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REZON 完全版 コトノハノ鏡 -秘められた神話の旅-  作者: 壇 瑠維
第1部 「神話の門」 第1章

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「先端AI研究所の御堂真理」 09

「真実の言の葉が門を開く・・・えらく抽象的な表現ね」


 真理の言葉に桐生が同意する。


「で、然るべき時に然るべきものが、ってまるでSOPHIAが喋ってるみたいっす」

「言えてるわね」

「それでその、封印されたはずのコトノハノ鏡なのですが・・・何者かによって宝物殿から持ち去られてしまったのです」


 八重垣が非常に言いにくそうに言葉を絞り出した。真理と桐生はピンとくるものがあり、八重垣に尋ねた。


「ちなみにそのコトノハノ鏡なんですけど、特徴は黒くて丸くて丈夫。片面は鏡面で、反対には丸い窪みを中心とした意匠が施されている、で間違い無いでしょうか?」

「私も本物を見たことがあるわけでは無いので。古文書の記述が正しいのであれば、その特徴で間違いないと思います」


 真理と桐生は確信したように頷き、真理のバッグから持ってきた鏡を差し出した。

「これはある事件の現場で確保したものなのですが、ひょっとしてこれがコトノハノ鏡ではありませんか?」


 差し出された鏡を見て八重垣は「ヒッ!」と恐怖の声をあげ、鏡面から目を逸らした。


「そ、そんな恐ろしいものを見せないでください!せめて鏡面は下にして!」


 それもそうだと真理は鏡面を下に向けてコトノハノ鏡を置き直した。八重垣は「もう大丈夫ですか?」と言った後恐る恐る鏡を改めた。


「この大きさと特徴を見る限り、コトノハノ鏡である可能性は非常に高いと思います。しかし、あなた方は鏡面を見ても何もなかったのですか?」


 真理はため息をつきながら答えた。


「あったわ。古文書の宮司さんに同情するぐらい嫌なことが」

「で、では、誰かをその手に・・・?」


 八重垣の表情が恐怖で覆われる。


「ご心配なく。色々あって、古文書で言うところの“本来の姿”を取り戻したようです。中心をご覧ください」


 言われて八重垣が覗き込むと、そこには水晶球“豪運君”が誇らしげに収まっていた。


「これが本来の姿・・・では、然るべき時に然るべきものが真実の“言の葉”を告げれば門が開く・・・?」

「それがどこなのか見当もつかないですね・・・」


 諦め顔の真里に八重垣が考え込む仕草を見せた。


「まさか。いや、しかしそんなはずが・・・」

「何か、お心当たりが?」

「別の文献で“門”に関する記述を見たことがあるんです。その時は与太話と読み流していたんですが、ひょっとするとこの事かもしれません」

「その文献って、今どこにあります?」

「ええと確か・・・これかな?」


 積み上げられた古文書から八重垣が一冊を取り上げた。


「“鳴金なるかねの伝承”というタイトルです。中身は・・・神の定めし試練を乗り越えた時、宝玉の光に天の鐘が応える。その音は高くもあり低くもあり、祝福の花が黄金色に舞い上がる。試練の場所と思われる地を以下に記す」


 が、続くページには


「これは古代より伝わる秘術であり、人が軽々に臨むべき試練ではない」


 とだけ記されていた。


「記されてなーい!」


 桐生のツッコミをよそに、八重垣は眉間に皺を寄せ不思議そうに語る。


「以前読んだ時にははっきりと書いてあったはずなんですけどねえ・・・」

「ひょっとしてコトノハノ鏡と一緒にこのページだけ盗まれた?」

「かもしれません」

「その地名がどこだったか、ご記憶はありますか?」


 真理の問いかけに八重垣は必死に記憶の糸を辿る。


「何箇所か記載されていたのは確かです。最初が諏訪、次に熊野・・・」


 真理と桐生が固唾を飲んで次の言葉を待つ。


「・・・すみません、ここまでしか思い出せません」


「十分です。ありがとうございます。では、諏訪の地で然るべき場所と言えば・・・やはりここですかねえ?」

「そうだとして誰が何を、は全く見当もつきませんな」

「とりあえず本殿前の境内に行ってみます?何かが起こるかも」

「希望的観測ですけど、行ってみますか」


 真理と桐生に促され、3人は境内に出た。既に陽は落ちており、参拝客の姿も無い。コトノハノ鏡を眺めながら桐生が情けない声で懇願する。


「豪運君、君はただの水晶じゃないんだろ?今こそその豪運ぶりを見せておくれ!」


 しかしコトノハノ鏡も豪運君もスン、という感じで桐生をあしらっているように見える。真理はその姿を見ながら考えた。試練を超え、強い願いを持つもの・・・ええい、ものは試しだ。


