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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 10

2025.6.26 10:00 宮崎県日向市・日向宇宙工科大学講堂


 前回のマイクの演説効果か、直立不動で出迎える学生の中には甘ったれた表情のものは一人もいない。壇上のマイクはまず横に立つ人物の紹介から始めた。


「・・・今回のプロジェクトにあたり、いくつかはっきりさせておきたい事がある。まず打ち上げだが、これは7月12日の夜明け前と決まった」


 学生にわずかな動揺がさざ波のように走った。マイクは手でそれを制する。


「予定よりたかが3日だ。諸君らの実力を持ってすれば何と言う事はない」


 自信に満ちたマイクの言葉に学生の動揺も収まる。


「今回のプロジェクトにあたり、指揮系統を今一度確認する。総指揮は私マイケル・イーサンとDr.楠。進捗と確認は必ず我々に行うように。諸君らの発想は最大限尊重するが、ダメなものにははっきりとNOを突きつける」


 学生たちの表情が一層引き締まる。


「そして今回、Dr.真田との共同研究として宇宙空間に“音”を届けるプロジェクトを並行して行う。簡単に言えば音を光信号に変え、ロケットの最大高度で展開すると言うものだ。こちらに関してはDr.真田と初音、そして大いなる女神アマテラスより神託を得た巫女であるMS.天野に協力を仰ぐ」


 真田、初音に続いて「天野」と紹介されたアマテラスがぺこりと頭を下げる。


「Dr.李は所用により今回のプロジェクトには参加できない。また、Dr.御堂と桐生氏も東京での活動があるため当日までこちらには居られない」


 美女二人が抜けることでモチベーションが下がると思われたが、


「あの巫女さん・・・可愛くねえか?」

「大人の女性もいいけど・・・ありだな」


 と予想以上にアマテラスの受けがいいようだ。


「最後に一番向こうに立っているのが鐘巻君だ。高校3年生だが、見どころのある子でね。是非諸君らの力になってくれと頼んだところ快諾してくれた」

「鐘巻真悟だ。よろしく頼むぜ!」


 最年少とは思えない貫禄を撒き散らす真悟。ただ学生の多くは懐疑的な視線を送っている。


「設計班のリーダーは大吾、制作班のリーダーは恭平。成否は二人にかかっている。だが、気負う必要はない。いつも通りで大丈夫だ」


 指名された二人は「はいっ!」と元気よく答える。マイクは満足そうに最後の言葉を放った。


「概要は頭に入ったな。それでは今から一番大切な約束事を一つだけ言う。これは死んでも遵守しろ」


 学生一同に緊張が走る。


「僕とDr.楠への返事は“はい”か“Yes, Sir!”しか認めない。いいな!」

「「「Yes, Sir!」」」


 ガチガチの軍隊を思わせる緊張感に包まれた講堂で、二人だけ取り残されている人物がいた。


「・・・帰ろっか」

「・・・御意」


 講堂の熱気が上がり続ける中、麗蘭と桐生は一旦荷物をまとめるためスタコラ退場し、黒塗りのリムジンへ向かった。



 ◇◇◇



2025.6.26 午後・日向ロケット発射場


 かつて採掘が行われていた広大な敷地を“関係者以外立ち入り禁止・日向宇宙工科大学”の看板が掲げられたバリケードが覆う。入り口近くには代々伝わる“聖地”と呼ばれる粗末なプレハブ小屋があり、油や埃の匂いに混じって過去から現在に至るまでの試作機や部品、一般人にはガラクタにしか見えないものが山積している。この時点でまずマイクが切れた。


「貴様ら、何だこの体たらくは!よくそれでアメリカに対抗しようなど言えたものだな!まずはその腐った性根から叩き直せ!要と不要の分別、これは大吾と恭平が責任を持って12時間以内に解決しろ!ノスタルジックだが使えないものは廃棄!回収業者の手配と交渉は真悟が中心になって行え!1円でも高く買い取ってもらうためのリストアップは悠太がフォローしろ!」

「Yes, Sir!」


 どこかで聞いたような会話が日向でも繰り広げられていた。



 ◇◇◇



2025.6.27 9:00 東京・真理の住むマンション


 朝日がのぼり、カーテンから光が差し込む頃。魔境には床と壁が出現し、積み上げられたゴミ袋の奥で乾燥機がフル回転する音が鳴り響いていた。汗まみれになった桐生がエアコンを付けたものの全く温度は変わらず、フィルターを開けて絶望的な顔になったのは大掃除あるあるの一つである。麗蘭が戻ってきたのはまさにその時だった。


