「2025年宇宙の旅」 04
2025.6.23 日向市内のホテル
ディナーを囲みながら今日の活動報告をしているのは真理・桐生・麗蘭の天岩戸組とマイク・楠・真田・初音の大学組。
まず真理から、天安河原宮が鍵になりそうだという事、しかし神の宴に関するヒントが全く得られず八方塞がりの状態である事が告げられた。真田と初音が「えっ?」という顔でマイクを見る。マイクは余裕綽々の顔で真理の報告を受け取り、にっこりと答えた。
「多分それ、解決するよ」
「へ?」
「どゆこと?」
真理と桐生が目を丸くしているのを満足げに眺め、マイクが続けた。
「実は初音がとんでもない発見をしてくれていてね。それが天岩戸の宴に関係してそうなんだ。初音、例のものを」
「は、はい!」
真理と桐生、特に桐生からの視線を受けた初音が真っ赤になりながらテーブルの空きスペースに昼間録音した「宇宙の声」をスマホで再現する。真理と桐生の表情が見る見る変わっていった。
「どうだい、すごいだろう。これをその天安河原宮とやらで流せば、宴の再現条件としての可能性は極めて高くなると考えているよ」
「じゃあ、初音さんが今回の選ばれし者、ってこと?」
「それはまだ分からない。でも、“コトノハノ鏡”を手にしてもらえば自ずと分かることだ」
「今、持ってきましょうか?」
興奮気味の桐生をマイクが宥める。
「そんなに焦らなくても大丈夫さ。楽しみは明日まで取っておこう」
「マイクがそう言うなら・・・」
「さて、僕とDr.楠は明日から本格的にロケットの作業に取り掛かる。それはそれで面白いと思うから、是非見にきてくれ!特に女性陣がいると学生が張り切る」
「承知したわ。じゃ、明日は大学に集合という事で」
丁度食事も終わり、麗蘭が締めようとしたところでマイクがおいおい、と麗蘭に絡む。
「食事だけってのはどうなんだい?バーで旧交を温めたいんだけど」
「それでは、私たちは失礼しようかな」
楠と真田が気を利かせて席を立つ。と、初音がモジモジしている。マイクが桐生に視線を送り、ちょいちょいと手招きした。
「・・・初音に相談されたんだけど、彼女桐生君と個人的にお近づきになりたいそうだ。僕たちはバーでゆっくりやってるから、君の部屋までエスコートしてやってくれないか?」
「俺っすか?」
驚いたフリをしつつも「ふっ、やっぱりそうきたか」というドヤ顔が隠しきれない。初音は真っ赤になって顔を伏せている。
「男の甲斐性、見せ所だぜ?」
マイクに促されるまま、二人はぎこちなくレストランを後にした。ものすごく不機嫌に黙って見送る真理にマイクと麗蘭がやれやれ、と顔を見合わせる。
「じゃ、俺たちも行こうか。真理、今の君にとっては僕らとの旧交を温める方がはるかに価値が高いと思うぜ?」
んなわけないでしょ!今すぐにでも追いかけたい気持ちをグッと堪え、真理は可能な限りクールを装い「それもそうね」と立ち上がった。
◇◇◇
2025.6.23 日向市内のホテル・桐生の部屋
カードキーを差し込み、照明が部屋を照らす。ありふれたシングルタイプの部屋。桐生は大人の余裕を見せるべく
「何か飲む?」
と爽やかさ満載の笑顔で初音に尋ねる。初音は相変わらず真っ赤になったままで、じゃあ・・・と備え付けの冷蔵庫を覗き込み、レモンの酎ハイを選択した。桐生はビールを選び、何となく並んでベッドに腰掛ける。
「・・・ええと、マイクから聞いたんだけど、その、初音ちゃんは俺に・・・」
チラッと横目で見ると相変わらず真っ赤な顔をして俯いている。名前の通り、実に初々しい。と、初音が手にしていたチューハイの栓を開け、ぐいっと流し込んだ。
「・・・初音ちゃん?」
初音は目に決意を湛え、そのまま桐生に抱きつきキスをしてきた。それも軽いやつではなく、かなり濃厚なのを。飲みきれなかったであろう酎ハイがレモンの香りで口内を満たす。ゴクリと飲み込み、
「そういえばファーストキスはレモンの香りとかいうのがあったな・・・」
と桐生は頭の片隅で考えていた。
しばらく唇を重ねていた二人だが、初音がゆっくりと唇を離し桐生の目を潤んだ瞳で見つめる。赤らんだ顔が幼さの中に色気を加えており、桐生の理性はギリギリのところまで追い込まれた。
