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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 06

2025.6.24 14:00 日向市内のホテル・真理の部屋


「・・・というわけで」


 真っ白に燃え尽きて椅子に沈んでいた桐生を引っ張り出し、真理は自分の部屋でマイクと麗蘭に聞いた計画の話をした。


「じゃ、ハニートラップの囮捜査的な・・・?」


 桐生の脳が何とか現実に追いつこうとする。


「そう。敵を欺くには味方から、ってやつ。その意味ではよくやってくれたわ」


 麗蘭もさりげなくフォローを入れる。


「トホホ・・・あれだけ悪い女に騙されるな、って言われてたのに・・・」


 麗蘭がそれは違う、と注釈を入れる。


「あの子はそうするよう誘導されただけ。だからぎこちないし、桐生ぐらいを相手にするならある種無敵の状態だったの。逆に私みたいな美女から迫られたら疑うでしょ?」

「まあ、こりゃ罠だなって思いますね」

「そういう事。だから気にしちゃダメよ」

「初音ちゃんはどうなるんっすか?」

「明日次第ね。恵さんの時みたいな事にならないよう、教主の動きには十分注意するわ」


 真理の言葉に麗蘭がうん、と頷く。


「今の所本命は天安河原宮。明日の21時を予定しているみたい」

「そこまで掴んでるんすか?」

「ま、これぐらいはね。行くのは私・真理・桐生・マイクとSP・そして西野宮司を予定しているわ」

「西野宮司も?」

「あの場所って夜間立ち入り禁止なのよ。だから余計な問題を起こさないため」

「警察には伝えないんですか?」

「多分伝えた時点で向こうも察知する。どれだけ気付いてないフリで化かし合いをするか、ってギリギリの勝負なの」

「了解っす。じゃ、俺は自分の部屋で引きこもってる感じに戻って、何も喋らないようにしときます」

「苦労かけるわね。明日の夜までの辛抱だから、よろしく!」

「イエス、マアーム!」


 いつも通りに戻った二人を見て、麗蘭の心にちょっとした悪戯心が芽生えた。


「で、気になってたんだけど桐生」

「はい?」

「どうやって睡眠薬を飲まされたの?」


 桐生が目に見えてたじろぐ。


「ええと、それは、その・・・」


 隣でゆらりと禍々しい気配が立ち上がるのを感じて満足した麗蘭は


「事細かに真理に教えてあげたら?今後の参考までに」


 と言い残し去っていった。


「へえ?じゃ、ご教授お願いするわね」


 満面の笑みを浮かべる真理のドス黒いオーラを浴びた桐生は、やっぱりとっとと切腹しときゃ良かったと本気で後悔した。



◇◇◇



2025.6.24 18:00 高千穂・某所


 初音は机に突っ伏したまま後悔の嵐に襲われていた。あの人の良さそうな男を騙し、手に入れた鏡が真横で鈍い光を放っている。

 不意に部屋の照明がつき、いつの間に現れたのかグレーのシャツとズボン、ハンチングハットを身につけた男が初音に話しかけた。


「・・・後悔しているのですか?」


 初音が無言で同意を示す。


「しかしこれは初めから分かっていた事。あなたの望みを叶えるためには、神の奇跡に頼るしか方法がないのです」


 それは初音も納得していた。はずだった。

 しかしこれまで真っ当な道を歩いてきた少女にとって、盗むために騙すという行為は後から予想以上に重くのしかかっていた。


「やってしまった事は取り返せない。しかし、前に進む事で闇は光へと変わるのです。今の苦しみは忘れてはなりません。それがいつかきっと、あなたの背を押す力になってくれます」


 初音は虚な瞳で鈍く光る鏡に目をやった。


「大丈夫です。あなたには神が、私がついています。これまでのように信じてください。全てを成し終えた時、なぜ今の苦しみが与えられたのかを震える喜びの中で知るでしょう」


 教主はそっとドアを閉め、音もなく部屋を後にした。

 初音の視点は定まらないまま、瞳には鈍い光だけを映していた。



◇◇◇



2025.6.25 21:00 高千穂・天安河原宮


 新月の天安河原宮は闇に包まれていた。頼りない灯りが一つ、二人の人影を映していた。

 教主のグレーに包まれた服は闇に溶け込み、灯りを受けて顔だけが浮かんでいるような不気味な姿を晒していた。

 一方の初音は淡いピンクのパーカーにボーダーのシャツ、ショートパンツとかなり対照的な出立だ。その手には“コトノハノ鏡”が握られ、中央の“豪運君”が淡い光を放っている。教主が重々しく告げた。


