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追放された「効果不明」のエンチャンターは、隣国で計測不能と言われる  作者: まる


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第十四話 ガルディアの異変

同じ頃。ガルディア王都、冒険者ギルド。


 エラン・クロウは、依頼の報告書を提出しながら、腑に落ちない感覚を持て余していた。


 今日の依頼は、王都近郊の森でのゴブリン討伐だった。難易度としては低い。「鉄の牙」がまだC級だった頃から受けていた定番の依頼で、以前なら半日で終わった。


 今日は、一日かかった。しかも、一匹取り逃がした。


 取り逃がすこと自体は大した話ではない。だが、あのゴブリンを逃がすのは初めてだった。足がもつれた。判断が一手遅れた。装備は同じ。体調も悪くない。なのに、何かが噛み合わなかった。


「最近、どうも調子が出ないな」


 一緒に帰ってきたパーティメンバーが言った。


「俺も。先月からなんか、ぼんやりしてる感じで」


「俺もだ」


 三人が揃って、同じことを言う。


 エランは受付に報告書を出しながら、ギルドの掲示板を確認した。先週の討伐成績が張り出されている。他のパーティも似たような状況らしく、成功率が全体的に下がっていた。


 ギルドマスターのガレオが事務所から出てきて、掲示板を見ながらため息をついた。


「ここ一ヶ月、何かあったか。全体的に成績が落ちている」


「俺たちも同じです」


「特別な依頼の失敗はないが、平均値が落ちている。体力的な問題か。それとも今年の魔物の動きが変わったか」


「魔物の動きは、大きく変わってないと思いますけど」


 ガレオが腕を組んだ。


「一ヶ月前に、何か変わったことがあったか」


 エランは、少し考えた。


 一ヶ月前。あの日のことを思い出した。


 アインが追放された日だ。


 でも、それが関係あるはずがない。あいつのエンチャントは、効果不明だった。それは確かなことだ。


 エランは、その考えを頭の隅に押し込んだ。


「さあ。何もなかったと思います」


「そうか。少し様子を見るか」


 ガレオが事務所に戻った。


 エランは、もう一度、成績表を見た。


 全体的に落ちている。特定のパーティではなく、ギルド全体が。


 あの補助員がいた場所から。あの補助員が消えてから。


 エランは舌打ちをした。


 関係ない。関係あるわけがない。あいつは効果不明だった。


 でも「最近調子がいい」と思っていたのは事実だ。


 もしそれが、あいつのおかげだったなら。


 エランは、また考えを押し込んだ。今さら何も変わらない。あいつはもういない。


「行こう。夕飯食いに」


 仲間に声をかけて、ギルドを出た。



◇



 その夜、ガルディアの一角で、別の話が動いていた。


 商人組合の会合で、「最近の冒険者の成績低下による、依頼コストの上昇」が議題に上がっていた。


 商人たちは、護衛の質が落ちていると感じていた。以前なら問題なく運べた荷が、途中で襲われる。護衛の冒険者が、魔物を取り逃がす。そういうことが、ここ一ヶ月、増えていた。


「原因は何なんだ」


「分からん。ただ、一ヶ月ほど前から、明らかに質が落ちている」


「冒険者どもが怠けているんじゃないのか」


「それにしては、全員が一斉に、というのが妙だ」


 商人たちは、口々に不満を言い合った。だが、誰一人として、一人の追放された補助員の名前を、思い浮かべなかった。


 効果不明の荷物番。いてもいなくても同じ。誰もが、そう思っていた男。


 その男が、ガルディア全体を、静かに支えていたことに。


 誰も、まだ気づいていなかった。



◇



 同じ夜。アルヴェイン、ヴォルドハルト邸。


 俺は、何も知らずに、穏やかな夜を過ごしていた。


 夕食を終えて、中庭に出ると、レイアがいた。最近、夜に中庭に出るのが、俺の習慣になっていた。ガルディアの宿舎には庭がなかったから、この屋敷に来てから、夜はここに出るようになった。


「今日は、師団の訓練でしたね」


「そうだ。どうだった」


「団員のみなさんが、また『動きやすい』と言ってくれました。少し、慣れてきました」


「慣れることは、いいことだ」


 俺は、レイアの隣に座った。


「レイア」


「なんだ」


「ガルディアのこと、時々考えるんです」


「恨んでいるのか」


「いえ、そういうんじゃなくて。ただ、俺がいなくなって、あの人たちは今どうしているのかなって」


 レイアは、少し間を置いてから言った。


「気になるか」


「気になる、というより……三年間いた場所ですから。完全に、どうでもいいとは、思えなくて」


「あなたらしいな」


「そうですか」


「普通、追放された相手のことなど、二度と考えたくないものだ。それを気にかけられるのは、あなたが優しいからだ」


 俺は、少し照れて、夜空を見上げた。


 優しい、なんて言われたのは、初めてだった。


 でも、俺は思う。


 俺は優しいんじゃない。ただ、恨む相手のことすら、簡単には切り捨てられないだけだ。


 それが、いいことなのか悪いことなのか、俺には、まだ分からなかった。


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