第二話 決戦前夜
夜の森をエドは走っていた。
腕の中の勇者アカネを抱えて。
必死に。
冷たい。
重い。
(どうしてこんなことになった……)
エドの脳裏に昨夜の出来事がよみがえった。
◇
魔王城攻略前夜。
勇者アカネは早くから眠っていた。
明日は魔王との決戦。
誰もが緊張していた。
荷物持ちのエドは焚き火の薪が足りないことに気づき、近くの林へ向かった。
その時。
「明日、決行する」
聞き覚えのある声に足を止める。
木陰の向こうにいたのは第三王子セシリオと宮廷魔術師ミーアだった。
「とうとうですのね」
「ああ」
セシリオは吐き捨てる。
「これでようやく終わる」
「あんな女との結婚などまっぴらだ」
エドは息を呑んだ。
勇者アカネ。
魔王討伐の後、第三王子との婚姻が決まっている。
国王は勇者の血を王家へ迎えるつもりなのだ。
「父上も狂っている」
「勇者の力が欲しいからといって、あんな異世界人を王家に迎えようなどと」
「私もそう思います」
ミーアは頷いた。
「あの顔も振る舞いも好きになれません」
「平民のくせに王妃になるつもりなのですから」
セシリオは鼻で笑う。
「魔王はあの女に倒させる」
「俺たちは適当に援護するだけだ」
「そして魔王を倒した瞬間に始末する」
ミーアが微笑む。
「魔王の最後の一撃ということですね」
「ああ」
「勇者は名誉の戦死だ」
エドの背筋が凍った。
二人は本気だ。
勇者を殺すつもりなのだ。
(勇者様に知らせるべきか……)
だが相手は第三王子。
証拠もない。
荷物持ちの自分の言葉を信じてもらえるだろうか。
そして翌日。
魔王は倒れた。
勇者は倒れた。
そして。
『なんと……朗報だ』
あの言葉を聞いた瞬間。
エドはすべてを理解した。
昨夜の会話は。
すべて本当だったのだ。




