第九話 同郷の人
襲撃のあと。
私は震えが止まらなかった。
魔王軍との戦い。
魔物との戦闘。
最初は怖かった。
だけど、それはすぐに慣れた。
魔王との戦いでさえ。
怖いとは思わなかった。
でも今回は違う。
私がいるから。
私が生きているから。
エドが狙われた。
私がいなければ。
エドはこんな目に遭わなかった。
もしエドに何かあったら。
そう考えるたびに胸が苦しくなる。
寒くないのに震えが止まらない。
焚火の前で膝を抱えていると、エドが隣へ座った。
「アカネ」
私は顔を上げる。
「震えてるぞ」
「……」
「俺を巻き込んだとか考えてるのか?」
図星だった。
私は小さく頷く。
エドは大きくため息をついた。
「違うからな」
「え?」
「巻き込まれたんじゃない」
「俺が勝手に巻き込まれにいったんだ」
私は目を丸くする。
「俺だけなら最初から逃げてる」
「王様に呼ばれた時点で逃げたいと思ってたくらいだ」
「でも、お前がいた」
エドは焚火を見る。
「異世界に呼ばれて」
「知らない国に放り込まれて」
「戦えって言われて」
「魔王を倒せって言われた」
「そんな女子高生を置いて逃げるほど俺も腐っちゃいない」
私は驚く。
「女子高生って……」
エドは少し笑った。
「だから責任なんて感じるな」
「俺が勝手についてきたんだ」
しばらく沈黙が続いた。
そしてエドがぽつりと言う。
「まあ、たぶん俺も同郷だしな」
「え?」
「前世の話だ」
「日本人だった」
私は言葉を失った。
「……本当に?」
「ああ」
「細かいことはあまり覚えてないけどな」
「だから、お前がどんな気持ちなのか少し分かる」
異世界で。
ずっと一人だった。
誰も日本のことを知らない。
誰も話が通じない。
だけど。
ここにいた。
同じ国の人が。
それだけで胸の中の何かがほどけていく。
「だから気にするな」
「お前を助けたのは俺の勝手だ」
私は涙が出そうになる。
「……ありがとう」
エドは立ち上がった。
「もう寝ろ」
「明日も歩くぞ」
「うん」
私はテントに入る。
さっきまであった不安が少しだけ消えていた。
遠く離れた異世界で。
私はようやく。
一人じゃないんだと思えた。
その夜。
私は久しぶりに安心して眠ることができた。




