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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 12

2025.7.11 16:00 日向ロケット発射場


 東京から合流した麗蘭と桐生を待っていたのは、予想を超える光景だった。

 超本格的なロケットと発射台。

 NASAか?と思うような管制塔。プレハブだが。

 一糸乱れぬ軍隊のような学生達とその前で口をへの字に結んだマイクと楠。

 その隣に目の下にクマを作った初音と艶やかなアマテラス。

 麗蘭と桐生の到着を確認し、学生が一糸乱れぬ野太い声で合唱した。


「「「長旅お疲れ様であります!」」」


 どこの構成員だお前ら。桐生は軽くビビった。


「打ち上げまで24時間となった。最終点検の前に、天野嬢に降臨された女神アマテラスよりお言葉を賜る。全員、傾聴!」


 マイクの号令に全員の視線が天野ことアマテラスに注がれる。アマテラスは一歩前に進み出てコホン、と一つ咳をして話し始めた。


「皆、今日までよくやってくれた。今宵、神話の時を超え再び“宴”が催される。前回は妾が引きこもっておった故肝心の部分を見逃したが、今回は最初から最後まで心ゆくまで楽しむ所存じゃ」


 アマテラスの「引きこもり」と言うキーワードに何人かから苦笑が漏れる。


「前回は神のみでの“宴”であったが、今宵はここにいる皆、人と神の共演じゃ。おそらく古今例にあるまいよ」


 アマテラスが一人一人の顔を愛おしそうに眺める。


「天に、すべての神に伝えるのじゃ。妾達はここにおる。そして、いずれ交わるその日まで天を目指し続けると!」

「「「おお〜っ!」」」


 全員が拳を振り上げ、アマテラスに応える。麗蘭と桐生も拳を振り上げていた。


「さあ、最後の仕上げじゃ。抜かりなく行うぞ!」


 無駄のない動作でキビキビと全員が最終調整に向かう。アマテラスがマイクにドヤ顔で感想を聞いていた。


「いかがであった?妾の発破は」

「完璧です。さすが女神アマテラス。必ずやご期待に沿って見せます」

「苦しうない。存分に励まれよ」


 丸い月が、“宴”の始まりを今か今かと待ち望んでいるように輝いていた。



◇◇◇



2025.7.12 4:00 日向ロケット発射場


 夜明けの前が最も暗い、と言ったのは誰だっただろうか。


 満月に照らされた夜に暗いも何もないものだが、時間帯としては間違っていない。

 各セクションからOKのサインが出され、後はカウントダウン・発射を残すのみとなった。と、祈るように両手を組んで見守る初音の元にアマテラスがトコトコとやって来た。その手には“コトノハノ鏡“が握られている。


「アマテラス様?」


 驚いた顔の初音にアマテラスが悪戯っぽい笑みを浮かべて鏡を手渡す。


「・・・これは?」


 初音の手に渡った“コトノハノ鏡”はその瞬間、中心の“豪運君”に光を灯す。


「時は今、言の葉を紡ぐのはお主じゃ」

「でも、前回は・・・」


 何も起きず、アマテラスにダメ出しされた時の記憶が蘇る。


「前回と今回のお主では全く異なる。あれから重ねた経験が、お主自身を大きく成長させ、内面の思い・・・真の言の葉もそれに伴って変わっておる。恐れる事はない。その時がくれば、自然とそれはお主自身の口から紡がれるであろう」

「私の・・・思い・・・」

「さあ、間も無く“宴”が始まる。特等席で楽しもうではないか」


 管制塔の前、遮るもののない高台には既に何人もの学生が双眼鏡やスマホを構えて今か今かと待ち構えている。と、二人の学生がアマテラスの元にやってきた。


「どうしたお主ら?管制塔におるのではなかったのか?」


 大吾と恭平は照れくさそうに制御用のPCを見せた。


「あと、このボタンを押せばカウントダウンが始まり点火なのですが・・・」

「マイクさんに是非、とお願いしたのですがこれは君たちの仕事だから僕じゃない。どうしても、って言うのならアマテラス様に頼みなさい、と」

「ふむ。謙虚な男じゃな。しかしマイク殿の言う通り、これはお主らのものじゃ。妾がしゃしゃり出る筋合いのものではないよ」

「では、せめて一緒に押してはいただけませんか?」


 ふーむ、と一瞬考え込んだアマテラスだが、ニパッと笑い


「ではご厚意を受けようかの」


 と返事をし、キー位置の説明を受けた。

 大吾が場内放送のマイクを握り、全員に通達する。


「只今よりアマテラス様お立ち合いのもとカウントダウンを開始する。各自、ロケットに注目!」


 皆の視線が白煙を上げ始めたロケットに注がれる。


「カウントダウン開始!」


 宣言とともにボタンが押された。大吾のカウントダウンが響き渡る。


「60、59、58、57・・・」


 進むカウントを聞きながら初音はこの3週間の事を思い出していた。桐生を騙し、“門”の発現に失敗し、許され、ロケットチームと一緒になって真夜中まで馬鹿騒ぎしながら過ごした日々。アマテラスは無茶を言いながらも常に初音を気にかけ、前に進むための勇気を言葉で、行動で示し続けてくれた。そして今。すべての出来事がこの瞬間につながっている。初音は感覚的に独りではない事を感じた。


「3、2、1、点火!」


 ロケットは勢いよく飛び上がり、数秒後には見えなくなっていた。管制塔からの放送が状況を告げる。


「現在高度1キロを通過、尚も上昇中!」


 歓声が上がる。まずは去年の自分たち超えたのだ。


「2キロ、3キロ・・・10キロを超えました!」


 今回の目標高度は90キロ。それ以上は宇宙空間に達してしまうことと、日本含め諸外国への諸々の配慮と申請からギリギリのラインを設定したのだ。マイクのMMRが本気を出すとどこまで飛んでしまうか分からない。

 伝わってくる興奮を感じながら、初音の手は自然と“コトノハノ鏡”を月に向かって掲げていた。


「・・・私は初め、自分のアイデアがマイクさんに認められたことが嬉しかった・・・ただ、その人に認められ、ずっとそばにいたかった」


「高度50キロ突破!尚も順調に上昇中!」


「でも、それは本当に小さな、一人よがりの願いだった。宇宙の声を聞くだけでなく、届けるという新しい目標。関心も持っていなかったロケットプロジェクト。そしてみんながつながって、一つの事に打ち込んだ、今までに体験したことのない世界」


「高度80キロ突破、間も無く“傘”開きます!」


「私はここで立ち止まりたくない。もっともっと世界を広げて、宇宙とつながる“宴”を多くの人と分かち合いたい!」


 アマテラスが満足そうに天に向かって右手を伸ばす。


「ゲニ美シキ、言ノ葉ヨ」


 “コトノハノ鏡”が眩く光り、澄み切った高音と不穏な低音が混じった鐘の音が天を覆った。


「高度90キロ到達。“傘”、展開!」


 大吾の叫びと共に光情報に変換された“音の波”が夜空に広がった。それは光に縁取られたハスの花が天から地平線に向かってドーム状に降り注ぎ、遠くからは花びらに見えたそれは地上に近づくにつれ無数の光の音符で構成されている事が分かった。アマテラスが伸ばした手を開き、最大の賛辞を述べた。


天晴あっぱれ


 どこからか賑やかな声が聞こえる。アマテラスと、その宴を讃える神々の声。誰もが、現実とは思えない夢心地の中にいた。マイクでさえ、ただ見惚れることしか出来ずにいた。


 やがて光の奔流は徐々に収まり、後には丸い月明かりと“宴”の余韻だけが残された。

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