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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第3章 

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「八岐大蛇と伝説の剣」 03

2025.5.24 島根・八重垣神社


 八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を


「古事記」によればこの句は素戔嗚尊すさのおのみことが妻の櫛名田比売くしなだひめとの新居について詠んだ日本最古の和歌と言われている。


 出雲には日本神話にまつわる数多くの伝説があるが、その中でも素戔嗚尊による八岐大蛇伝説はかなりメジャーな部類に入るだろう。最後に尻尾から切り出したのが後に三種の神器と言われる草薙剣である事からも事件との妙な因縁を感じる。

 八重垣神社は素戔嗚尊と櫛名田比売を祀っており、神社の奥にある「鏡の池」は櫛名田比売が八岐大蛇から身を隠していた場所としても知られている。


「こんにちは。連絡をさせていただいた御堂と申します」


 社務所を訪れた真理と桐生は鷹村と名乗る高齢の宮司に出迎えられた。


「遠いところからようこそ。お待ちしておりました」


 鷹村は温厚な笑みを浮かべながら、二人を社務所の奥に案内してくれた。ちなみにマイクは相変わらずアメリカ、麗蘭はAI教の通信手段の解析に集中したいという事でいつもの二人が派遣された。訪問が会議から1週間後の週末になった理由は身も蓋もない。


「どこに行くのもいいよ。でも、その分はしっかりと稼いでからにしてね」


という所長からの正論にぐうの音も出ず、馬車馬のように働いていたからだ。


「何でも、八岐大蛇伝説について調べられているとか」

「はい。既に存在する古事からも新たな解釈を見出し、より歴史への理解を深めるという事もやっておりますので。インターネットにはない知識を求めて伺った次第です」

「それはそれは。では、まず八岐大蛇伝説についての定説をご案内させていただきます」

「よろしくお願いします」


 二人は揃って頭を下げた。



◇◇◇



「時は神代、高天原を追われた素戔嗚尊が落とされた地上の場所が出雲の国。素戔嗚尊はそこで頭が8つ、胴がひとつで8つの尾を持つ“八岐大蛇”が村の若い女性を次々襲っている事を知りました。


 8人目となる櫛名田比売を娶ることを条件に、策を講じて八岐大蛇を討ち取った素戔嗚尊が最後に切りつけた尾が剣を弾き、中から出てきたのが“天叢雲剣あめのむらくも。素戔嗚はこの剣を姉の天照大神に寄進し、後に”草薙剣“として三種の神器の一つとなりました。草薙剣はその後いくつかの運命を経て、今は愛知県の熱田神宮に奉納されています」


 鷹村は茶を啜り、喉を潤して続けた。


「以上が八岐大蛇に関する定説の一つ。大体は酒樽に満たした酒で大蛇を酔わせ、その隙に討ち果たしたと言われています」

「参考になります。ありがとうございます。で、一方では八岐大蛇は大蛇そのものを指すのではなく、斐伊川の氾濫に対する治水の隠喩とも言われていますが、そこはどう思われますか?」


 真理が学者らしい切り口から鷹村に尋ねた。


「その見方もまた正しいでしょう。人には制御出来ない大自然の猛威は、神話の怪物と何ら変わりはありませんからな」

「でも、その説だと“草薙剣”の存在が不思議に思えるんです。治水と剣には何のつながりも無いように見えます」

「それも長らく議論されてきた話題の一つです。かつて大和朝廷とは別に山陰地方で力を持っていた豪族があり、彼らは早期から銅剣を作る技術を持っていたと言います。治水を行なった豪族の象徴として、後に朝廷に献上されたものではないか、と言うものもいます」

