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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第2章

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「那智の女子高生占い師」 10

2025.5.13 1:30  那智の宿・ホテル飛龍


 夜勤のフロントマンが眠そうな姿で立っている目線の先には、薄暗い照明の中額を寄せ合って何事か話し込んでいる男女のグループがロビーのソファを占拠していた。


「部屋でやってくれよ・・・」


 フロントマンは思ったが口には出さなかった。



◇◇◇



「で、こっからの話やけどな」


 雲龍が口火を切った。


「“門”について、自分らに言い忘れてた事があってん」

「それって、結構重要?」


 真理の問いにうん、と頷く。


「言い伝えの類はぎょうさんあるさかい、どれとどれが結びついとるかなんか正直わからん。せやけど、これは絶対に意味あると思うねん」

「前置きはいいから、さっさと聞かせてもらえるかしら?」


 夜中に起きているのがよっぽど嫌なのだろう。麗蘭がかなりストレートな言葉を投げた。


「せやな。これは誰がいつ詠んだんか分からんのやけど、明らかに“門”に関する和歌やと思う。いくで。


 “一の滝 闇夜を照らす 望月に 高天原の 道ぞ開かん”


 これは一見、月に照らされた那智の滝を詠んだ綺麗な句に見えるんやけど、ワシはそうやないと思う」

「そうか!それでか!」


 桐生が名探偵さながらに声を上げる。


「ほう、まさかの兄ちゃんか。聞かせてくれ」

「“闇夜”って言葉ですよ!時間はいつでもいいわけじゃない。だから、昨日もAI教は20時なんて時間に儀式を行おうとしたんだ!」

「ええ線行ってるけど半分正解やな。大事なもんが足りてへん」

「望月・・・満月の夜?」


 真理の言葉に雲龍が満足そうな顔をみせる。


「姉ちゃん、正解や。理屈は分からんけど、この和歌を詠んだやつは満月の夜に“門”が開く事を知っとった。でなかったら、わざわざこんな言葉使わへん。それに天雲上人の伝承にも、月明かりに照らされた滝の下りがある」

