半分このパン
店の灯りが落ちる。
最後の戸締りをして、外に出る。
夜の空気が、少しだけ軽い。
「帰る?」
隣から声がする。
「うん」
そのまま歩き出す。
少しして、エリオットが足を止める。
「ちょっと寄るけど」
前を見たまま言う。
「……どこ?」
「すぐそこ」
ついていく。
角を曲がった先に、小さなパン屋があった。
灯りはまだついている。
扉を開ける。
中は静かだった。
残っているパンも、もう少ない。
「これと」
エリオットがいくつか指差す。
「あと、これ」
迷いがない。
「適当だね」
「いいじゃん」
軽く返る。
紙袋を受け取る。
外に出る。
少し歩いて、店の横の段差に腰を下ろす。
エリオットが紙袋を開ける。
まだ少し温かい。
一つ取り出して、半分にちぎる。
「はい」
差し出される。
受け取る。
一口かじる。
やわらかい。
エリオットが少しだけ笑う。
「これ、うまいね」
エリオットが言う。
「うん」
短く返す。
「当たりだったじゃん」
「適当だったくせに」
「適当な方が外れないんだよ」
軽く笑う。
「考えすぎない方がいいこともあるし」
一瞬だけ、手が止まる。
「……そういうもん?」
「たぶんね」
それ以上は続けない。
リナはまた一口、パンをかじった。
考えるより先に、自然と手が動いている。
「昨日、どうだったの」
ふいに落ちてきた言葉に、リナは少しだけ動きを止めた。
ほんの短い間が空く。
「……楽しかった」
飾らないまま、そのまま答える。
「そっか」
返ってきたのは、それだけだった。
エリオットは、それ以上聞こうとしない。
小さな沈黙が落ちる。
けれど、不思議と重くはなかった。
パンをちぎる。
また一口、口へ運ぶ。
気づけば、リナは笑っていた。
何の話をしていたのかも、もうよく覚えていない。
どうでもいい会話ばかりだった。
それでも、自然と続いていく。
紙袋の中は、いつの間にかほとんど空になっていた。
「食べすぎじゃない?」
リナが言う。
「そっちも」
エリオットは軽く返した。
リナはまた一口、パンをかじる。
それから、二人はゆっくり立ち上がった。
「じゃあ」
「うん」
そのまま、自然に別れる。
部屋へ戻る。
扉を閉めると、静けさが戻ってきた。
リナは手に持っていた紙袋へ視線を落とす。
中には、食べかけのパンが少しだけ残っていた。
取り出して、一口かじる。
もう温かくはない。
けれど、味は変わっていなかった。
ゆっくり飲み込む。
「……こっちの方が」
そこまで言って、止まる。
それ以上は続けなかった。
リナは残っていたパンを、そのまま食べる。
何も考えないまま。




