「八岐大蛇と伝説の剣」 02
2025.5.16 22:00 東京・真理の研究室
今回は検討内容が多く、また出雲という神話の宝庫が舞台という事もあり会議は紛糾した。主には3つのAIによる推論と提示内容の差であるが、例によって真理と麗蘭の代理戦争が繰り広げられAIのSOPHIAに
「真理、仕事の邪魔するなら出て行って」
と嗜められてしまった程である。普段控えめであるだけにSOPHIAの言葉は効く。
例によって桐生からのど飴を受け取った真理が心根尽き果てた感じで机に伏せりながらガラガラ声を絞り出した。
「じゃ、総括をマイクよろしく。私も麗蘭もこれ以上喉が持ちそうにない」
「心得た。じゃ、これまでの経緯と含めてなるべく簡単にいこう。大きなトピックは3つ。
1、コトノハノ鏡による開門条件と場所
2、AI教の目的と行動で不自然な点について
3、レプリカ短剣について
こららの認識を合わせた後で、REZONが提示する予測とそれに基づいた各自の役割を確認しよう」
そういえばマイクって世界的企業の社長なんだよな・・・真理の説明が不満というわけではないが、人に物を伝えるやり方としては参考になるところが多い。薄れつつある意識の中で宮本はそんな事を考えていた。
「まずコトノハノ鏡による開門条件について。先日の件と4月の件。共通するのはこれら。
・コトノハノ鏡に“豪運君”(もしくは水晶球)がはめられていること
・新月もしくは満月の夜に開門する可能性が極めて高いこと
・その時に選ばれた人物がコトノハノ鏡を手にした時だけ水晶球が光る
・真の言の葉とは何か、現時点では情報が不足しており断定できない
ざっとこんなとこかな。何か気になる点はあるかい?」
麗蘭が挙手した。
「途中でも議論になったんだけど、時間は問題とされないの?」
確かに前回は満月が最大になるタイムリミットに追われて全力で階段を走り抜けた記憶がある。
「ないだろうね」
「は?」
マイクのすげない回答に麗蘭のこめかみに青筋が立つ。
「そこまで精密な測定が出来るようになったのは近代だよ。古代の人が何時何分に真円になるからそれに合わさなきゃ、って儀式を進めていた可能性はごく低いしTRUTHすら誤差範囲と判断しているよ」
「じゃあ、新月もしくは満月の日没後から夜明けまで、が妥当という解釈でいいかしら?」
「そういう事になるね」
「桐生」
ただ名前を呼ばれただけなのに桐生の魂が萎んでいくのが目に見える。宮本と南はそれよりも、「人間って叫ばなくてもこんな怖い声を出せるんだ」という事実に恐怖した。
「はい・・・」
「次は無いわよ」
「はひ、先走らぬよう心がけます」
一見お咎めなしに見えるが次は容赦しない、とも取れる。
「次にAI教の目的と行動で不自然な点について。存在自体が、という前提は置いといてこんなもんかな。
・AI教の通信手段(特に教主から被害者への指示)
・AI教の本拠地(宗教団体なのに聖地に類する場所や建物を有していない)
・AI教の信者(数を集めることを目的としている形跡が見られない)
・コトノハノ鏡と古文書を盗んだ方法(どうやって目星をつけた?)
・“門”を開ける時に何を願おうとしているのか
・全ての“門”が開いた後に起こる事を知っているのか
主な点はこれらだね。これも何か質問あるかな?」
南が手を挙げた。
「1つ目なんですけど、そんな都合のいい通信手段っていうのが今でも腑に落ちないんです。いくら最新の技術だからってあり得るんでしょうか?」
「あり得るし、それが現実と考えてるわ」
麗蘭が答える。
「例えるなら・・・手紙でのやり取りが主流だった時代に地球の裏側にいる人間とオンラインで顔を見ながら会話する技術があったら、知らない人にとっては訳が分からなかったでしょうね。従来の常識では追いつけない何かを手にしているんじゃ無いかしら」
「なるほど・・・了解しました!」
「AI教の目的なんだけど」
真理が喉を押さえながら発言する。
「そもそもトピックにあるように、信者を集める事を目的としているとは考えにくいの。そしてこうやって事実を並べていくと、独特の感覚に見舞われるわ」
「独特の感覚?」
宮本が興味深そうに尋ねた。
「目的に対する手段が最適化されすぎてるの。人が考えた計画って穴があったり無駄があったり、“温度”を感じる物なんだけどAI教のそれには無い。むしろREZONが“門”の目的や結果を知っていて、そこに向かう最適解を提案したならこんな感じになるんじゃ無いかな、って考えるとしっくりくるわ」
「同感だ。我々のAIが導き出す答えも予測して、都合よく振り回されている可能性すらある」
「REZONの3賢者を振り回す?そんな事ができる奴がいるんですか?」
南が信じられない、といった表情で素直な気持ちを口にする。
「別に私たちが世界最高で唯一の天才集団という訳ではないわ。世には出ていないけど、奇想天外な才能を持つ人なんて珍しい存在じゃないし」
「それでも本官は、ご三方こそが世界一であると考えるであります!」
だからなぜそこで敬礼する。宮本はそろそろ考えるのをやめた。
「ありがとう。そうあるように頑張るわ」
麗蘭の言葉に南は涙を浮かべそうになっている。
「じゃ、最後のトピック。レプリカ短剣について。
・凶行に使用された短剣はどれも同一の形状・素材(銅)
・形状と大きさは出雲から出土したものと99%以上の確率で一致
・加工技術は高く、特に刃先の研ぎ出しは素人の技ではない
・以上から製作者は「本物」をよく知り、かつ技術を持った人物と推測される
こんなとこかな。はい、桐生君」
「ええっと、参考になるレプリカなり本物なりが盗まれたりすり替えられたりした可能性が考えられないのに、そこまで精巧に制作出来るものなのかどうか気になって」
「ある程度は可能だ。が、詰めの部分にどうしても生じるはずの違和感がない」
「違和感?」
「見比べる対象がないとその違和感を払拭することは極めて難しいんだ。そこから導き出される仮説で最も有力なもの。それは製作者が手元に本物を持っている」
「でも、本物は全部無事だって!」
「公式に出土したものはね」
「公式?」
「通常発掘はその近辺に埋蔵物がある可能性が生まれたところから始まる。出雲の出土品も、きっかけは調査員がたまたま見つけた陶器のカケラだ」
「じゃあ、未知の埋蔵品を見つけた人がいる?」
「素人ではなく、その筋の誰かが掘り当てたそれが鍵を握っていると考えるのが正しい」
「その誰かって、見当はついてるんですか?」
「ついている。ただ、出来ればきちんと裏を取って臨みたい。更に言えば、SOPHIAが全てに先んじて“八岐大蛇伝説”の調査を提案している。これらが出雲を選んだ決定的な理由だ」
前提条件は出尽くした。そこからマイクの指示による各自の役割分担が皆の腹に落ちる頃には、既に日付が変わっていた。




