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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 07

2025.6.25 21:30 高千穂・天岩戸神社への道


 懐中電灯の灯りが照らす夜道を、7つの足音が追いかけていた。


「今宵はもう何も起こらんよ」


 アマテラスの一言に促され、神社への細道を歩き出した一行。誰も、何を話していいのか、そもそも口をきいて良いのかどうか判断できない。アマテラスがのんびりと切り出した。


「そう身構えるでない。何も取って食おうと言うのではない」


 皆の“お前行けよ!”という無言のプレッシャーに押され桐生が口火を切る。


「ええっと、アマテラス……様?どうしてこんな所にお見えになったのでしょうか?」

「先程も言うたであろう。お主らに呼ばれた故、と」

「いやまあ、そう言われるとそうなんっすけど。天照大神と言えばメジャー中のメジャー。こんな所に来てる暇なんか無いんじゃないかなあ、みたいな」

「確かに妾は平素、伊勢の内宮に座しておる。依代は日の本に計り知れんがの。お主の言う通り、いちいち付き合っておってはいくら妾と申せど身が持たぬ」

「ですよねえ。で、そのアマテラス様がどうしてこちらへ?」

「“門”が数千年ぶりに開きそうだったでの。どこの酔狂が、と見にくれば懐かしや、天岩戸で“宴”が始まろうとしておるではないか。これを逃せば次はいつになるや分からぬ。伊勢には形代を残し、取るものも取りあえず馳せ参じたのじゃ」

「“宴会に駆けつけた”的な?」

「そうじゃな。だがしかしなっておらん。八百万の神々を集めたは良いが、もてなされるばかりではの。皆を楽しませてなんぼじゃ。それに、今宵は月詠も隠れておる。あやつがおらぬ、というのもちと寂しい」

「なるほど。ところで先生は今、どうなってるんすか?」

「うむ。今はこの体の奥底で眠っておるようなものじゃ。“時”がくれば目覚めるであろう」

「“時”っていつ?」

「“宴”を成し得た時じゃ」

「それまで、先生は?」

「眠ったままじゃのう」

「マジで?先生抜きでこの状況何とかすんの?」


 桐生が泣きそうな顔になる。

 と、坂道を上り切ろうとした時一つの影がこちらを向いている事に気付いた。漆黒のバイクに負けじと大柄なライダーの背中には慈愛に満ちた女神の姿。金色の刺繍が天を讃える。刻まれた名前は、“真理至天 (まりしてん)”。

 男は乱れたリーゼントを整えながら、ゆっくりと近づいてきた。


「お前……何でここに?」


 真悟は桐生の前で立ち止まり、不適な笑みを浮かべながら答える。


「介錯なら俺に任せろ、ロッケンロール!」


 桐生が頭を抱えた。そういや鐘巻に切腹用の剣と介錯人を注文していた・・・



◇◇◇



2025.6.25 夜/天岩戸神社・社務所


 夜の社務所。そこは異様な雰囲気に包まれていた。宮司は未だ現実に戻れず、何やらブツブツ言っている。隣には泣き出しそうな顔の女子大生。さらにその隣に座る眼鏡の青年は頭を抱え、向かいの席には訳のわかっていない外国人二人。隣のヤンキーは上座の女性がすまし顔でお茶を啜るのを拝んでいる。


