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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 11

2025.6.28 9:00 宮崎県・日向宇宙工科大学真田研究室


 初音の鼓動は外に聞こえるんじゃないかと思うほど激しく脈打っていた。宇宙に届ける声として厳選した曲目をアマテラスに披露しているのだ。

 神楽から始まりクラシックの名曲が並んだリスト。ダイジェストにまとめた2時間のデータ再生が終わり、初音は期待半分恐怖半分で尋ねてみた。


「あの・・・アマテラス様、いかがでしょうか?」


 目を閉じて真剣に聞いていたはずのアマテラスがハッと目覚める。


「ん・・・ここは・・・?」

「大学の研究室です!」


 初音がちょっと怒った声を出した。アマテラスは悪びれる様子もなく、事もなげに答えた。


「すまぬ。あまりに退屈ゆえ、そのまま天に召されそうになったわ。神なのに」

「そんな・・・」


 初音が涙声になる。


「初音殿、誤解してはいかん。妾が此度求めるのは“宴”であって“儀式”ではない。ゆえに」

「ゆえに?」

「こんな事もあろうかと妾自ら演目をチョイスした。これはウケるぞ!」


 全身でワクワクを表現しながら渡されたリストは神楽がJPOPに、クラシックはロックに変わっていた。


「・・・日本の神の宴にエアロスミスとか大丈夫なんですか?」

「それを言うならバッハを出してきたお主は何なんじゃ?」

「うう、神に捧げるのならと思ったんです・・・」

「捧げる神が違うわ。たわけ。ちなみに奴ともこないだ話しとったが、お気に入りは“ジーザス○ライスト=スーパースター”らしいぞ」

「何で今の神様ってみんな世俗にまみれてるんですか・・・」

「時代が流れ、変わるのは神の世界も同じじゃ。と言うことでこの妾セレクト200曲、打ち上げまでにキッチリと仕上げておくように」


 アマテラスはポテチ1枚をご褒美のように初音の手に握らせ、力強く頷いた。



◇◇◇



2025.7.4 18:00 日向ロケット発射場


 ロケットの発射まで1週間となった。ここまでは順調と言って良い。指揮系統がしっかりしていたのもあるが、この1週間で最も評価を上げたのは真悟だった。


 ロケットのロの字も知らない事が幸いし、普通なら誰もが嫌がる裏方を誰よりも率先して黙々と、しかし楽しそうにこなした。その姿に触発された学生たちも「素人の高校生に負けていられるか!」と内に秘めた力を遺憾無く発揮した。その姿は歳を重ねたマイクや楠にとっては懐かしくも眩しい光景であった。


「・・・ここまで計算されていたんですか?」


 楠がマイクに尋ねる。


「いや、全く。真悟の人となりは聞いていたから邪魔にはならないだろう、ぐらいの感覚だったよ。しかし“男子三日会わざるば刮目せよ”とはよく言ったものだねえ。東洋の諺には含蓄が多いよ」


 マイクは立ち上がり、全員を集めた。


「皆、よくやってくれている。ここまでの進捗は予定通りかそれ以上と言ってもいい」


 指揮官の言葉に自然と学生の顔も綻ぶ。


「ところで知っているだろうか。今日7月4日はアメリカの独立記念日だ」


 ちらほらと知ってます、と言う声が上がる。


「ここまでの作業は、従来に比べ特別なことを行なっていない。しかし」


 学生たちの顔に緊張が戻る。


「このままでは前にも言ったように、アメリカの大学生が出した記録に遠く及ばない。そこで今年に限り、我がMMR社が開発した独自の機構を特別に提供する」


 学生の顔に驚きの表情が走り、「マジか?」と言う囁きの波が走る。


「と言っても、核心部分は公開しない。しかし、君たちにはさらなる高みを目指す力がある事、それは決して不可能な夢ではないことを知ってもらうことが目的だ」


 マイクが続ける。


「これは僕から君たちへの最大のプレゼントと考えている。不可能に俯いた過去を乗り越え、新しい未来へ進む。今日という日が、君たちにとっての独立記念日だ!」


 おお〜っ!という歓声が上がる。


「これからの1周間はまさしく未知との遭遇になるだろう。迷子にならないようブリーフィングを行うから、全員聖地の中に再集合。ラストスパートに向けて諸君らのエンジンをフル回転させるぞ!」

