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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第2章

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「那智の女子高生占い師」 04

2025.5.11 17:00 熊野那智大社表参道の外れ


 夕日が山に差し掛かる頃。表参道の外れにある建物を見ながら佇む2つの影が石畳に伸びていた。


「ここ・・・ですよね?」


 桐生が不安げに建物の看板を見上げる。古びたトタン屋根の看板には手書きの文字がうねっていた。


 家内安全・商売繁盛・安産・厄除け・運勢アップ

 波動光学・量子氣共鳴研究総本家 雲龍堂

 -魂のバイブス整えます-


 年季の入った扉を開けると、鼻を刺す線香と機械油の混じった匂い。得体の知れない物体が入った段ボールは無秩序に積み上げられ、水晶球やハンダごて、意味不明な図面とスピリチュアル系の雑誌。


 それらが机を覆い尽くし、わずかに人ひとり通れるほどの“通路らしき空間”を残していた。部屋の奥に見える香炉からは煙が上がっており、薄暗い照明と相まって魔窟のような雰囲気を醸し出している。


「すみませーん・・・」


 桐生が恐る恐る声をかけると、オリエンタルな柄も怪しい奥のカーテンが揺れた。


「・・・あーい、ちょっと待ってやー」


 現れたのは派手なアロハに短パン、サンダルをつっかけた小太りな中年男性。薄くなった額に反抗するかのように跳ね上がる横髪は、インチキマジシャンを思わせる丸縁のサングラスに抑えられている。首元を飾る水晶のネックレスが目に痛い。


「らっしゃーい!雲龍堂店主の久保山・・・もとい、導師の雲龍でーす」

「もとい?」

「何?なんか言うた?」

「・・・久保山さん?」

「導師の雲龍でーす」

「・・・でもさっき」

「雲龍でーす!」

「はい、分かりました・・・」

「で、今日はどないしたん?浄化?合格祈願?それとも……そこのお姉ちゃんと恋愛成就?」

「・・・いや、この人は僕の上司で・・・」

「分かるわかる、別嬪さんやもんなあ?いつも一緒にいてるけど、あと一歩が踏み出せへん。自分ぐらいの年頃にはようある話や。せやけど心配ないで。ワシが見つけた、役行者ゆかりの祠で見つかったバイブスを波動して、パルスに魂込めた水晶エナジーバランサー、その名も“アセンションV3”!これ付けたらもう、自分モテるどころの話ちゃうで!」


 自慢げに首元のネックレスを持ち上げる。


「ほんまやったらこんな危ないもん世に出したらあかんのやけど、ここで会うたんも何かの縁や。今なら特別価格、3980円で譲ったるわ。どや?」

「・・・ええと、そういう話じゃなくて……」

「何?これだけやったら足りへん?なかなかやるなあ、自分。ほしたらこれもどうや。有名な陰陽師が時の権力者に頼まれて作ったらしい“惚れ薬の成分的なもの”を月の夜に護摩で炊き上げたお香。……その名も“惚れルーン13世”!ほんまやったら6000円やけど、今なら特別価格980円でご奉仕や!」

「……何だろう、どっかで聞いたようなこの感じ……」

「これでもまだ納得せえへんのか?自分、強情通り越して天晴れやで。ええい、こないなったら商売抜きや。とっておきのもん見せたる!ええか、これは熊野に伝わる伝説の修験者・天雲上人がその霊力を封じたと言われる勾玉の近くにあったらしい水晶から削り出したっぽい究極の開運デバイス。その名も“豪運君”!」

「あんたかー!」



◇◇◇



2025.5.11 17:15 竜雲堂

「まいどおおきに〜!」


 雲龍が満足気に代金を受け取り、“豪運君”を桐生に手渡した。


「自分、なかなか見る目あるで。ここだけの話、“豪運君”は今ダントツで売れ筋ナンバーワンの人気商品で絶賛量産中や」

「そんなに人気あるんですか?」


 桐生は繁々と安っぽい包装紙に包まれた“豪運君”に目をやった。


「こないだAmazonにええ評価とレビューしてくれた奴がおってな。そっから受注の嵐で、笑いが止まらんわ」


 雲龍が自慢気にスマホに表示された“豪運君”のレビューを表示する。


 Amazonの商品レビュー

 マスターREN

 ★★★★★ Amazonで購入

 これは、本物です!