「じゃあ、次の満月の日が勝負って事?桐生君!」

「分かってますよ。2025年5月の月齢表。これを見れば・・・」


 桐生の動きが止まった。


「どした?なんかあった?」


 無言で真理にスマホの画面を見せる。覗き込んだ雲龍と麗蘭も言葉を失う。


「5月の満月はまさに今・・・正確には1時56分に訪れます!」


 時計を見て残された時間に顔を青くした4人は、勾玉とコトノハノ鏡を手に飛龍神社へと駆け出した。



◇◇◇



2025.5.13 1:50  那智の滝・飛龍神社


「何とか、間に合った!」


 ゼイゼイと息を切らしながら膝に手をつき、桐生が腕時計の時間を確認した。


「あとは“コトノハノ鏡”を掲げれば・・・って、今回誰がやるの?」


 真理の何気ない一言に全員が「へ?」という顔でお互いを見合わせた。


「決まってない、つか分かってなかったの?何やってたのよあんたたち!」


 麗蘭が切れるのもごもっとも。しかし、その間にも時間は過ぎていく。


「俺は恵ちゃんだとばかり思ってたけど・・・今からじゃ色んな意味で無理っす」

「私も、恵さんだと思ってた。何で今の今まで忘れてたのかしら・・・」


 その時、雲龍が持ってきた勾玉が激しく鳴動し始めた。


「あかん、天雲上人も怒ってはる!せっかくここまで来たのに・・・」


 申し訳なさそうに勾玉を眺める雲龍を見て、3人はピンと来た。


「元々この門って、天雲上人が一番開きたがってたのよね」

「で、自分では成し得なかったので出来る人を待ち続けてた」

「その人物がこのタイミングで、開門の鍵とも言えるコトノハノ鏡と一緒にいる」


 3人の視線に気付いた雲龍が「え?」と言う顔をする。


「ワシ?ちゃうちゃう。絶対ちゃう!ちゃうで!」

「男には、やらねばならない時があるんですよ」


 桐生が据わった目で雲龍を見つめながら“コトノハノ鏡”を手渡す。おっかなびっくり受け取った瞬間、雲龍の手の中で“豪運君”が輝き出した。


「やっぱり!この門を開くのは雲龍さんなんです!」


 真理の言葉に返す言葉もなく、雲龍は自分の運命を受け入れた。


「でも、何言うたらええねん?頭真っ白で何も浮かんでけえへん!」


 狼狽える雲龍に真理が深呼吸するよう伝え、自分の時の事を思い出しながら雲龍に伝えた。


「雲龍さん。そもそもあなたがその勾玉を探し続けたのは何のため?単なる宝探しが目的じゃなかったんじゃないですか?」


「そ、それはそうやけど・・・」

「何十年もかけてようやく辿り着いた勾玉。その初心が真実の言の葉ではないでしょうか?」

「・・・」


 何事か考え込む雲龍。桐生が時計を見ながら焦った声を出す。


「間も無く1時56分です!」


 その声をきっかけに雲龍は顔を上げ、勾玉とコトノハノ鏡を那智の滝に向けた。


「今を超える悟りを得たい。ワシも一時修験者の真似事をした事があるから分かる。滝行なんか、見た目と違ってホンマに地獄みたいや。それも乗り越えて、さらに高い悟りを得るために努力を続けた人が報われんかった、言うのがどうしても納得できへんでな。神さんがおるんやったら聞いてほしい。この人は1000年も頑張ったんやで。もう、認めたってもええんちゃうやろか?」


 雲龍の言葉が終わると同時にコトノハノ鏡は輝きを増し、どこからか美しい高音と不吉な低音が混じった鐘の音が鳴り響いた。滝は黄金色に輝き、光で出来たハスの花が滝壺から湧き上がるように咲き乱れる。


