第二十二話 王への報告
依頼の整理を終えた数日後、バルグナー団長から使いが来た。
師団の遠征に、俺の同行を求める正式な依頼だった。王都近郊で大型魔物の群れが確認され、師団が三十人規模の討伐遠征を組むという。
俺が師団規模の集団に同行するのは、初めてだった。
出発の朝、三十人の遠征隊が広場に整列していた。バルグナーが先頭に立って、俺を全員に紹介した。
「本遠征に、付与魔法師のアイン殿が同行される。後衛に位置する。各自、その近くで行動することで、能力の恩恵を受けやすくなる」
三十人が、俺を見た。俺は会釈した。
「……よろしくお願いします」
何人かが頷いた。何人かは興味深そうな顔をした。何人かは、まだ半信半疑の顔をしていた。
遠征は二日がかりだった。
一日目は移動だった。移動しながら、俺は師団員全員に付与をかけていた。意識してかけているわけではないが、全員に向かって何かが流れていく感覚がある。今日は、いつもより密度が高い気がした。三十人の顔と名前を、覚えようとしていたせいかもしれない。
二日目、山岳地帯で群れと遭遇した。
大型の飛行系魔物が七体、上空を旋回していた。地上にも中型が十数体。連携して行動するタイプで、上空から攪乱しながら地上から詰める戦術を取る。
バルグナーが陣形を指示した。三十人が素早く動いた。俺は後方の岩陰に移動した。
戦闘が始まった。
最初の五分は拮抗していた。飛行系の速度が速く、矢が当たりにくい。地上の中型が前衛を圧していた。
十分が経った頃、何かが変わった。
前衛の動きに、迷いが減った。攻撃を外した後のリカバリーが速い。後衛の魔法師たちの術の精度が上がっている。弓部隊の射撃が安定してきた。
俺には、戦場全体を見る目がある。攻撃はできない。でも、見ることはできる。
三十人全員の動きが、少しずつ、本来の姿に近づいていく。
二十分後、飛行系が全滅した。地上の群れも、三十分で片付いた。
バルグナーが遠征隊を集めて言った。
「負傷者の確認を」
「軽傷三人です。重傷者なし」
「この規模の群れで、重傷者なしは異例だ」
師団員たちが顔を見合わせた。
「例年の同規模遠征では、必ず重傷者が一人か二人出る。今日は出なかった」
バルグナーが俺を見た。
「アイン殿。今日のことは、詳細な記録を取る。帰還後に、全員から報告を集める」
◇
遠征から帰還して三日後、バルグナーから報告書が届いた。
分厚い封筒だった。中には、師団員三十人全員の報告と、バルグナー自身の分析が入っていた。
巻末に、数値比較の表があった。
「見てくれ、この表だ」
レイアが指した部分に、二列の数字が並んでいる。
左列は昨年の同季節に行われた、同規模の遠征の記録。右列が今回の遠征の記録だ。
討伐時間。昨年が四十八分。今年が三十一分。
消費魔力の合計。昨年が基準値の百二十一パーセント。今年が八十七パーセント。
負傷者数。昨年が重傷一名、軽傷四名。今年が軽傷三名、重傷なし。
「……全部、上がってる」
俺は、数字を見ながら、言葉を探した。
「全部、上がっている」
「しかも、昨年の遠征とメンバーはほぼ同じなのか」
「表の注記に書いてある。コアメンバー二十二人は同一だ」
つまり、メンバーの質は昨年と同じか、それ以下だった。それで、全指標が大幅に改善した。
「バルグナー団長は、何と言っている」
レイアが、分析の最後のページを読んだ。
「あなたの存在が、個人の能力の上限を引き上げるのではなく、各自の本来の能力の発揮率を上げている、と書いてある。平均の冒険者が持っている力の七割しか使えていないとすれば、あなたの付与でそれが九割になる。それだけで戦況が変わる、という分析だ」
「……俺が特別に強くしているわけじゃなくて、本来の力を引き出している、ということですか」
「カサル翁が言っていたことと、同じだな」
「引き出す魔法、でしたね」
俺は、もう一度、数字を見た。
討伐時間が三十五パーセント短縮。消費魔力が三割減。負傷者が半減。
これは、俺がいたかいなかったかの、差だ。
三年間、ガルディアでも同じことをしていた。数字は残っていない。でも、同じことが起きていたはずだ。
「ガルディアが気づいた理由が、分かる気がします」
「うん」
「俺がいなくなってから、こういう数字が落ちたんでしょうね」
「そうだろう」
レイアが、報告書を閉じた。
「バルグナー団長が、これを国王に報告すると言っている」
「国王に、俺の数値が行くんですか」
「そうだ。それがどういう意味か、分かるか」
俺は、少し考えた。
「……俺が、国家にとって何らかの価値があると、公式に認定されることになる」
「そうだ」
「それは、ガルディアへの外交的な対抗にもなる」
「賢くなったな」
「一ヶ月、レイアと話しているとそうなります」
レイアが、短く笑った。
俺は、その笑顔を見て、それから少し逸らした。
心臓が、また変な動きをした。




