↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

57/67

第二十話 学術院理事会

  【楓視点】


 月末はあっという間に過ぎていった。


 フルコマで講義をこなし、夜は凛と舞踏祭の練習をする。

 それが毎日の流れになって、気づけば一月が終わりに差し掛かっていた。


 この前から凛が何かを始めたようだったが、どうやっても教えてくれなかった。

 聞くたびに「内緒です」と言われる。

 満更でもなさそうな顔をしているので、悪いことではないとは思う。

 ただ凛がそんな顔をするのが珍しくて、俺はついつい何度も聞いてしまった。


 ヴィクトリアさんも講義に戻ってきた。

 管理局での事情聴取では、俺と魔法決闘をしていたと証言したらしい。

 宮司さんはそれを偽証だと訴えたそうで、最終的にヴィクトリアさんは厳重注意という処分になった。


「しばらくは大丈夫よ。あの子も馬鹿じゃないから」


 宮司さんの言葉を聞いて、俺は少し安堵の息をついた。

 何度も戦闘を仕掛けられてはたまったものじゃない。


 ヴィクトリアさんが戻ってきた日、俺たちは講義中に一度だけ目が合った。

 彼女は表情を変えなかった。

 俺も変えなかった。

 何も変わっていない事に少し安堵した。


   ☆


 二月一日。


 俺は天御柱にある理事会の部屋に来ていた。


 円形のテーブルを五人の理事が囲んで着座している。

 スサノオに入学した初日、挨拶をした如月哲山理事長の姿が正面にある。

 他に知っている顔は皐月家のおっさんくらいだった。

 相変わらず偉そうな態度をしていて腹が立つ。

 何となく向陽サービスの課長を思い出して、更に腹が立ってきた。

 他の理事達は初めて見る顔ばかり。 

 皆、俺よりも上の世代で、ここが政治の場であることが締まった空気から伝わってきた。


 俺は証人台と呼ばれる場所に立っていた。

 要は関係者として呼ばれた人間が座る席だ。

 円形テーブルの外側、少し離れた場所に椅子が一つ置かれている。


「これより学術院理事会を開催します」


 如月理事長の宣言が部屋に静かに響いた。


   ☆


「本日は三つの議題を審議します」


 如月理事長は書類に目を落としながら、淀みなく読み上げていく。


「最初の議題は、証人台に控えている睦月楓君の旧月家入りになります。睦月楓君は先月の魔術祭において睦月家の秘術、月隠を披露しました。また遺伝子検査も実施済みです。最近はスサノオで教鞭を執っており、後進の育成にも前向きです。この件は霜月巌様から提出された議案になります。以上を踏まえ、審議をお願い致します」


 俺は息を呑んで、テーブルを囲む五人を見渡した。

 何か議論が起こると思っていたが、採決が即始まった。


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


 四人が立て続けにそう言った。

 如月理事長が頷く。


「わたしも異議はありません。全員一致で可決です。睦月楓君は本日より旧月家の一員として精進をお願いします」


 俺はその言葉を聞いて身体が硬くなった。

 全員一致の可決。

 その言葉が想像していた以上に重かった。


   ☆


「続きまして、皐月洸介君の昇天が議題になります」


 如月理事長は書類をめくりながら続けた。


「皐月洸介君は先月、堕天しました。劣悪な環境である四区で一ヶ月を過ごしました。これにより禊は済んだと判断します。この件は皐月雄介様から提出された議案になります。以上を踏まえ、審議をお願い致します」


 俺は動けないまま、その結果を待った。


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


「わたしも異議はありません。全員一致で可決です。議会終了後、皐月様は洸介君に通達して昇天手続きを行なって下さい」


 皐月のおっさんが大きな動作でガッツポーズをした。

 その動きが少し大袈裟に見えたが、今は気にしている場合ではない。


(この後、ちょっと洸介君に電話してみるか。俺としてはまだ(・・)四区から出てもらいたくないんだよな……)


 俺は再び視線を議場へと向けた。


   ☆


「本日最後の議案は、長月家の昇天及び旧月家入りになります」


 議題を聞いて俺の胸は跳ね上がった。


(長月の昇天だって!? どういう事だ)


「十年前、長月家は霜月家との魔術決闘に敗れ堕天しました。十年間、四区にいたことで汚名を雪いだと判断します。この件は当事者である霜月巌様から提出された議案になります。以上を踏まえ、審議をお願い致します」


(お義祖父様がっ?!)


 長月家の議案は巌が提出していた。


 先日、霜月本邸で話した時に、お義兄さんは長月の昇天は無理だと言っていた。

 理事会全員の承認が必要で、皐月家が反対するから通らないと。

 それが今、俺の目の前で議案として上がっている。


 審議は俺を置きざりにして進んでいった。


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


「異議なし」


「わたしも異議はありません。全員一致で可決です。この議会終了後、睦月様は長月様に通達して昇天手続きを行なって下さい」


 睦月様というのが俺のことだと気づかずスルーしそうになる。


「この後、伝えに行きます」


「宜しくお願い致します」


 一拍置いて如月理事長は続けた。


「これにて学術院理事会を閉会します。各々、退出をお願い致します」


 俺は立ち上がった。

 礼をする前に足がもう動いていた。


   ☆


 廊下に出るなり、走りながら宮司さんにコールした。


「宮司さん、四区に行きます!」


 電話の向こうで「おおう」という声がした。

 最近、宮司さんに無理ばかり言ってる気がする。


「天の壁で待ってます!」


 一方的に電話を切って、すぐに秘匿回線を繋げた。

 コールが一度だけ鳴る。


「お義祖父さん、ありがとうございました!」


『気にすんな。俺は忙しい、また結果を教えてくれ』


 それだけ言って、一方的に切れた。


 ああ、いつも通りのお義祖父さんだ、と思いながら俺はエレベーターのボタンを連打した。


   ☆


 天の壁の前で十分ほど待っていると、遠くから宮司さんが走ってくるのが見えた。


「ど、どういう事かしら。あたしも色々とあるのだけど」


 かなり急いでくれたようで肩で息をしている。

 サングラスが少しだけ傾いていた。


「長月の旧月家入りが通りました!」


「はい? ワンモアプリーズ」


「長月が旧月家に復帰できます! お義祖父さんが議案を提出してくれてました」


「ああ、そういう事。他におかしい議案は無かった?」


「洸介君の昇天に関する議題が一つ前にありました」


 宮司さんはしばらく黙った。

 息を整えながら、頭の中で整理しているのだろう。


「……交換条件ね。まあ良かったじゃない」


「なるほど、そういう事だったんですね」


「皐月家の洸介を昇天させる代わりに、霜月家が長月の昇天を通させた。政治的解決というヤツね。お館様は現役政治家だから、そういうのは本当に上手いわ」


 俺は少し考えた。

 お祖父様が何も言わずにそれをやってくれた。

 俺の審議が無事に通ったのも、何か手を入れてくれた可能性もある。


(一言も言わなかったけど動いてくれてた)


 俺が霜月本邸で口にしたこと――俺に全力で投資して下さいと約束したことが履行されている。

 それは計画の第一歩を踏み出せたという事だ。


「とりあえず、急ぎましょうか」


「宮司さん、お願いします」


 俺達は天の壁に向かって走り出した。


 長月本家のあの老婆が、この報告を聞いたらどんな顔をするだろうか。

 そう思いながら四区の空気に踏み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。