 2025年4月29日に日本でレビュー済み


 はじめはシャレのつもりで買ったんだけど、使ってびっくり!

 信じられないと思うけど、マジやばいって。悩んでるなら、迷わず購入をオススメするね。何があったって?訳あって大きな声じゃ言えないんだけど、鼻で笑ってた上司が「豪運君すげー!」って手のひら返しするぐらいにはミラクルな出来事があってさ。とにかくヤバイ。この価格でこれは、もはや慈善事業の域だね。


 真理と桐生は揃って嫌な汗をかいていた。寝不足のまま勢いで書いたレビューを見た真理は「何この胡散臭さ満載のレビュー。営業妨害になるわよ?」と爆笑していたのだ。それがまさかこんな事になっているとは。


「この“マスターREN”いう奴にはホンマ頭が上がらんで。やってみて分かったけど、ネットのレビューってすごいもんやな」

「そうですね・・・」


 当の桐生は何とも複雑な表情で言葉を絞り出す。と、買い物を済ませたのにまだ帰るそぶりを見せない二人に雲龍が声をかけた。


「どないした?他にも何か欲しなった?」


 期待のこもった目で二人を見つめる雲龍に真理が切り出した。


「実は私こういうもので・・・」


 名刺を差し出す。商談か?期待して受け取った雲龍の表情が微妙に曇る。


「“先端AI開発研究所”?何してるとこ?」

「最新のAIを使って、人とAIがより良い関係を築くための研究を行っています」

「それとワシに何の関係が?」

「研究の中には古代から謎とされてきたものを新たな解釈で解決に導く、というものも含まれておりまして・・・今取り扱っている案件で、先ほどのお話の中にあった天雲上人について調べているところなんです」


 雲龍の表情に嫌悪の色が見え隠れし始めた。


「伝説には天雲上人がその霊力を“常闇の壁”にある勾玉に封じたと言われています。“豪運君”のキャッチコピーに使われている雲龍さんであれば、その場所をご存知ではないかと思って・・・」

「あんたら、その話どこで聞いた?地元でも知っとる奴なんか知れとるで」

「占い師をやっているリナさんから伺いました。ここに来たのも、リナさんのご紹介です」

「・・・帰れ」

「へ?」

「聞こえんかったんか。帰れ言うたんや」

「何かご存知なんですか?是非少しだけでも-」

「帰れ言うとるやろボケー!2度と来んなアホンダラ!」


 突然の怒気に気押されて、真理と桐生は転がるように雲龍堂を飛び出した。背後から何かが壁にぶつかって跳ね返るような音がする。振り返った二人の目に、鉄パイプらしきものを構えて荒い息に怒気を纏った雲龍の姿が映った。本能的に危機を察知した二人は脱兎の如く元来た坂道を駆け上がる。もう大丈夫、と言う場所まで来た二人の息は上がりきっていた。


「な、何っすか今の!」

「・・・分からないけど、何か複雑な事情がありそうね」

「今日はもう、諦めますか」

「そうね。一旦宿に戻って、作戦を練り直しましょう」



◇◇◇



 夕暮れの坂道をトボトボと戻る真理と桐生。雲龍は窓越しにその姿を眺めていた。

 カタン、と音がして裏口に人の気配を感じた。雲龍が振り返ると、セーラー服に身を包んだポニーテールの少女・リナの姿があった。


「お前・・・」

「何なん、今の」

「・・・」

「場所ぐらい、教えたったらええやん」

「いや、ワシは・・・」

「また逃げんの?」

「・・・」


 リナは失望を含んだため息を吐き、最後に言い残した。


「・・・ええ加減、根性見せたれや」


 その背が裏口の向こう側に消え、雲龍は糸が切れた人形のように崩れ落ちた。夕日は闇に溶け始め、残る光が弱々しく項垂れる男の背を照らしていた。

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