綺麗に焼かれたステーキ
昼の店内は、いつも通りだった。
皿が運ばれ、注文の声が飛び、店の中を足音が行き交う。
その流れの中で、不意に扉の開く音がした。
リナはほんの一瞬だけ視線を向ける。
入ってきたのは、アルトだった。
すぐに視線を戻す。
やることは変わらない。
呼ばれた方へ向かいながら、ほんの少しだけ背筋を伸ばした。
声の高さを整える。
視線をまっすぐ合わせる。
「いらっしゃいませ」
「今日はいると思ってた」
「そうですか」
短く返して、リナは注文を受けた。
しばらくして、料理を運ぶ。
皿の上にあるのは、綺麗に焼かれたチキンステーキだった。
皮は軽く色づき、余計な油はきちんと落ちている。
盛り付けも崩れていない。
アルトはナイフを取り、迷いなく肉を切り分けた。
静かな音が鳴る。
一口、口へ運ぶ。
その動きには無駄がなかった。
食べ方も崩れない。
一つ一つの仕草が、やけに静かに見えた。
アルトが、ふと顔を上げた。
「この前の紅茶。よかった」
「ありがとうございます」
リナが答える間にも、ナイフが静かに動く。
「頑張ってるね」
その言葉に、リナの動きがほんの少し止まった。
アルトは少しだけ間を置いて続ける。
「ちょっと無理してるよね」
わずかに息が詰まる。
リナは視線を落とした。
「……仕事なので」
そう返す。
「うん」
アルトは軽く頷いた。
「でも、それ嫌いじゃない」
さらっと続いた言葉に、リナは思わず顔を上げる。
アルトはいつもと変わらない表情のまま、食事を続けていた。
「頑張ってる感じ、分かりやすいし」
軽い調子で言う。
「ちゃんと分かってやってるのも」
そこで言葉が止まる。
アルトがほんの少しだけ口元を緩めた。
この人なら、間違えない気がした。
「……そう見えますか」
それだけが、ようやく口から出る。
「うん」
返事は短かった。
けれど、それ以上は踏み込んでこなかった。
皿の上の料理が、少しずつ減っていく。
アルトは最後の一口を食べ終えると、静かに顔を上げた。
「この後、時間ある?」
不意に向けられた言葉に、リナは一瞬だけ返事を失う。
店内の音が、少し遠くなった気がした。
「……少しなら」
少し遅れて、言葉が出る。
「じゃあ、どこか寄ろうか」
軽い言い方だった。
なのに、その言葉だけが妙に残る。
「はい」
リナは短く返した。
リナは空いた皿を下げる。
手はいつも通り動いていた。
皿を重ね、次の注文を確認し、足を止めずに店の中を回る。
けれど、どこかほんの少しだけ違っていた。
扉の向こうが、少しだけ近く感じた。