「さあ、あなたの“真実の言の葉”を神に伝えるのです」


 初音はずっと俯いたままだったが、意を決したように“コトノハノ鏡”をかざし言葉を紡いだ。


「私は・・・もっともっと宇宙の声を聞きたい!そして、あの人の側にいたい!」


 それは間違いなく今の初音の心を現していた。しかし、“コトノハノ鏡”は一瞬強く光そうな気配を見せた後元の状態に戻った。初音が不安そうに教主を見る。教主は首を振り、「また偽物を摑まされたか・・・」と呟く。同時にさっきまで纏っていた柔らかな空気が消え、死の空気を纏った冷たいそれに変わる。教主が初音に近づこうとした時、その行く手を一つの影が遮った。


「そんな殺気を女性に向けるなんて、感心しないね」


 初音を守るように立ち塞がったマイク。さらに教主とマイクの間にSPが立ち塞がる。迂回できそうな場所を目で追うとそこには真理、桐生、麗蘭。そして厳しい表情の西の宮司が先回りしている。


「哀れな君に二つの選択肢をあげよう。僕のSPにのされて捕まるか、大人しく捕まるか。好きな方を選んでいいよ」


 油断なく教主との距離をジリジリと詰めるSP。と、教主が意外な行動に出た。いかにも楽しそうに笑い出したのだ。


「はっはっは。やはりそうか。既に通信は傍受されていたのだな」


 ヤケになったのか?誰もが怪訝な顔で教主を見る。教主はその中から麗蘭に視線を定め、抑揚のない声で言い切った。


「李・麗蘭・・・お前は・・・危険だ」


 なぜ教主が麗蘭の事を?その一瞬が致命的だった。

 教主は身を翻し、山中に駆け出す。SPは一瞬遅れて走り出し、手を伸ばせば掴めそうだと思った瞬間。

 教主の姿が消えた。


「上だ、避けろ!」


 気付いたマイクの声でSPが転がる。今まさにSPがいた場所に落ちてきたのは、100kgではきかない巨石だった。


「・・・ロープの先に巻き付けた岩を落として釣瓶の要領で逃げるとは・・・」


 マイクが忌々しげに落ちてきた岩を見ながら歯軋りする。


「でもまあ、誰も怪我がなくて良かったんじゃない?」


 麗蘭が務めて平静な声で話しかける。桐生はへたり込んでいる初音に寄り添い、


「大丈夫だった?」


 と声をかけた。初音は抑えていた感情の堰が切れたのか、桐生にしがみついて


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 と泣きながら何度も繰り返した。桐生は初音の頭を優しく撫でながら、“豪運君”が光っているのを確認した。


「これを見る限り初音ちゃんが今回の選ばれし者である事に疑いはないんだけど・・・何で“門”は開かなかったんだろ?」


「・・・足りぬからじゃ」


 今まで一言も発していなかった真理の言葉に、全員が驚いて一斉に顔を向ける。真理は神妙な顔つきのまま続ける。


「・・・足りぬものは二つ。一つ目は、真実の言の葉。あれでは“門”は開かん。そして二つ目は“宴”の準備。一方的にもてなされるだけなど、わらわの求める宴ではない」


「えーと先生、それ、何のキャラ?」


 戸惑いながら桐生が真理に話しかける。


「何を申しておる?お主らが呼んだのであろう」

「お呼び・・・しましたっけ?」

「察しの悪きこと。“門”を開くために妾の神話をなぞったのであろうが」

「あなたの神話・・・って、まさか!」


 真理が居住まいを正して宣言する。


「妾の名は“天照大神”。日の本の主神にして、光を司る者!」


 その瞬間、真理の全身が光に包まれた。

 白金の波が闇を押し除け、岩肌も、川面も、夜そのものさえも眩い光に包まれる。居合わせた全員が、自然と膝をつき祈りの姿勢を取っていた。理屈ではなく、心の奥で何かが命じる。


 “この光の前では頭を垂れよ”



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