第五話 目覚めた勇者
王様との謁見のあと、私は王城の地下へ案内された。
そこには歴代の勇者が使ったという聖剣が祀られているらしい。
魔王と戦う際に勇者だけが扱える剣。
そう説明された。
地下深くにある石造りの広間。
中央には大理石のような白い台座があり、その中央に一本の剣が突き刺さっていた。
「勇者様、こちらが聖剣でございます」
案内役の神官が頭を下げる。
「どうぞお手に取ってお確かめください」
私が近づこうとした時だった。
「待て」
第三王子セシリオ様が私を押しのけた。
そして聖剣の柄を握る。
「ふん……!」
力を込める。
だが、剣は微動だにしない。
「なぜだ!」
もう一度。
「ぐっ……!」
それでも抜けない。
「どうして俺に抜けない!」
セシリオ様は顔を赤くして叫んだ。
周囲が静まり返る。
やがて王子は乱暴に手を離した。
「勇者様……」
神官に促され、私は恐る恐る近づいた。
柄に両手を添える。
その瞬間。
聖剣が淡く光を放った。
驚きながらも力を入れる。
「よいしょ……」
すると、あっさりと抜けた。
広間がざわめく。
「やはり勇者か……」
「本物だ……」
そんな声が聞こえた。
だが。
「馬鹿な……」
セシリオ様の顔だけは歪んでいた。
「なぜ平民ごときに……!」
私から聖剣を奪い取る。
「渡せ!」
だが。
「うおっ!」
セシリオ様はそのまま聖剣を床へ落とした。
金属音が響く。
どうやら重くて持てないらしい。
私は慌てて拾い上げる。
「あの……鞘とか仕舞うものはありませんか?」
その時。
セシリオ様は私を睨んでいた。
今まで見たことがないほど冷たい目だった。
◇
それからだった。
セシリオ様は私とほとんど話さなくなった。
声を掛けても返事は短い。
ミーア様の態度もどこかよそよそしい。
私が何かしてしまったのだろうか。
理由は分からなかった。
ただ。
荷物持ちのエドさんだけは変わらなかった。
「荷物を持ちます」
「足元に気をつけてください」
「今日は冷えますね」
特別優しいわけではない。
でも普通だった。
それが少しだけ嬉しかった。
◇
魔王との決戦前夜。
私は寝ていたところをエドさんに起こされた。
「勇者様」
「少し来ていただけますか」
神妙な顔だった。
私は静かにテントを抜け出した。
他の二人に気付かれないように。
人気のない場所まで歩く。
エドさんは何度も念を押した。
「声を荒らげないでください」
「静かに聞いてください」
「絶対に二人には気付かれないように」
そして話し始めた。
セシリオ様とミーア様が私を殺そうとしていること。
魔王を倒した後、襲撃するつもりでいること。
最初は信じられなかった。
でも。
エドさんは嘘をつく人ではない。
「俺に提案があります」
エドさんは真剣な顔で言った。
「魔王を倒したら倒れてください」
「死んだふりをしてください」
「後は俺が何とかします」
「俺に任せてください」
私はしばらく考えた。
この世界へ来てから。
普通に接してくれた人。
それがエドさんだった。
「……分かりました」
「お任せします」
私はそう答えた。
◇
「今だ!」
私は飛び込んだ。
聖剣が魔王の胸を貫く。
「ぐああああああ!!」
魔王の絶叫。
だが、その手に光が集まる。
「おのれ、勇者……!」
閃光。
白い光。
その瞬間。
エドさんが煙玉を投げた。
白煙が広がる。
だが間に合わない。
「きゃあああっ!」
光が私の体を貫いた。
同時に魔王も崩れ落ちる。
「グ……ハハ……勇者を……道連れに……」
静寂。
「勇者様!」
エドさんが駆け寄ってくる。
必死の顔だった。
どうして。
そんなに必死なのだろう。
そう思ったところで。
私の意識は途切れた。
◇
「う……うーん……」
私はゆっくり目を開けた。
頭がぼんやりする。
体が重い。
辺りを見渡す。
そこは朽ちかけた小屋だった。
屋根は半分崩れ。
壁には穴が空いている。
どうしてこんな場所に。
そして。
壁にもたれかかって眠るエドさんが見えた。
服は汚れ。
顔には疲労が浮かんでいる。
とても疲れているように見えた。
そこで少しずつ思い出す。
魔王。
閃光。
白煙。
そして。
エドさん。
私は。
生きている。
「エ……エド……さん……」
かすれた声が小屋に響いた。




