んだ。

 四区の住民を困らせるのは、楓の意向から明らかにズレている。


「……売れ」


「え?」


「売れっつってんだよお」


「でも、それじゃ買い占めの意味が……」


「あるんだよ。住民の信頼っていう対価がなあ」


 この意味を、目の前の男は理解していないようだった。

 それでも別に構わない。

 的場自身、仕掛けの全体像は楓から聞かされていない。

 ただ、四区の住民を敵に回すのは違う気がする。


 その時、的場のタブレットに着信があった。


「的場さん。皐月から追加の商品が入るという情報をつかみました」


「そうか。どれくらいだあ?」


「昨日の三倍です」


「そうか」


 的場の顔が、笑みで大きく歪んだ。


「全部買うぞ」


 的場の喉が、楽しそうに鳴る。


 これまで虐げられてきた四区というスラムがある。

 その反撃は既に始まっていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
 普通に買い占めて、安く? ばら撒く。 支払い金は欺瞞データのみ。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。