「桐生君、それ預かっていい?」


「喜んで!」


 真理が受け取った瞬間、変化は目に見えて現れた。

 中心に嵌められた“豪運君”が目も眩むばかりに輝き出したのだ。


「つまり、先生が“然るべき者”?」

「そういう事みたいね。後は嘘偽りのない言葉を紡ぎ出す・・・」


 古文書には“真実の言の葉”と書いてあり、“真実の願い”とは書いていない。つまり、神頼みではなく今この瞬間自分の中にある最も強く、嘘偽りのない思い。そう決めると、言葉はすんなりと真理の口から紡ぎ出された。


「鏡によって悪夢を見せられた全ての人からそれを取り去って!」


 コトノハノ鏡が一瞬強く震え、豪運君も一際強い光を放った。

 同時にどこからともなく聞こえてくる鐘の音。それは遥か遠くからのようでもあり、体の内側で鳴り響いているようでもあった。澄んだ高音と不吉な低音が同居した表現のできない調べ。鐘の音に合わせ足元からは金色のハスの花が無数に咲き乱れ、舞うように天に消えていった。

 3人はしばし息をするのも忘れ、今しがた起こった現象の余韻に浸っていた。


「鳴金・・・」


 誰かが呟くと共に最後の花びらがゆっくりと姿を消し、辺りは元の静寂を取り戻した。



◇◇◇



2025.4.29 8:00 東京・真理の研究室


 諏訪大社から蜻蛉返りした真理と桐生は、襲いくる睡魔に鞭打ってマイクに事の次第を説明した。ちなみにコトノハノ鏡は「事件の証拠品であれば、解決まで警察に御預けください。何ならそのまま戻ってこなくても大丈夫です」という八重垣宮司の強い要望により今は真理の手元にある。


「その“鳴金”って現象を見てみたかったなあ」


 マイクは超常現象をいたく気に入ったようで、しきりに鳴金の事を話題にする。


「じゃあ次は日本に来て一緒にあれやこれやに巻き込まれてみる?」

「真理の誘いなら本来断る理由が無いんだけどね。今はこっちを離れる事が出来ない。夏頃には日本に行く予定があるから、その時は付き合うよ」

「仕事はどうすんの?」

「半ばバケーションというかボランティアでね。またその時が来たら詳しく説明するよ。それはともかく」


 マイクの表情が真剣なそれに変わった。


「AI教の教主を逃したのは痛かったな。PCと鏡を押収出来たとは言え、奴らがこのまま大人しくなるとは考えられない」

「私も同感。それに、諏訪大社の古文書から抜き取られた“門”に関する記載。コトノハノ鏡を盗み出す際に、AI教が一緒に持ち出したと考えるのが自然なんだけど、そうすると目的が分からない」

「ここまでの情報を整理して、何とかAI教の先手を打ちたいところだけど・・・麗蘭はまだダメなのかい?」

「寝始めてからまだ24時間も経ってないからね。今起こしたら一生縁を切られそうな気がする。それに私たちも流石に眠いし」

「分かった。こちらは分かる限りにて最新の情報をA2Zにかける。ついでに熊野で鏡や門に関するデータがないかも調べてみるけど、正直これは麗蘭の方が適任だね・・・」

「私たちは今日はお休みして、明後日から動き始めるわ。麗蘭もお昼以降なら多分大丈夫だし」

「起きた瞬間に仕事、って言ったらまたキレるんじゃないか?明日の夕方にそれとなく打診して、明後日の朝から情報整理をした方がいいんじゃないかな」

「そうね。焦っても仕方ないし。とりあえずSOPHIAにもここまでの情報を入れたから、後は寝て待って・・・何これ?」

「どうした?」

「SOPHIAが門についてコメントしてる。共有するわね」


 そこにはSOPHIAらしい、いつもの謎めいた言葉が記されていた。


 “門の顕在が示すのは福音か、絶望か。後戻りは許されない”


「・・・何と難しい解釈か。すまない、やはり麗蘭を交えて協議する必要がある」

「同感ね。せめて福音だけで終わって欲しかったわ・・・」


 会談を子守唄に爆睡していた桐生を叩き起こし、来るべき日に向け真理は研究所を後にした。



◇◇◇



 同時刻。一人の男が暗い部屋でディスプレイの光を浴びながら、満足げな笑みを浮かべていた。

「まさか本当に門が開くとは。我が神の慧眼には恐れ入るばかりだ」


 教主は門の位置が記された古文書のページに目をやり、不適な笑みを浮かべる。


「これまでの仕込みも上手く働いてくれそうだ。せいぜい必死に踊るがいい」



 第1章 完

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