「2025年宇宙の旅」 08
2025.6.25 夜/日向のホテル・マイクの部屋
マイクが宿泊している部屋に麗蘭・桐生・初音・真悟の四人が招かれていた。スイートルームにあるダイニングスペースで皆が背筋を伸ばす中、アマテラスだけは椅子の上であぐらをかき、ポテチを口に運びながらご満悦そうな顔をしている。
「……本当にそんな物でよろしかったんですか?」
初音がやや不安げな顔で尋ねる。
「むしろ、これじゃ。山海の珍味も捨てがたいが、立場上大っぴらにこういうものを食す機会が少ないでのう」
ポテチのカケラが残る指を行儀悪く舐め、コーラに手を伸ばす。
「人が生み出せし、妙なる味の循環よ。塩気からの糖分、糖分からの塩気……無限地獄とはかくありき、じゃな。この背徳感がたまらん。神だけに」
「……典型的なダメ人間ライフを満喫中のところ何ですが、そろそろ例の話をしてもらってもいいっすか?」
桐生がやや冷めた目でアマテラスを見ながら、本題を切り出した。
◇◇◇
遡ること1時間。社務所で「とびっきりの音を届けてやろう」と宣ったアマテラス。悪人顔で乗っかったマイクと共に計画が明かされると思ったが、思い詰めた顔をしている西野を見やり「場所を変えるか」とホテルに移動することになった。車が走り出すと
「神に祈願をするなら、それなりの誠意を示す必要があると思うのじゃが」
というテンプレな“お願い”が飛び出し、真悟が
「俺の魂か?いつでもくれてやるぜ!」
と意気込むが一言
「いらん」
と一蹴。マイクが
「女神アマテラスは何を所望されるのが常なんだい?そう言うことには疎くてね」
と尋ねたところ初音が
「アマテラス様への献上品となると…タイの尾頭付き、特級酒の一升瓶に山のもの、とかでしょうか?でも、こんな時間からどこに買いに行けば……運転手さん、取り急ぎ海へ!」
「初音ちゃん、ちょっと落ち着こう。ここから海まで100kmはあるよ?」
「私は落ち着いてます!それよりも、タイです!釣りたてです!」
「いや、別に妾はそこまで求めておらん」
アマテラスがちょっと申し訳なさそうに入ってきた。
「んじゃ、何がいいっすか?」
桐生が尋ねると、アマテラスは少し先に光るコンビニの看板に目を向けている。
「……あそこ、寄りますか?」
「うむ。やぶさかではない」
かくして、アマテラスセレクトの「献上品」と共に今に至る。
◇◇◇
「そうじゃな、妾としたことが本題を忘れておった」
「大丈夫か、この国・・・」
桐生の呟きを聞き逃さなかったアマテラスがニヤリと答える。
「お主、先ほどから随分随分不遜な事を申すのう。先ほどの宮司は見どころがあった故見逃したが、お主には相応の祟りをくれてやろう」
「へ?どゆこと?」
「その時になれば分かる。神とは敬うべきものじゃ」
ダメ人間全開な雰囲気を醸し出していても神は神。それも日本で一番偉い神様である事をすっかり忘れて油断していた桐生。もはや後の祭りである。
「桐生・・・あなたの事、忘れない・・・」
「やめてよ麗蘭さん!縁起でもない!・・・みんなも、俺に手合わすのやめて!」
「では改めて本題に入るかの」
桐生のことなど無かったかのようにアマテラスが切り出す。
「“天”に“音”を届ける方法は、もう分かっておろう。電気信号、“光”への変換じゃ。これは其方に任せる」
初音がコクリと頷く。
「次に、方法じゃ。これは直接的に、ロケットを使う」
「マジかよ!ぶっ飛んでんな!」
真悟が興奮気味に反応する。
「……でも、どちらのロケットを使われますか?H3ロケットはしばらく予定がありませんし、今から申請してもプログラムを実装していただけるのは何年も先になります」
「アマテラス様のご威光でNASAに話をつけてもらえる、みたいな勝算があるとか?」
「姐御、日本に留まらず世界まで!……俺ぁ、どこまでもついてくぜ!」
「鎮まれ。……JAXAもNASAも、妾の威光を持ってすれば容易い事」
「それじゃあ、どっちのロケットを使うんっすか?」
アマテラスがはあ、とため息を吐きながらポテチを一つ口に入れ、モゴモゴしてから答える。
「お主ら、誠に日の本の民か?それでは何の風情も趣も無いではないか」
「ポテチ食いながらコーラ飲んでるやつに言われたくないっす」
さすが学習しない男・桐生。ツッコミの誘惑には勝てなかったようだ。
「真悟さん、この人黙らせて!」
「おうよ!」
「待て!落ち着け!お前らいっぺん、“神様”ってフィルター外してみろ!」
「姐御は既に神だ!」
「……分かった、俺の負け。で、風情と趣って例えばどんな事っすか?」
アマテラスが我が意を得たり、とノートパソコンを引き寄せる。何事か打ち込み、画面を見せる。そこには動画チャンネルのサムネイルが並んでいた。
「……プロジェクトX、魔改造の夜、情熱大陸……これがどうかしたんすか?」
「ドキュメンタリーばっかりですね」
「うむ。“人が不可能に挑む”、その姿にこそドラマが生まれ、極上のエンターテイメントになるのじゃ」
「結果もそうですけど、その“過程”を重視される、という事でしょうか?」
「その通りじゃ!褒美を遣わす!」
アマテラスが袋からポテチを取り出し、初音の手に1枚握らせる。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃ“JAXAかNASAのスタッフと挑戦する初音ちゃん”みたいなテーマっすか?」
「それも悪くないがのう。既に天に届いておる者が今更ロケットを打ち上げても、さほど驚きはあるまい」
アマテラスが先ほどから満面の笑みを浮かべているマイクに視線を送る。
「天を目指しながら、届く気配すらない。そ奴らが一念発起し、不可能の壁を越える。極上の筋書きだとは思わんか?」
アマテラスが再びノートパソコンに何かを入力している。
「そんな都合のいい人材がどこに……って、えっ?」
再び向けられたスクリーンに映し出されたホームページに初音が言葉を失う。それには見覚えがありすぎた。
“日向宇宙工科大楠研究室・学生ロケットプロジェクト”




