第十三話 最初の共闘
翌週、レイアから「一緒にダンジョンに入ってみるか」と誘われた。
「俺が、ですか」
「戦わなくていい。後衛で見ているだけでいい。試したいことがある」
「何をですか」
「あなたがいる状態で、どこまで行けるかを確かめたい」
ダンジョンは、アルヴェイン王都の南、徒歩で一時間ほどの丘の内部にあった。国が管理する公認ダンジョンで、複数の層に分かれている。A級冒険者でも慎重に挑む中層から先は、これまでレイア単独では第七層止まりが記録だという。
同行者として、師団の中堅冒険者が二人加わった。レイアと俺を含めて、四人編成になる。
「アインには後衛に徹してもらう。戦闘になったら、離れるな」
「はい」
「何かあれば、私が必ず守る」
それは命令でも約束でもなく、事実の確認だった。そういう口調だった。
一層、二層は問題なかった。レイアの動きが鋭く、中堅の二人も「今日は動きやすい」と言いながらついてくる。三層で大型の魔物と遭遇したが、三人の連携が噛み合って、想定より短時間で倒せた。
四層、五層と進んだ。
五層を越えたところで、中堅の一人が言った。
「おかしい。俺、五層まで来たことないですよ」
「同じく。いつもより動ける気がして、気づいたら来てた」
二人が俺を振り返った。
「あんた、後ろにいるだけなのに、なんか違う」
「すみません、迷惑ですか」
「逆。ありがたい。でも不思議で」
レイアが前を向いたまま言った。
「これがアインの能力だ。後衛でいるだけで、前衛全員の力が引き出される」
「えっ、それって」
「今日は第六層まで行く。そこで折り返す」
六層の入り口で、レイアが一度立ち止まり、自分の手を見た。
「今日は今までと違う感覚だ」
「良い方に、ですか」
「体の動き方が、制限されていない感じがする。通常、この深度では魔物の圧が強く、速度を上げると判断が鈍る。でも今日はそれがない」
六層で遭遇した魔物を、レイアが単独で処理した。中堅の二人は補佐に回っただけだった。
◇
帰路、四人で一層への階段を登りながら、中堅の一人が俺に聞いた。
「アインさんって、戦えないんですよね」
「はい。まったくと言っていいほど」
「でも、六層まで来れた」
「……そうですね」
「なんか、あなたがいると、みんなの最善が出る感じがします。語弊があったらすみませんが、あなたがいることで、俺が俺の限界より上を出せる。そういう感じで」
俺は、何も言えなかった。
外に出ると、夕暮れだった。丘から王都が見えた。
レイアが隣に来た。
「次は第七層まで行こう」
「いいんですか」
「一緒ならいける」
一緒なら、という言葉だった。
俺は、その言葉の意味を、少しの間だけ考えて、それからやめた。考えすぎると、また迷子になる。
「……はい。行きます」
そう言ったら、レイアが小さく頷いた。
◇
その日の夜、俺は自分の部屋で、今日のことを思い返していた。
ダンジョンに入ったのは初めてじゃない。ガルディアにいた頃も、荷物運びで浅い層に入ったことはある。でも、あのときと今日とでは、まるで違った。
あのときの俺は、本当にただの荷物持ちだった。前衛が戦って、俺は後ろで荷物を抱えているだけ。誰も俺を仲間だとは思っていなかったし、俺自身もそう思っていなかった。
でも今日は、違った。
中堅の二人が、俺のことを「あなたがいると助かる」と言ってくれた。レイアが「一緒ならいける」と言ってくれた。
俺は、初めて、パーティの一員として、ダンジョンに入った気がした。
戦えなくても。後ろにいるだけでも。
俺には、役割があった。
窓の外を見ると、月が出ていた。
ガルディアの宿舎から見ていた月と、同じ月のはずだった。でも、なぜか、今夜の月のほうが、明るく見えた。
俺は、母の護符を握りしめた。
母さん。俺、少しずつだけど、前に進んでいるよ。
そう心の中でつぶやいて、俺はベッドに横になった。
その夜は、久しぶりに、悪い夢を見なかった。