「これが、“鳴金”・・・」


 麗蘭の呟きと共に雲龍が持っていた勾玉から何かが飛び出した。それは白いモヤのようなものであったが、やがて一人の修験者の姿を形取った。


「受け継ぐものよ」


 行者は雲龍に目を合わせ、厳格な声で語りかけた。


「お主に感謝する。今宵、我が悲願は成った。ようやく見える。あの先が・・・」


 雲龍は驚きに声も出せず、ただただ行者の言葉を聞いている。


「今生に未練はないが、お主には加護を与えよう。その勾玉がある限り、強い運命がお主を守り続ける事だろう。では、もう行かねばならぬ。達者でな」


 言い残すと行者の姿は光る滝を花の列に送られるように消えていった。

 午前2時。それまでの数分が嘘であったかのように夜は静かな姿を取り戻し、滝の音だけが周囲を包んでいた。



◇◇◇



2025.5.13 13:00 那智勝浦・松本医院


「お父ちゃん!それに皆さん!」


 ベッドから身を起こした恵は傍の母親に支えられながら、予想以上に元気な様子を見せてくれた。


「どないや、具合は」

「うん。痛いことは痛いねんけど、傷の状態が良かったから治るの早いみたい」


 健気に振る舞ってはいるが、昨日の今日でそんなに元気になるものでもないだろう。大人たちは一様に優しい微笑みを返した。


「ほんで、一個知らせなあかん事があってな」


 雲龍は昨夜病院を去ってから“門”が開くまでの一部始終を恵と母に伝えた。恵は驚くよりもやっぱり、といった感じで


「言うたやろ?お父ちゃんが開けるんちゃうか、って」


 洞窟の中で確かに恵はそのような事を言っていた。


「まあ、成り行きやで」


 雲龍は照れくさそうに薄くなった頭をさする。


「ほんで、これからどうすんの?天雲上人の勾玉も探し出してお見送り出来たし・・・まだ雲龍堂やんの?」

「それ相談しよと思てな。今どれぐらい儲かっとるか、通帳持ってきた」

「まあ、バズりまくってた私の占いに比べたら・・・何これ、桁がちゃうやん!」

「特にこの“豪運君”が妙に人気でな。こないだ兄ちゃんが洞窟で無謀なチャレンジしとる間に水晶も仕入れたし。割とええ線行くんちゃうかな?」

「この“マスターREN”のコメントがでかいな。何とかコンタクト取られへんやろか?」


 居た堪れなくなった桐生があの〜、と小さく手を上げた。


「どないしたん?桐生さん。そんな死にそうな顔して」


 無邪気に尋ねる恵に、桐生が思い切って真実を打ち明けた。


「その、“マスターREN”って俺のことっす!」


 雲龍と恵の目の色が変わった。


「ホンマか?絶対ホンマか?嘘ちゃうねんな?」

「ほ、ほんまです。実際、“コトノハノ鏡”に据えられてるのは最初に買った“豪運君”なんです!」


 まさか、と雲龍が“コトノハノ鏡”を改める。


「確かにこれは“豪運君”のメイン水晶・・・兄ちゃん、いや桐生君、あんたを見込んで頼みがある!」


 土下座しそうな勢いの雲龍にたじろぐ桐生。


「え〜と、何でしょう。あまり出来る事もない気がするんすけど・・・」

「ウチの商品全部送るから、レビュー書いたってや!」

「全部って・・・あの大量にある商品全部っすか?無理っす!」


 必死で断る桐生を見て恵がため息をつきながら呟いた。


「この手は使いたくなかったんやけどな・・・桐生さん、ちょっとこっち来て」


 真理の中でアラームが鳴った。麗蘭は既に手遅れと判断したのか、あらぬ方向に目をやっている。


「桐生さんのこの手をこうやってな、」


 次の瞬間。恵に掴まれた桐生の腕は恵の胸に押し当てられていた。


「キャー!桐生さん、何すんの!」


 え?え?事態が飲み込めない桐生が呆然と自分の右手を見つめる。ここぞとばかりに畳み掛ける恵と雲龍。


「お父ちゃん、彼氏でもない男の人に胸触られてしもた〜。もうお嫁に行かれへん」

「何やと!誰がそんな不届きな事を!お父ちゃんが地獄の果てまで追い詰めてキッチリ片とったる!」

「いや、今のって、俺のせい?」

「おのれか!ワシの大事な娘に何さらしてくれとんねん!」

「あかん・・・もう立ち直られへん。せめて雲龍堂の商品が絶賛されるレビューを毎日見るぐらいええ事がないと、生きる気力も湧かへん・・・」

「恵はこない言うてるけど兄ちゃん、どない落とし前つける?」


 典型的な関西人の追い込みに桐生は目で助けを求めた。真理がこめかみを抑えながら落とし所を提示する。


「・・・仕事に支障がない範囲で。研究所でやってもいいけど、残業にはならないから」

「そんなあ・・・」

「まあ、結果が出たらそれなりのもん返すよって。気張ってや」

「桐生さんなら出来ます!」


 ニコニコの雲龍と恵。母親は初め申し訳なさそうな顔をしていたものの、雲龍の通帳を見て考えを改めたようだ。


「恵も傷物になってしもた事やし・・・将来含めて責任とってもらいましょか」


 マジかよ。誰か助けてよ。桐生の願いが通じたのか、マイクから緊急の連絡が入った。真理が即座に対応する。


「真理よ。何か急な出来事?え?そうなの?分かった。一旦東京に戻って対策を考えましょう」

 厳しい表情の真理に麗蘭が尋ねる。


「マイク、何だって?」

「犯行に使われた凶器の出所について、いくつか目星がついたらしいの。そこがAI教と関係している可能性が高いって」

「目星がついたのはどこ?海外とかじゃないわよね」


 真理がフルフルと首を振った。


「山陰。島根県の出雲よ」



◇◇◇



 はるか遠くの西の空。黒装束の男が出雲へ向かう寝台特急の車窓から流れる景色に目をやっていた。

「・・・2つ目の門も予言通り。さあ、人の域を出られぬ者たちよ。次の働きにも期待するとしよう」

 寝台特急の赤いランプが、出雲へと続く線路を静かに遠ざかって行った。



 第2章 完

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