「それで、じゃ」


 アマテラスが優雅に茶碗を置き、真悟に尋ねる。


「お主は何者じゃ?スサノオの気配を強く纏っておるが」

「申し遅れた。俺の名は現代のスサノオこと鐘巻真悟。そして御堂真理親衛隊“真理至天”の頭 (ヘッド)。姉御のためなら、黄泉の国でもブッ込む覚悟!」

「ほう、スサノオの眷属か。して、その“真理至天”とは何じゃ?“摩利支天”の誤字ではないのか?」

「ふっ、御堂真理は他に比する者なき至高の天女。語って欲しいなら一晩中でも語ってやらあ!」

「元々摩利支天は仏教で言うところの太陽神。神道の太陽神たる妾の依代にそれを充てるとは、なかなか気が利いておるではないか」

「恐れ多いぜ、姉御!それにしても、本当に神になっちまったんだなあ……」


 感無量、といった体で涙を拭う真悟。


「……お前さあ、気になんないの?この人、先生じゃないんだよ?」

「テメエこそ何小っさい事言ってんだ、このタコ。女神の器をテメエの尺度で測んじゃねえ!」

「ええと、桐生?さっきから超偉そうにしてるこの子はだあれ?」


 麗蘭が眉を顰めながら真悟に目を向ける。


「ああ、こいつは出雲の“門”を開いたヤンキー君。色々あって、先生のことを女神にように崇拝してる」

「……頼りになるの?」

「こんなナリしてるけど、やる時はやるタイプ」

「何だ、分かってんじゃねえか!」


 真悟が少し得意げに答える。


「それで僕たちは、これからどうすればいいのかな?」


 マイクが至極真っ当な質問をした。全員の目がアマテラスに集まる。


「そうじゃの。先程も申したが、神々を迎える“興”が足りん」

「アマテラス様、“興”とはどういうことなんでしょうか?」


 初音が縋るような目で訴えかけた。


「此方からの“演目”かの。どうせ騒ぐなら、盛大にやるが良い」

「……すみません、具体的にはどのような……?」

「高天原の隅から隅まで響くような爆音を奏でる、ぐらいが良いのう」


 神の口から出た“爆音”というキーワードに人間側がやや怯む。西野が悲壮な顔でアマテラスに尋ねた。


「神聖な場所で爆音など・・・祟られませんか?」

「妾が良いと言うておるのじゃ。祟るものなどおらんわ」

「とんだ不敬を!この腹掻っ捌いてお詫び申し上げます!」

「OH!ジャパニーズHARAKIRI?」

「お前ら二人、何でここだけ外人っぽいんだ!」


 桐生がマイクと麗蘭にツッコむ。


「切腹用の短剣ならここにあるぜ?何なら介錯も・・・」

「真悟は黙って!そんでその物騒なものしまう!」

「・・・お前が言うから持ってきてやったのに・・・」


 真悟が納得いかねえ、と言う感じでブツをバッグに納める。


「えーっと、一つお伺いしてもよろしいですか?」


 初音がおずおずと手を挙げる。


「うむ、苦しうない。申してみよ」

「アマテラス様の仰る“高天原”が宇宙のことを指しているのであれば、そこでは“音”は響きません」

「そうなのか?」


 真悟が反応する。


「はい。地上約100kmから先のいわゆる“宇宙空間”には振動によって音を伝えるための“大気”が存在しません。なので、私の研究も宇宙に漂う“情報”を“声”として再編するというものです」

「それじゃ、どうやって“爆音”響かせんだ?」

「……お主ら実に頭が固いのう。AIの方がよっぽど柔軟じゃ」

「AIって、SOPHIA?」


 桐生が先ほどからアマテラスが何やら操作しているSOPHIAのモニターを覗き込む。


「あまりお行儀がよろしくないのう。まあ、せっかくじゃ。皆も見るが良い」


 [REQUIRED INPUT: "SOUND BEYOND SOUND"]

 [SYSTEM DIAGNOSTIC:]

 └ Transmission medium: NONE

 └ Physical vibration: INEFFECTIVE

 └ Alternative carrier: LIGHT

 [PROPOSAL:]

 → Convert "SOUND" to "RADIANCE"

 → Launch encoded waveform toward CELESTIAL FIELD


「……天の“声”、今回の場合“八百万の神の馬鹿騒ぎ”じゃな、それを“声”にするため情報を変換した。ならば逆のことをすれば良かろう」

「でも、具体的には変換したデータをどうやって“天”に届けるんですか?さすがに地上からの電気信号発信ではアマテラス様の仰る“興”とは違うと思うんですけど……」

「其方の申す通り。それでも天には“届く”。が、興醒めも良いところじゃ。ゆえに」

「「「ゆえに?」」」

「直接届けてやろうではないか、とびっきりの“音”を」


 アマテラスが真理であれば絶対にしないであろう、悪代官も真っ青の顔でニヤリと宣言した。ピンと来たマイクが負けじと悪人顔で答える。


「あれを、お使いになられますか」

「お主も悪よのう」


 クックック、と笑う二人は麗蘭以外の全員には「悪代官と越後屋」としか映らなかった。

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