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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第4章 

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「2025年宇宙の旅」 03

2025.6.23 14:00 高千穂・天岩戸神社


 “天岩戸”は天岩戸神社正殿の裏にある拝観ポイントでのみ目にすることが出来る。

 この“天岩戸ツアー”は午前9時から30分おきに催されており、真理たちは比較的遅い時間に参加したのだが、それでも10名近くが集まっていた。


「ここから先は神域なので、写真撮影はご遠慮ください」


 神職の誘導で緩いつづら折りを下る。空気が変わり、正面にしめ縄が掛けられた“天岩戸”が姿を現した。


 大きな岩盤に深い亀裂が入っているようにも見える。神話の時代から高千穂の深い谷の中腹に存在する伝説の場所は、そうと知らずに見たとしても畏敬の念を抱かざるを得ない正に“神域”。すべての音が失われ、目が惹きつけられる言葉にできない感覚。


 誰もが自然と手を合わせ、頭を垂れた。真理と桐生も静かに目を閉じ、祈る。天照大神のご加護が在らんことを。あまり神に馴染みのない麗蘭はとりあえず二人の作法に倣った。


「いかがでしたか?“天岩戸”は」


 ツアーを終え、社務所に戻ってきた真理たちを出迎えたのは宮司の西野。40代ぐらいであろうか。若々しくエネルギーに満ちた姿はスポーツ選手のようでもある。


「初めて本物を拝見しましたが、圧倒的でした」

「目が離せない、ってこういう事なんっすね」

「それは良かったです。ガイドの説明にもあったと思うのですが、大きな地震の時に形が変わってしまいました。しかし御姿が変わる事は、“御神体”そのものが変わることではありません」


 二人は頷き、麗蘭はよく分からない顔のまま出された茶を口にした。


「それで、この度はどのようなご用向きにて?」


 西野に促され、


「信じられない話だとは思うのですが……」


 真理がこれまでの経緯を説明した。


「……なるほど、にわかには信じられないお話です。しかし、こちらにいらしたのも、天照大神のお導きによるものかもしれません」


 西野は熟考した後、言葉をまとめるようにゆっくりと茶を流し込む。


「AIが“天岩戸”を指したとの事ですが、年一回のしめ縄の張り替えですら登山家の方にご依頼させていただくような場所にあります。危険である事はもちろん、通常は立ち入ることのできない“神域”なので、軽々にご案内するのは少々難しいというのが本音です」


 そりゃそうですよね、と苦笑いする真理たちに西野が別の提案をした。


「ひょっとしてそのAIが仰っているのは天岩戸ではなく、こちらの事ではないでしょうか」


 西野が差し出すスマホに表示されているのは、先ほど見た天岩戸とはかなり趣の異なる大きな洞窟のような場所。奥に据えられた鳥居を囲むように、賽の河原に似た積み石で隙間なく埋め尽くされている。


天安河原あまのやすかわらと言います。御籠もりになった天照大神をお慰めするため、八百万の神々が“宴”を開いたとされる場所です」

「その場所は、見せていただくことが出来るんでしょうか?」


 真理が期待のこもった眼差しを向ける。西野はにっこりと答えた。


「問題ありません。普段から多くの参拝者や観光客の皆さんが来られていますよ。今からでもご案内しましょうか?」

「是非、お願いします!」


 三人は同時に頭を下げた。



◇◇◇



2025.6.23 15:00 高千穂・天安河原宮


 天岩戸神社から歩いて程なく、岩戸川へ下る細い道を進む。苔むす岩の間を縫って走るせせらぎに沿って尚も進むと、左手に大きく口を開けた祠が視界に飛び込んできた。


「思ってたより大きいっすね」


 桐生が素直な感想を口にする。やはり、写真で見るのと実際に見るのでは存在感も含めかなりのギャップがある。小型のドームと言って良い。


「積み上げられている石は、参拝された方々から神への願いが込められています。調査の際はそれらに触れたり、崩したりすることが無いようご留意ください」

「何とも独特な雰囲気ね・・・」


 麗蘭にとっては賽の河原のように無数の石が積み上げられている光景は異文化そのものなのだろう。


「ここから天岩戸まではそれなりに距離があるようなのですが、神話とは少し違うのでしょうか?」


 西野は苦笑しながら答えた。


「神話では神の岩戸の前で宴会が催され、アメノウズメの舞に大爆笑した神々の声が天照大神の興味を惹き、力自慢の手力雄神が開かれた隙間から天照大神をお引き出しになられたと言われています。神々の声がよほど大きかったのか、神話の時代には天安河原宮と天岩戸が隣接する位置関係にあったのか、今では知る由もありませんね」

「宴で門を開く・・・やっぱりここに“門”がある可能性は高いわね」


 麗蘭が考え込むような仕草をする。


「問題はその宴をどうやって再現するのか。見当もつかないわ」


 真理も八方塞がりな思いに囚われている。桐生が何気なく言った。


「ここで爆音の生ライブをやってみるとか?」


 “殺されたいのか、お前?”

