↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
追放された「効果不明」のエンチャンターは、隣国で計測不能と言われる  作者: まる


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/30

第十九話 エランの後悔

ガルディア王都、冒険者ギルド。


 ギルドマスターのガレオが、先週に続いて二度目となる対策会議を開いた。


 テーブルに並んでいるのは、B級以上のパーティリーダーたちだ。エランもいた。


「皆も分かっているとおり、成績の低下が止まらない」


 ガレオが報告書を広げた。


「先月の依頼成功率が、七十四パーセント。一年前の同月は、八十八パーセントだった。この差を、どう説明するか」


「魔物の動きが変わっているのでは」


「他の地方ギルドは平年並みだ。ガルディア王都のギルドだけが落ちている」


「なら、冒険者側の問題か」


「個人成績を見ると、全体的に落ちている。特定のパーティではない。全員が、何かを失ったように落ちている」


 会議室が、静かになった。


 エランは、腕を組んで、一点を見つめていた。


 ガレオが言った。


「何かアイデアはないか。ここ一年以内で、何か変わったことはなかったか」


 誰も言わなかった。


 エランが、声を出しかけて、止まった。もう一度、止まった。


 それから、口を開いた。


「……アイン、という補助員がいたんですが」


「知っている。追放した男だ」


「そいつの追放と、成績低下の時期が、重なっています」


 会議室が、また静かになった。今度は、少し違う静寂だった。


「根拠は」


「数字だけで言えば、一致しています。ただ、あいつのエンチャントは効果不明でした。三年間、測定記録がない」


「効果不明の補助員が追放されて、それが全体成績に影響するか」


「……分からないです。でも」


 エランが、言葉を選んだ。


「アルヴェインで噂になっているじゃないですか。アインがいると全員の成績が上がるって。それ、本当の話らしいです。商人経由で入ってきた話では、師団の遠征でも数字が出たと」


「それは確認できていないが」


「でも、ガルディアで三年間いて、アルヴェインで一ヶ月で数字が出た。なら、こちらでも同じことが起きていたんじゃないですか」


 ガレオが、長い間、黙っていた。


 最後に言った。


「……仮にそうだとして、今さら何ができる」


「取り戻す方法を考えるか、あるいは代替を探すか」


「代替になる付与魔法師が、この国にいるか」


「……いないです。俺も探した。あの能力は、特殊すぎる」


「なら、取り戻す方法を」


「外交ルートで打診したと聞いていますが」


「断られた。アルヴェインが正式に保護を宣言している」


 エランは、椅子の背に体を預けた。


「……俺が、嘘をつかなければ良かった」


 小さく言った。


 誰かが聞いたかもしれない。誰も聞いていなかったかもしれない。



◇



 その夜、エランは、一人で酒を飲んだ。


 酒が入っても、頭は冴えていた。


 嘘をついた理由は、嫉妬だった。あいつが急に、他国の貴族と仲良くしているのが気に入らなかった。自分より目立ちそうになるのが、嫌だった。


 その嫉妬のために、ギルド全体を、一年間落とし続けた。


 エランは、杯を置いた。


「……最悪だな、俺」


 答えてくれる人間は、その場にいなかった。


 あいつがいた頃、俺は「才能が開花した」と思っていた。オークの動きが読める。ゴブリンを楽に倒せる。前より苦労しなくなった。全部、自分の実力だと思っていた。


 違った。


 全部、あいつのおかげだった。


 俺が荷物番と馬鹿にして、効果不明と笑っていた、あの補助員のおかげだった。


 あいつは、三年間、俺たちを支え続けていた。誰にも気づかれず、感謝もされず、ただ黙って、手をかざし続けていた。


 なのに、俺は。


 嫉妬で、あいつを陥れた。冤罪をでっち上げて、追放した。


 エランは、酒を一気にあおった。


 もう、取り返しがつかなかった。


 あいつは今、隣国で英雄になっている。俺が蹴落とした男が、隣国で必要とされている。


 自業自得だ、と思った。痛快なまでに、自業自得だった。


 でも、それでも。


 エランの中に残ったのは、痛快さではなく、ただの後悔だった。


 あの三年間、一度でいい。一度でいいから、あいつに、ちゃんと礼を言っていれば。「お前のおかげかもしれない」と、一言でも言っていれば。


 そうすれば、こんなことには、ならなかったのかもしれない。


「戻ってこいとは、言えないな」


 エランは、天井を見上げて、つぶやいた。


 言えるわけがなかった。あいつを追放したのは、自分だ。今さら「戻ってこい」なんて、言える立場じゃない。


 あいつは、向こうで幸せにやっている。それでいい。


 そう思おうとして、思いきれない自分がいた。


 エランは、その夜、朝まで酒を飲み続けた。


 でも、どれだけ飲んでも、後悔だけは、消えてくれなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。