第八話 逆賊の夜
数日間。
エドとアカネは森の廃小屋で過ごした。
傷は少しずつ癒え、顔色も良くなっている。
そして。
「勇者様、もう歩けそうですね」
エドが言う。
「明日の朝、出発しましょう」
するとアカネが少し困ったように笑った。
「もう勇者様って呼ぶの、やめてもらえませんか?」
「え?」
「魔王もいなくなったし、私はもう勇者じゃないもの」
アカネは少し恥ずかしそうに続ける。
「これからはアカネって呼んでください」
エドはしばらく考えた。
そして頷く。
「分かった」
「これからはアカネだな」
「敬語もやめる」
アカネの表情が明るくなる。
「うん!」
「よろしくね、エド!」
◇
翌朝。
二人は小屋を後にした。
目指すのは国境。
森を抜け、近くの村へ向かう。
だが。
「あれ……」
アカネが足を止める。
村の入口には兵士が立っていた。
こんな小さな村には不自然な人数だ。
何かを探している。
エドはすぐに身を隠した。
「アカネ」
「たぶん俺たちだ」
アカネの顔が曇る。
「そう……」
「村は諦めよう」
「うん」
残念そうだった。
数日ぶりの人里。
温かい食事も期待していただろう。
だが危険すぎる。
エドは地図を見る。
国境まであと少し。
だが途中に町が一つある。
今の状況では近づけない。
「今日は森で野営だ」
「分かったわ」
◇
夜。
焚火は小さく。
交代で見張りをする。
アカネが眠りにつき。
エドが見張りをしていた時だった。
ヒュッ。
風を裂く音。
矢だった。
エドは咄嗟に身をかわす。
「アカネ!」
「弓だ!」
アカネが飛び起きる。
エドは近くの石を拾った。
気配の方向へ投げる。
ゴッ。
「ぐえっ!」
暗闇から声がする。
エドは次々に石を拾う。
一投。
二投。
三投。
四投。
「うっ!」
命中。
さらに投げる。
また命中。
エドの武器は石だった。
怪力。
それだけ。
だがソロでBランクまで上がった理由でもある。
石を投げれば大抵の敵は倒せる。
それだけの腕があった。
だが。
まだいる。
暗闇の中から二人。
短剣と長剣。
一気に飛び込んでくる。
エドは短剣の男の腕を掴む。
そのまま振り回した。
長剣の男へ叩きつける。
二人まとめて吹き飛んだ。
すかさず石を投げる。
「ぐえっ!」
「げふっ!」
静寂。
戦いは終わった。
◇
捕まえた男を尋問する。
「誰の差し金だ」
男は怯えながら答えた。
「しょう……賞金だ……」
「賞金?」
「荷物持ちのエド……」
「勇者の遺体を盗んだ逆賊……」
「生死は問わないって……」
エドは目を閉じた。
やはり。
王国は動いていた。
そして。
アカネは隣で小さく震えている。
エドは空を見上げた。
逃亡生活は。
思った以上に厳しいものになりそうだった。




