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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第1章

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「先端AI研究所の御堂真理」 04

2025.4.27 8:00 東京・真理の研究室


「という事で」


 12時間、ほぼ作業に明け暮れていたとは思えない溌剌とした真理の声が研究室に響いた。


「誰がいつ、何をするのか。ほぼ決まったわね!」

「麗蘭のサーチさえハマれば、負ける理由がないね」

「私が外すはず無いでしょう。そう言うのを何て言ったっけ・・・猿も木から落ちる?」

「麗蘭さん、それ全く逆の意味っす」


 こいつらは何でこんなに元気なんだ・・・2徹に近い夜を過ごした宮本はぐったりし、南は白目を向いて意識を失っていた。


「では、後は事が進み次第速やかに、って事で。僕は先に失礼するよ」


 マイクはそう言って画面からログアウトした。


「私も事務所に戻って、サーチを最大化するわね。負荷上限が3日だけど、それまでには何とかするわ」


 ノートパソコンを華麗に畳むと、麗蘭は魅力的な笑みを残し颯爽と去っていった。


「そんじゃ、俺たちも戻るか。南、起きろ!帰るぞ!」

「は、ハイっ!」


 南はハッと目を覚まし、一瞬どこにいるのかキョロキョロと見回した後


「了解です!」


と敬礼し宮本に続いた。ドアを出る際、宮本が振り向いて真理に話しかける。


「御堂さん、途中経過は正直よく分からなかったけど結論には納得した。その通りになるかは今でも半信半疑だけど、やるべきは協力する。そこは信用してくれ」


 真理が初めて宮本に笑顔を返す。


「あと・・・連絡が遅れた事、本当に悪かった。皮算用をしてしまった事を後悔している」

「いいんですよ。私の方こそ、失礼な態度をとってしまい申し訳ありませんでした。ご協力、期待してますね!」


 この12時間で宮本の真理に対する印象は180度変わった。この子は、全力で生きてるんだ。真理の励ましになんとも言えない活力を得て宮本は力強く、南はよろけながら帰っていった。


「じゃあ、僕らも帰りますか」

「長丁場だったしね」


 真理は機材を片付け、ぐっと伸びをしてから悪戯っぽく笑った。


「でもさ」

「はい?」

「一件寄ってかない?一仕事の後の一杯は、格別だと思うのよ!」

 目をキラキラさせながら見上げてくる真理の破壊力に桐生はあっさりと降参した。

「1件だけですよ?」



◇◇◇



2025.4.28 10:00 都内某所


 5つ目の事件に誰もが不安な気持ちを抱えて迎えた月曜日。一人の中年女性が少し周りを気にしながら雑居ビルの中へ入って行った。物陰から女性を観察していた男性が視線を固定したままスマホに話しかける。


「対象、ビルに入りました。引き続き監視を続けます」

「了解。こちらの準備も万端だ」


 長い1日が始まろうとしていた。



◇◇◇



 雑居ビルの8階にある小さな一室。ドアには「国際通商商事」と書かれた年季もののプレートが黄ばんだ姿を晒している。女性はここでもキョロキョロと不審な動きを見せ、やがて意を決し部屋に入って行った。

 部屋の中は黒いカーテンで覆われており、正面に祭壇のようなものが鎮座している。丸い鏡のような物体を挟むように立てられた蝋燭の灯りだけが不気味に部屋を照らしている。

 と、闇の中から深いフードを被った男が女性に声をかけた。女性が声も出せず目を見開いて驚く。


「すみません、驚かせてしまったようで申し訳ない。お越しいただいて光栄です」


 男の声は低く、落ち着きがあり女性を安心させる何かを持っていた。


「いえ、こちらこそ、遅くなりまして・・・」


 女性が俯きながらモゴモゴと口ごもる。


「ご安心ください。ここにはあなたと私しかおりません。そして私は、あなたを救済するためにここに立っているのです」


 気後れする女性を励ますように、男は女性の背に手を添えながら祭壇の前に誘導した。


「この鏡は真実を映します。真実のAI教、と言われる所以です。もっとも、選ばれた信徒以外の方はそんな事を知る由もありませんが」


 女性が恐る恐る祭壇の鏡に目を向ける。黒光りする丸い鏡に、ぼんやりと自分の姿が映っている。


「さあ、勇気を出して見つめるのです。あなたを苦しめているものの正体から目を逸らさず、ありのままの感情を伝えてください」


 女性は鏡を直視した。沈黙の数秒。変化はすぐに訪れた。女性は恐怖に顔をこわばらせ、目を見開きながら叫んだ。


「嫌!嫌!どうしてみんなそんな目で私を見るの?もう嫌よ・・・これ以上耐えられない・・・」


 震える肩を後ろから優しく包み、男は甘く囁く。


「よく目を逸らさず向き合いました。素晴らしい勇気です。皆は今、どんな顔をしていますか?」

「私を・・・私がこの世に存在することすら許さないという目で見ています・・・」

「それがあなたの犯した罪の結果。あなたはそこから逃げることは出来ません」

「そんな・・・そんな・・・」

「ご安心ください。犯した罪は、それを上回る善行によって上書きされ、その時あなたの魂は解放されるのです。もう何かに怯えることもなく、幸せのまま神の楽園へと至る事ができます」

「それは、どのような善行を積めば?」

「積む必要はありません。より罪深き咎人に裁きを与えるのです。あなたがこれまで感じてきた理不尽や怒り、不幸は今日に至るための幻のようなもの。負の遺産は精算され、輝ける一瞬にあなたは生まれてきた意味を知るでしょう」

「私の生まれてきた・・・意味?」

「多くの人は自分が何のために生まれてきたのか、その意味を知る事もなく後悔のうちに一生を終えることも少なくありません。しかしあなたには明確な意味がもたらされた。あなたは選ばれたのです」

「私は・・・私は何をすれば?」

「ある人物に裁きを下してもらいます。人知れず罪を犯しながら、裁かれる事もなくのうのうと生きている咎人です。あなたの裁きにより、これからも続くであろう不幸の連鎖を断ち切るのです」

「私に・・・出来ますか?」

「あなただから、出来るのです」

「ああ、教主様・・・」


 女性はひざまづき、教主の手を取った。


「神は決してあなたを見捨てません。救われるその瞬間を、今この時も待っていらっしゃるのです」

「そうやって、心の弱みにつけ込んでたのね」


 ドアが開き、室内に真理の声が響く。


「・・・あなたは?」


 穏やかだった教主の声に不審の色が浮かんだ。続いて踏み込んだ宮本が拳銃を構えながら油断なく教主に狙いをつける。


「警察だ。殺人教唆の現行犯で逮捕する」


 宮本の背後からこっそりと成り行きを見ていた桐生は心の中で思った。


「まるっきり映画だわ、これ」

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