「・・・突然ごめんなさい。初めてあなたを見た時から、どうしても頭から離れなくて・・・マイクさんに相談したら、思い切って行動に移しな、お膳立てはしてあげるからと言われて・・・」
マイク、明日からあなたの事を様づけで呼ぶことにするよ。桐生は頭の中でウインクするマイクに誓った。
「い、いつもこんな事する女の子だと思わないでね。その、キスも初めてだったし・・・」
消え入りそうな声で告白する初音の一言一言が桐生のプライドをくすぐる。同時に理性のタガが外れる音がした。桐生は初音を押し倒し、「あっ」と声を上げる初音に今度は自ら唇を重ねた。目を閉じて受け入れていた初音だが、恥ずかしそうに体を離して桐生に囁く。
「・・・シャワー、浴びてきてもいいですか?」
桐生が頷くと初音はタタッと小さな音を立ててバスルームに消えていった。
桐生はゴロンとベッドに転がり、興奮の中イメージトレーニングを始める。やはり自分もきちっとシャワーを浴びて、然るべき準備を済ませてからバスローブをゆっくりと・・・
初音の残り香に浸っていた桐生の記憶はそこでプッツリと途絶えた。
◇◇◇
2025.6.24 8:00 日向市内のホテル・桐生の部屋
まずインターフォンが鳴った。何も反応がない。次にドアをコンコン、と控えめにノックした。何も反応がない。真理とマイク、麗蘭はドアマンに頷き、マスターキーで部屋のドアを解除してもらった。特に怪しいところはない。慎重に歩を進めると、ベッドの上で着替えもせずにイビキをかいている幸せ顔の桐生が目に入った。立ち上る殺気にマイクと麗蘭、ドアマンがこれから起こる惨状の現場に背を向ける。
BAGOOOOON!
アメコミのような効果音と共に、真理の拳が炸裂した。桐生は鼻血を垂らしながら「何?何?」と呆けた顔で周りを見渡している。
「お・は・よ・う!」
笑顔でにじり寄る真理の圧が怖い。桐生はベッドから逃げるようにずり落ち、ガタガタ震えながら美しき捕食者から目を離せずにいた。その間にマイクと麗蘭は手早く部屋を調べ、無言で頷く。そして真里がとどめをさす前に冷たく言い放った。
「桐生君、これはどういう事だい?」
「え?」
まだ事態を飲み込めていない桐生だが、マイクがかなり本気で起こっている事は分かる。マイクはため息をつき、部屋の一角を指差した。
「“コトノハノ鏡”はどうした?」
言われて視線を送るとそこにあったはずのアタッシュケースがない。
「き、昨日は確かにそこに置いたんだ!」
「で、今はどこにあるの?」
麗蘭がこちらも冷ややかな視線と声で桐生に問いかける。
「べ、ベッドの下とか!」
ここにも無い、そこにも無いと冷や汗にまみれながらウロチョロする桐生。マイクが最後通告のように言い放った。
「・・・してやられたな」
「・・・はい?」
「典型的なハニートラップじゃない。バカでも分かるレベルの低さだったから、上手く泳がせて情報の一つも引き出してくれてるかと思えば・・・」
麗蘭が頭を抱える。
「そ、そうよね。あまりにも展開が急で、不自然だったものね!」
真理も乗っかろうとするがじゃあその血塗られた拳は何だ、と言われるとおしまいなのでさりげなく手は後ろに回している。マイクは最後通告のように冷たく言い放った。
「・・・君の責任は重大だと言っていたはずだ。それがこんな・・・失望したよ。しばらく一人で反省してろ。間違っても逃げようなんて思うな」
言い捨ててマイクは部屋を出る、麗蘭も振り返る事なく部屋を後にし、真理は少し逡巡してから小さな声で「大丈夫だから」と呟いて部屋を後にした。
しばらく茫然自失に陥っていた桐生だが、鏡に映る自分の顔を見て何かを思いついたらしく、のろのろとスマホを取り出しある番号にかけた。程なく相手が出る。
「おう桐生君、どうした?」
明るく語りかけてくれる相手とは対照的に、桐生は悲壮感漂う声で弱々しく答えた。
「・・・鐘巻さん。切腹用の剣って、譲ってもらえますか?」
「は?何言ってんのお前?」
「出来れば介錯付きでお願いします・・・辞世の句はそれまでに考えておきますから・・・」
「おい!桐生!落ち着け!何があったか説明しろ!」
鐘巻の言葉が届く前に通話終了のボタンは押されていた。




