第十話 新しい旅路
翌朝。
エドとアカネは再び歩き始めた。
昨夜の話のせいか。
アカネはどこか落ち着かない様子だった。
目が合うと逸らす。
返事もどこか上の空。
「アカネ」
「な、何?」
「道、そっちじゃないぞ」
「あっ……」
顔を赤くして慌てて戻ってくる。
エドは苦笑した。
まあ仕方ない。
昨日、同郷だと話した。
しかも少し真面目な話までした。
気まずくなるのも当然だろう。
そのまま二人は歩き続けた。
そして。
国境まであと少し。
その時だった。
「待っていたぞ!」
聞き覚えのある声。
第三王子セシリオ。
宮廷魔術師ミーア。
そして数名の兵士。
道を塞ぐように立っていた。
「よくも俺に恥をかかせてくれたな!」
セシリオが怒鳴る。
だが。
その視線はアカネを見た瞬間に止まった。
「ア……アカネ……」
生きている。
その事実に顔色が変わる。
「だが都合がいい!」
「二人まとめて始末してやる!」
兵士たちも剣を抜く。
エドは前へ出た。
「アカネ」
「うん」
「なるべく下がってろ」
聖剣のない勇者は普通の少女だ。
守らなければならない。
兵士たちが襲い掛かる。
エドは一人の腕を掴む。
そのまま振り回して投げる。
別の兵士へぶつける。
石を投げる。
剣を奪う。
怪力。
石投げ。
それがBランク冒険者エドの戦い方だった。
気付けば。
立っているのはセシリオとミーアだけ。
「平民が!」
ミーアが杖を構える。
エドは石を投げた。
ゴッ。
杖を持つ右手へ命中。
杖が吹き飛ぶ。
「痛っ!」
エドは一気に距離を詰めた。
そのままミーアを持ち上げる。
「なっ!」
「何するのよ!」
エドは笑った。
「お前ら愛し合ってるんだろ?」
「末永くお幸せに!」
そして。
セシリオへ向かって投げる。
「やめろ!」
「俺を誰だと――」
ドカーン。
二人まとめて吹き飛んだ。
エドは満足そうに息を吐く。
「少しスッキリしたな」
アカネはぽかんとしていた。
「アカネ」
「あ、はい!」
「今のうちに行くぞ」
◇
やがて。
二人は国境へたどり着いた。
目の前には知らない土地。
知らない国。
知らない未来。
「この辺から先は別の国だな」
エドは振り返る。
「アカネ」
「これから何があるか分からない」
「だから行けるところまででいい」
「よろしくな」
アカネは笑った。
「エド」
「こちらこそ」
「これからも一緒についていきます」
エドも少し笑う。
そして二人は歩き出した。
勇者は死んだ。
英雄は王国へ帰った。
荷物持ちは逆賊となった。
だけど。
それでも。
二人は生きている。
新しい人生を歩くために。
国境の向こうへ。
二人は晴れやかな顔で歩いていった。




