いつもの賄い
昼の店内は、変わらず忙しかった。
皿を運び、呼ばれれば返事をして、また次のテーブルへ向かう。
身体は自然に動いている。
けれど、どこか少しだけ噛み合わない。
昨日と同じように動こうとして、わずかにずれる。
背筋を伸ばす。
声を整える。
歩く速さも、視線も、少しだけ意識する。
そのまま動き続ける。
なのに、ほんの少しだけ疲れていた。
カウンター越しに、皿が差し出される。
リナはそれを受け取った。
「今日、普通だね」
不意に落ちてきた声に、リナはわずかに眉を寄せる。
「……何それ」
短く返す。
「昨日まで避けてたのに」
エリオットはさらっと続けた。
一瞬だけ、リナの手が止まる。
「……別に」
そう返しながらも、視線は向けなかった。
「まあ、いいけど」
返ってきた声は、いつも通りだった。
それ以上は何も言わない。
いつもみたいに、そこで終わる。
仕事がひと段落する。
店の奥にも、ようやく少しだけ余裕が戻っていた。
そのタイミングで、目の前に皿が置かれる。
きのことベーコンのバター炒めだった。
まだ湯気が立っている。
「食べる?」
いつもの調子で、エリオットが言う。
「……うん」
リナは小さく返して、近くの椅子へ腰を下ろした。
リナはフォークできのこを取った。
一口、口へ運ぶ。
バターの香りが、ふわりと広がる。
塩気もちょうどよかった。
「戻ってきた?」
ふいに落ちてきた声に、リナの手がわずかに止まる。
けれど、顔は上げなかった。
「……何が」
「なんでも」
エリオットは軽く返す。
リナはまた一口、口へ運ぶ。
何を話していたのか、もうちゃんと覚えていなかった。
会話は続いている。
どうでもいい話ばかりだった。
それでも、不思議と途切れない。
リナはそのまま食べ続ける。
気づけば、フォークを持つ手が止まっていなかった。
また一口、口へ運ぶ。
ふと、リナは皿へ視線を落とした。
もう半分以上なくなっている。
「……あれ」
思わず声が漏れて、手が止まった。
エリオットが少しだけ顔を上げる。
「美味しくなかった?」
「違う」
それだけは、すぐに出た。
けれど、その先の言葉が続かない。
もう一度、皿を見る。
さっきまで、もっとあったはずなのに。
何も考えずに、食べていた。
リナはまた、きのこを一口口へ運んだ。
そのまま飲み込む。
何も言わない。
エリオットも、何も言わなかった。
ただ、変わらない調子でそこにいる。
リナは小さく息を吐いた。
「……なんでもない」
誰に向けるでもなく呟いて、またフォークを動かす。
気づけば、皿の上のものはすべてなくなっていた。