 口には出さなかったが、敬虔なる西野宮司は視線で桐生を黙らせた。



◇◇◇



2025.6.23 13:00 宮崎県日向市・日向宇宙工科大学


 ランチを挟み、マイクはまず楠とロケットプロジェクトの打ち合わせを行っていた。


「・・・つまり現状では、高度1万メートルが突破目標と言う事か・・・」

「昨年の実績が最高到達点8000メートル。実現可能かつ分かりやすい目標です」

「学生たちもそれで納得しているのか?」

「むしろ、難題と頭を抱えています」

「・・・やはりアレをやらないとダメか」

「今年は、更に追い込んで良いかと。近年稀に見る“打てば響く”人材が揃っている年ですので」

「分かった。不本意ではあるが、私も本気で向き合おう」

「一蓮托生です。責任は全て私が負います」

「・・・君のような男を日本では“薩摩男児”と呼ぶのだったかな?」

「米兵にはコテンパンにやられましたけどね」


 笑みを交わす二人の間には揺るぎない友情と、隠しきれない黒い空気が漂っていた。


 楠との会談を終え、マイクは真田の研究室に案内された。白衣を着た真田の横に初音が小さく縮こまっている。マイクは楠の時とは違い、曇りのない無邪気な笑顔で話しかける。


「さあ初音、Dr.真田が自慢するほどの君の研究成果を聞かせておくれ!」


 真田に促され、初音が俯きがちに頷き、研究所のモニターに研究成果を表示する。


「・・・ご存じの通り、真空である宇宙には“音”という概念が存在しません。しかし、宇宙空間に散らばる様々な現象・・・特に光を耳に聞こえる“音”として変換する試みが“ソニフィケーション”と呼ばれ、NASAをはじめとする宇宙機関で進められています」


 マイクもその試みについては知っている。何せ自分でロケットを作って飛ばすほどの宇宙マニアだからだ。初音も釈迦に説法している感があり、何とも居心地が悪い。


「その“音”がただの現象ではなく、“宇宙の声”だったとしたら。その研究テーマに興味を持っていたいただいた事に、本当に感謝しています」


 マイクはうんうん、と頷き先を促した。


「“音”への変換方法にはまだこれといって確立された方法がありません。だから私は宇宙にこだわるのではなく、考えられる方法を片っ端から試しました。絵画や写真から得られる視覚情報を音に翻訳する方などにもお話を伺い、毎回異なるアプローチで宇宙からの音を解析しました。その結果」


 俯きがちだった初音の顔が上がり、メガネの奥の目を輝かせる。


「最近になって、“言語らしきもの”への変換に成功しました!」

「ついにやったのか!」


 マイクも興奮を隠しきれない。


「はい。言語は極めて日本語に近いのですが、マイクさんであれば何となくご理解いただけると思います。では、再生しますね!」


 生き生きと作業を進め始めた初音を真田が我が子を見守るような眼差しで見つめる。初音が一つの音声ファイルを開き、再生ボタンを押した。しばらくアンテナの合わないラジオのような雑音が響いていたが、その瞬間は唐突に訪れた。


「・・・以来じゃのう」

「・・・も楽しみにして・・・」

「・・・照大神はおこもり・・・」

「・・・が言い始め・・・」

「では、やらぬ・・・・・かろう」


 マイクは驚愕した。


「これは・・・会話じゃないか!」

「そうなんです!まるで何かを始めるための相談をしているように聞こえます!」

「君たちには、これが何を意味しているのか見当がつくのかい?僕は言葉は分かるけど、意味が殆ど分からないんだ」


 真田が苦笑しながら答える。


「不明瞭な部分もありますからね。ただ、我々日本人にとっては非常に有名な神話のことに聞こえます」

「有名な神話?」

「天岩戸という神話で、岩屋に立てこもった太陽神・天照大神にお出ましいただくため神々が行なった盛大な宴の事です」


 天岩戸・・・だと?マイクは珍しく自分の脳が処理能力を超えそうになったのを感じた。


「それ、詳しく聞かせてくれないか?」

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