「“草薙剣”はやはり銅剣だったのですか?」


 鷹村の眉がぴくりと動いた。


「常識的に考えれば。しかし、それも込みで非常に面白い仮説を立てた人物がおりましてな」

「面白い仮説?」

「地元の小学生でな。当時、調べ物をしたいと言ってはよく父親と一緒にここを訪れていたもんです。その甲斐あってか、全国でも表彰される発表を成し遂げたんですわ」


 鷹村はどこか誇らしげに語った。


「小学生が?その自由研究って、どっかで見れたりします?」


 食いついた桐生に鷹村がにっこりと返した。


「一部がこちらに寄贈されております。良かったら是非ご覧になってください」


 鷹村は立ち上がると、書棚から一冊の冊子を取り出した。そこまで古いものではなく、表紙には


「守り神としての八岐大蛇 松江市立奥池小学校6年 鐘巻慎吾」

 と書かれている。


「守り神としての八岐大蛇?・・・タイトルから既に興味を抑えきれないわね」

 真理が目を輝かせながらページをめくった。



◇◇◇



 “僕の住む町には、「八岐大蛇」という伝説があります。

 スサノオノミコトが、8つの頭を持つ大蛇をやっつけた、というものです。

 でも、僕はとても不思議に思うことがあります。胴体がひとつ、頭が8つなら「枝分かれしたのかな」と思うのですが、この大蛇は「尻尾も8本あった」と書かれています。


 頭の中で考えてみたのですが、よく分からなくなったので絵を描いてみました。すると、それは1匹の蛇ではなくて、8匹の蛇が胴体をぐるぐる巻きにされたように見えます。


 これは、スサノオノミコトに捕まえられた8人の龍の神様を表しているのではないでしょうか?神様たちは鍛冶屋さんで、そのうちの一人が「鉄の剣」を打つことができたのだと思います。


 昔の剣は青銅で作られていたので、スサノオノミコトが切ろうとしてもうまく切れなかったんだと思います。


 スサノオノミコトは奥さんと結婚して、八重の垣根で家を守りますが、なぜ八つも作ったのか、これも不思議に思いました。蛇は1匹なので、八つも作るのはおかしいと思います。


 これは、捕まった8人の神様が改心して、それぞれスサノオノミコトとその奥さんを守るために一人ずつ垣根を守っていたという事ではないでしょうか。


 そう考えると、「八岐大蛇」は怪物ではなく、斐伊川のはんらんでもなく、出雲の守り神であったということになります。それなら僕たちは、今まで「悪いもの」として伝えられてきた神様を、もう一度思い出す必要があるのではないでしょうか。


 8人の中で一番強い神様が持っていた鉄の剣は“草薙剣”として日本の宝ものになったと言われていますが、きっと他の7人の神様が持っていた銅の剣と一緒にどこかに眠っていると思います。これが見つかったら、僕の説は正しかったんじゃないかと思います。


 なので、僕はこれから一生懸命勉強して、お父さんのような発掘家になり、いつか本物の剣を見つけたいと思います“



◇◇◇



 読み終わった二人はしばし声を発する事も忘れ、じっと考え込んでいた。鷹村宮司はしてやったり、といった顔で二人を見つめている。


「どうですか?これは御堂さんが仰った“インターネットには無い知識”と言う目的と非常に合致すると思うのですが」


 真理は素直に負けを認め、鷹村に礼を述べた。


「はい。予想を遥かに超える内容に正直驚きを隠せません。真偽がどう、と言う事ではなく定説に埋もれていた矛盾を見逃さず、きちんと自分の意見としてまとめた才能には驚嘆すべきものがあります」

「自分が6年生の時に書いた自由研究を思い出すと、情けなくて涙が出そうになるっす・・・」


 実際桐生はちょっと涙目になっている。


「機会があったら是非お会いしたいですね。彼は今でもこの町に?」

「住んでいますよ。体も大きくなって、あいつが素戔嗚尊の生まれ変わりなんじゃ無いかと思うぐらいですよ」


 現代に蘇った素戔嗚尊。面白そうだと思った真理だが、その邂逅が間近に、しかも予想外の形で迫っていることはまだ知らない。

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