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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 05

2025.6.24 8:30 日向市内のホテル・マイクの部屋


 無言のまま部屋に入った二人に向かって、ドアが閉まった瞬間真理の感情が炸裂した。


「本当にごめんなさい!桐生君のやらかしたことは、上司である私の責任でもある!だから、これ以上責めないで!」


 涙ぐみながら深く頭を下げたまま動かない真理。と、ここまで沈黙を貫いていたマイクと麗蘭が堪えきれずに笑い出した。真理は涙目のまま


「へ?」


 と数秒間抜けな顔を晒してしまった。


「考えうる限り、最高の結果だったな!」

「言った通りになったわね!」


 ハイタッチを交わす二人を異星人のような目で見る真理。私はいつから誰に化かされているんだろうか?


「すまない真理、これは麗蘭が掴んだ極秘事項の検証実験だったんだ」

「例の、AI教の尻尾を掴んだってやつ?」

「そう。初音さん宛に指示があってね。ターゲットは桐生。騙されやすい男だから、勇気を出して迫ってみろって。マイクへの相談の仕方から睡眠薬の飲ませ方まで、事細かにレクチャーされていたわ」

「それじゃ、二人とも初めから分かってて?」

「真理と桐生君に予め話してしまうと、リアリティに欠けると思ってね。レストランやホテルにAI教の関係者がいないとも限らない」

「で、桐生の部屋を調べたら案の定盗聴器が仕込まれてたってわけ。こちらが気付いてる事を悟られたく無いから、あの場ではああ言うしかなかったの」

「で、“コトノハノ鏡”は今どこに?」

「おそらく初音君か、教主が持っているだろう。明後日の新月に合わせて儀式を行うつもりだ」

「でも、まだ初音さんが選ばれし者とは決まってないんでしょう?」

「だからそれを確かめてからさ。初音君には悪いが、こちらも盗聴器を仕掛けさせてもらった。あの後アタッシュケースを持ち出した初音君はホテルの外で教主と落ち合い、初音くんが持った時にのみ“豪運君”が光るのを確認してケースだけを海に投棄している。前回の追跡がよっぽどトラウマだったんだろう。だが、既に勝負はついている。と言っても油断は禁物だけどね。明日の夜、天安河原宮で張っていれば勝手にノコノコやって来るだろう。万が一天岩戸神社で、という可能性も含め2班で対応する」

「まあ、それまでにまた具体的な指示なんか送ってくれるとこちらとしては大歓迎なんだけどね」


 ウインクする麗蘭。真っ当な司令塔として正論しか言わないマイク。いいわよ。二人とも何も間違ってないんだから。だから、私だけ除け者にして・・・

 悔しさにさっきまでとは別の涙を流しそうになる真理の頭を麗蘭が優しく撫でる。


「黙っていた事はごめんなさい。でも、そのおかげで明日には片がつくの。AIを使って殺人を唆し、実行させる狂った集団。食い止めるための最適な手段を選んだ事について、私もマイクも一切の後悔はないわ」


 そうだった。この二人はこういう人たちだった。決して情に流されず、常に最適解を選択する。それがどれだけ自分自身にとって苦しいものであっても。


「大丈夫。私は二人を信頼してる。今回の事も納得した!」

「そういう真里が、大好きよ」


 麗蘭が真理を抱きしめる。


「で、桐生君はいつまであのままにしとくの?」

「放っておくと精神的に死にそうだから、一旦大学に寄って帰って来る頃には慰めてあげましょうか」

「何だかんだ、麗蘭も過保護よね」

「真里ほどじゃないわ」


 これには真理も反論出来なかった。



◇◇◇



2025.6.23 9:30 宮崎県日向市・日向宇宙工科大学講堂


 まるで入学式のように、壇上には学長以下教授陣がずらりと勢揃いして緊張の面持ちで座っていた。講堂には大学の制服とも言えるライトグレーのツナギを身に纏った学生が並び、壇上の男が発する言葉に期待と不安を膨らませている。

 マイクは壇上から学生を見渡し、重々しい声で語り始めた。


「人類が宇宙に進出し、早や半世紀以上が過ぎた。月の大地を踏み締め、次は火星の大地に迫ろうとしている。しかし、宇宙は限りなく広い。未知を探求するには、我々の技術はまだ赤子同然と言っても良い」


 誰もが一言も聞き漏らすまいと耳を傾けている。


「日本政府が宇宙を目指し創立した本学におけるロケットプロジェクトの結果は、国内にて他の追随を許さないものである。だが!」


 マイクの熱量が上がる。


「昨年君たちが成し得た最高高度は僅か8000メートル。これはアメリカで、同じ学生が記録した高度143キロメートルに遥かに及ばない。何故だ?」

「予算の桁が違うからさ」


 白いツナギにサングラスの学生が自重気味に呟いたのをマイクは聞き逃さなかった。


「諸君。先の大戦時、日米の戦力差は航空機で5倍以上、軍事予算は死ぬ気で無理をしても2倍以上だった。しかし、空中戦においてアメリカは日本に何度も辛酸を舐めさせられた。理由が分かる者はいるか?」


 一人の学生が手を挙げて発言した。


「零戦です!」

「そうだ!アメリカの保有する戦闘機を軽々とかわし、アメリカが実機を入手するまでどの設計者にも高性能を引き出す理由を理解することさえさせなかった諸君らの偉大なる先達。諸君にはその血が、魂が流れている!」


 学生たちの目の色が目に見えて変わった。教授陣の中にはハンカチで目を拭うものもいる。精神論に白けた顔もちらほら見えるが。


「アメリカは最終的に勝利した。しかし日本という国の技術力に抱いた感情は、驚きと敬意である!」


 マイクがもう一度学生を見渡した。


「資金、資源を言い訳にするな!自分の中で勝手に敗北を認めるな!零戦が空を制したように、次は君たちが他国の誰も考えつかない発想力を持って宇宙を制するのだ!そのために私は今回、鬼となる。だが、その鬼を魂でねじ伏せてみよ!その時、栄光は諸君らのものとなる。立てよ学生!ジーク○○○!」

「ジーク○○○!ジーク○○○!」


 学生も教授も涙を流しながら大合唱している。麗蘭が冷めた顔で真理に聞いた。


「ねえ、“ジーク○○○!”って何の合言葉?」

「ごめん、麗蘭。これは・・・私も泣きそう・・・」


 ハンカチで目頭を抑える真理を見て、麗蘭は「帰りたい」と一人佇んでいた。

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