「「「Yes, Sir!」」」


 祭りの準備は着々と進んでいた。



◇◇◇



2025.7.4 東京:真理の住むマンション


「はい、それではの件は引き続き、ということでお願いします!」


 画面越しの相手に愛想を振り撒き、切断ボタンを押した瞬間に真理がぐったりとソファにもたれかかる。


「今日もお疲れ様でした」


 桐生が測ったようなタイミングでカモミールティーを運んでくる。


「真理っていつもこんな事してんの?よくやってられるもんだわ」


 普段と違う顔を見せ、SOPHIAからのフォローがあるとは言えギリギリの交渉が続く状態にさすがの麗蘭も音をあげつつある。


「あと1週間の辛抱ですよ。それに、だいぶ様になったと思いますよ」

「桐生がそう言うのならそうなんでしょうけどね・・・」


 カモミールティーで気分を落ち着かせ、麗蘭が慣れた感じで桐生に尋ねる。


「で、本日のディナーは?」

「疲れもフッ飛ぶ桐生特製・四川風麻婆豆腐に杏仁豆腐を添えて」

「あ〜もう桐生、真理なんかやめて私と結婚して!」

「・・・先生はともかく、麗蘭さんは遠慮しときます」

「何でよ〜!私たち、絶対相性いいわよ?」


 桐生が苦笑しながら、淡々と言い放った。


「だって麗蘭さん、俺のこと男として見てないでしょ?」

「あのね、恋と愛は別物なの。私は桐生に恋はしてないけど、愛はあるわよ?」

「愛ねえ・・・」

「何か気に入らない?」


 桐生から表情が消え、一瞬本音が漏れた。


「俺は・・・愛って何か分からないんです」

「どういう事かしら?」

「恋って、俺の場合相手を抱きたいとか一緒に何かしたいとか、衝動が伴うんで割と分かりやすいんです」

「だからこないだみたいなしょうもないハニートラップにかかったりするのね」

「それはあまり掘り返さないで欲しいんすけど・・・もしあれがハニートラップじゃなくて初音ちゃんとそうなって、である時別れましょう、って言われてもそうか、って感じなんすよ」

「冷めてるなあ・・・」

「対して愛、って言うのが本当に分からない。麗蘭さんの言ってるのは、俺を男としては見てないけどいると便利な存在、っていうか。やっぱ、その辺がよく分かんないっす」

「拗らせたのね・・・。桐生の過去に何があったのかは聞かないけど、真理のことはどう思ってるの?」

「尊敬すべきダメ人間ですね。毎回引っ張り回されてえらい目に遭いますけど、嫌いにはなれないっす。かといって下着を洗うことにお互い抵抗がないぐらいには距離が近いので、今更恋のときめきがあるかと言われると微妙っす」

「怖いの?」

「何がっすか?」

「いざ真理に気持ちを伝えて、今の関係が崩れることが」

「そんな事は・・・ないっす・・・」

「桐生」


 麗蘭が真剣な表情で目を合わせる。


「失うのが怖いぐらい好きな相手には、軽々と好意を伝えられないの。それは誰でも同じ。断られたとしても傷が浅いと思えてしまう相手には抵抗なく言葉にしたり、行動に移せたりするの。今回の件でいえば初音さんがそう。桐生の思い入れがないから、簡単に抱こうとしたり既に別れる前提で話をしている」

「・・・」

「だけど、真理は違うでしょ?失うのが怖いと思えるほど、大事な存在じゃないの?」

「・・・」

「ここは桐生が腹を括らなきゃ。ちゃんと脈はあるから、素直に思いを伝えればいいのよ」

「・・・どうやって?」

「仕方がないわね。特別に絶対落ちる方法を教えてあげるわ。真理の姿をしている私を本当の真理だと思ってやってみて」


 麗蘭は立ち上がると、桐生の手を取って壁際に立った。


「やることは二つ。1、壁ドン。2、俺のものになれ、と言う。やってみ?」


 見た目真理の麗蘭が期待に満ちた目でこちらを見ている。桐生は腹を決めた。


「ドンっ!」

「痛っ!」


 次の瞬間麗蘭の拳が桐生の鳩尾に炸裂した。


「髪も一緒にドンしてどうするの!考えてやりなさい!テイク2!」

「はいっ!」


 壁の位置、髪の位置。今度は間違いないはずだ。


「ドンっ!」

「何で自分の手見てんの!相手の目でしょ!やり直し!テイク3!」

「はい・・・」


 桐生はドラマでスマートに壁ドンをこなす俳優を尊敬し始めていた。さりげなく壁と髪の位置を確認。絶対大丈夫からマージンを取って更に5センチ右に着地点を決める。そして相手の目を見つめながら


「ドンっ!」


 麗蘭の目が見開かれた。次は確か・・・


「俺のものになれ!」

「なるぅ!」


 麗蘭が抱きついてきた。


「完璧よ、桐生!やればできるじゃない!」

「・・・ホントにこんなんで上手く行くんすか?」

「行かなかったら私が結婚してあげる!」


 上機嫌な麗蘭を前に、「それだけは嫌だ」と言う本音は押し殺して曖昧な笑顔を返しておくことにした。

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