「・・・何これ。ちっとも終わってないじゃない!」

「いや、床が見えるようになったのと、ベッドが使えるようになったのは評価してください・・・」

「床は見えない方がおかしいの!ちゃんとワックスがけまで終わらせたんでしょうね?」

「いや、そこまではまだ・・・」


 桐生が絶望的に積み上がっているゴミ袋を虚な目で見る。


「ベッドのダニ対策は?シーツを変えました、だけで許されると思ってないわよね?」

「・・・布団乾燥機をフル回転させたんで、マットレスはいけるかと。シーツも2度洗いして乾燥かけました・・・」

「じゃあ当面の問題はこのゴミね。業者に連絡して引き取ってもらいなさい。次にその不快な匂いを出してるエアコン。フルクリーニングの業者を手配するか、新品に変えなさい。フローリング、棚、食器類は全て洗浄し直して埃一つ残さないこと。あと、冷蔵庫にあるものは一旦全て廃棄して。絶対賞味期限切れてるから。その上で内部まで完璧に仕上げて。大丈夫よ。そんな絶望的な顔をしなくても。人手は確保してきたから」


 麗蘭の後ろには桐生と同じ顔色をした宮本と南が亡霊のように立っていた。桐生は「宮崎に残れば良かった・・・」と後悔し始めていた。



◇◇◇



 同時刻、日向。“聖地”には汗まみれ埃まみれで動き続ける学生たちの姿があった。勿論陣頭指揮を取るマイクと楠も同様である。


「だから何度も言わせるな!使うか使わないか分からないものは処分しろ!お前らのいう“いつか”は永遠にやって来ない!」

「そこ!右のものを左に移すのは片づけと言わん!恭平、しっかり決めて指示を出せ!」

「これは1980年台の希少部品ですがどうしましょう?」


 一人の学生がおずおずとマイクに尋ねる。


「ああ、素晴らしい骨董品だ。大吾、このパーツを今回のロケットに組み込む予定は?」

「ありません、Sir!」

「という事だ。悠太に相談して、真吾に処理してもらえ!」

「でも、これは歴史的に貴重な・・・」

「返事は“はい”か“Yes, Sir”の2択だ!いい加減覚えろ!」

「い、YES, Sir!」

「必要なパーツが午後から随時届く。その場所もきちんと雑巾掛けして、気持ちよく迎えるように準備を進めるんだ!」

「「「Yes, Sir!」」」


 学生の中の数人は心の中で思っていた。あの桐生って人、麗蘭さんにお仕えできるなんて羨ましい・・・


 彼らは知らない。どちらにも暴君しかいないのに、隣の芝は青く見えてしまうのだ。



◇◇◇



2025.6.27 19:00 日向ロケット発射場


 総指揮官と鬼軍曹のもと、“聖地”は見違えるようになった。すっきりと整頓され埃一つないスペースには午後から必要な部品が順次届けられ、それも用途に分けて整然と並べられている。ここにきてマイクがようやく満足げな表情を見せた。


「諸君、よくやった!この下準備のおかげで、今後の作業効率は50%以上向上したと言っていい。もう一度言う。よくやった!心ばかりではあるが、僕からの気持ちだ。今日は最高の宮崎牛を心ゆくまで堪能するがいい!」


 学生から「マジで!」と言う歓声が上がった。さすがマイク。振るう鞭もえげつないが、与える飴もレベルが違う。


「よっしゃ、大将の心配りだ!テメエら、遠慮なしに頂こうぜ!」


 真悟の号令に「Yes, Sir!」の声が上がる。かなり洗脳されてしまっているようだが、まあ良しとしよう。



◇◇◇



 一方東京。溢れるゴミを処理し、部屋を磨き上げた後に麗蘭が「何か違う」と言い始めカーテンや家具、食器類はほとんど買い換えになった。エアコンは静かに冷気を運び、冷蔵庫には健康的で新鮮な食品が必要分だけストックされている。


 ピカピカに磨き上げられた床と張り替えられた壁紙、指を当てても埃一つたたない窓のさんに満足した麗蘭はようやく満足げな表情を見せた。


「よくやったわ。これでこそ人が住める環境よね」


 桐生以下全員がようやく解放されるのか、と安堵のため息をつく。


「それじゃ、完成記念に六本木でパーっといきましょうか」


 麗蘭様!思いもよらぬ提案に3人は涙を流しそうになった。


「じゃあ、有金全て下ろして集合ね。足りない分は立て替えといてあげるから」


 え?払うの俺らなの?思いもよらぬ発言に3人は先程とは別の涙を流しそうになった。

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