第六話 愉快な仲間?
石蛇戦で華々しい白星を飾り、大いに成長を遂げた俺は、向かう所敵なし……は言い過ぎにしても、ほぼほぼの魔物達に対し、快勝を続けて更に力をつけていた。
勝てた理由はそれぞれあれど根本の勝因は大体同じで、俺は、というかコレクターラット種は、鉱物に対して抜きん出た相性の良さを持っていたからだ。
鉱物と魔物、一見関係なさそうにも思えるが、俺が居るのは『奈落の霊峰』の麓(山までまだ距離はかなりあるが)。
炎漠では火の魔物、凍て地で闇や氷に関わる魔物が多かったように、魔境では顕著に偏った魔物達が発生する。
ここ『奈落の霊峰』もその例に漏れず、見ている分には最高に愉快で、ロックな魔物達がこれでもかと蔓延っていた。
『それじゃあ愉快な仲間達を紹介するぜぇ~。えんとりーなんばーわんっ、ご~~~れむズ~~」
砂、土、岩に、金属、宝石なんでもござれ。
鉱物っぽい奴は大体友達、ゴーレムズ。
サンド、アース、ロック、クリスタルとその種類は多岐に渡り、銅や鉄がある場所ならもっと色々種類が増えそうな固くて固い、とにかく固いことが取り柄のお洒落さん達だ。
ついさっき相性はいいと言ったもののぶっちゃけ戦うのが一番鬱陶しい相手であり、俺とは泥仕合中の泥仕合を繰り広げる(安直な奴の攻撃は俺に当たらないし、かといって俺の攻撃も碌に通らないのだ)。
アースゴーレムに辛勝したとはいえ、見かけたら一目散で逃げるくらいには面倒で、奴らは何故か執拗に俺を追ってくるというトンチキな魔物達だ。
『つづいてぇ、えんとりーなんばーつぅ、こ~か~と~り~すぅ~~』
立てば雄鶏、座れば毒蛇、歩く姿は奇々怪々。
自然破壊の双頭番長ことポイズンコカトリス。
大気汚染に土壌汚染、騒音、悪臭と公害をその身に溜め込んだ悪質な魔物で、くっせぇ吐息を食らうと植物だろうと魔物だろうと直ちに石へと早変わり。
《清めの波動》が無ければ俺も奴の石像コレクションの一員になっていたことは想像に難くなく、見つけたら即ボコボコにしている。
この辺の魔物にしては、随分と柔らかく、石化対策さえあれば最も下しやすい魔物だ。
『まだまだぁ、えんとりーなんばーすりぃ、がぁ~~~ごいる~~』
その姿は、悪魔か、人か、ライオンか。
正体不定の石森の番人改めスモールガーゴイル。
擬態しているつもりなのかは知らないが、森に佇むその様はあまりに不自然で、少し間抜けな不器用さん。
しかし、こと戦闘に限って言えば、百戦錬磨の武芸者。
どこで手に入れたのか、石の大斧を木の棒のように軽々と振り回し、ゴーレムもかくやという硬度でもって、ガチガチの近距離戦を挑んでくる。
ゴーレムでさえ泥仕合をせざるを得なかった俺がもちろん勝てる相手ではなく、俺は一も二もなく地中へと逃げた。
幸いデカすぎる図体(あれでスモールは詐欺だろう)のお陰か地中までは追ってこれないようで、何とか命を繋いだのも記憶に新しい。
『そしてそしてぇ~~、えんとりぃ、って邪魔すんじゃねぇ、このミミズ野郎っ! いつまで湧くんだよっ、マジで!』
ワニさん、カメさんとまだまだ紹介したい魔物はいたが、俺の現実逃避を邪魔するべく現れた巨大ミミズ(イモムシ?)によって、その野望は阻止される。
形容し難い(形容するほど観察したくもない)バカデカいそのミミズは、そのサイズ感が大きくなったというだけで、生理的嫌悪が否応なく発動するそんな見た目をしていた。
名前だけは一丁前に『ジュエルワーム』などとキラキラしたものが付いているが、名前負けもいいところだった。
『こんなに穴ぼこで崩落しないよな? 大丈夫だよな?』
ブニュチャ、とジュエルワームを踏み潰す耐え難い感触から目を逸らす様に周囲を確認し、俺は別の不安に苛まれる。
俺は今、とある事情により(ミミズによって穴だらけにされてしまった)穴倉の中で、一時間程隠れ潜んでいた。
いやまあ勿体ぶるほど大した事情がある訳でもないが、どこかのバカ鼠が格上のガーゴイルに調子に乗って喧嘩を吹っ掛けたせいとでも言っておこうか。
『なんかまだ上でズシズシいってるし、諦めてくれねぇよなぁ……はぁどうすっぺかなぁ』
崩落が更に心配になるガーゴイルさんの怒りのタップダンスが穴倉に響き、また一匹それに釣られてやってきたジュエルワームを俺は渋々と処理していく。
それなりにレベルアップもできるので、むしろ喜ぶべきではあるかもしれないが、穴倉にうず高く詰みあがっていくミミズ達を見ていると既にだいぶんと嫌気が差してきていた。
『ちぃっとオキニの斧壊したくれぇでそんなに根に持つか? いやまあ、俺でも怒るけどさぁそれは。でも戦闘中だったしぃ正当防衛だったしぃ……って、おん? 音が止んだ?』
暇をつぶすためにだらだらと言い訳を零していると、ピタリと音が止み、穴倉にようやく平穏が訪れた。
諦めたのか、はたまたそれを装って騙そうとしているのかは定かではないが、この悍ましい穴倉を出るには良い機会かもしれなかった。
『最悪また戦闘だろうが、ミミズ共に襲われ続けるよか、精神衛生上マシだ。よしっ、いそげっ』
この機を逃してなるものかと俺は自分の掘った穴(断じてミミズの掘ったきったねぇ、ニチャニチャの穴ではない)を使って、地上を目指す。
待ち伏せを警戒し、俺は《練気》を耳に纏わせ地上の様子を探ると、案の定待ち伏せでもしているのか、小さな音が俺の耳に届いた。
「……なった……手がかり……」
『(ん? 誰かが喋ってるのか?)』
「くそっ、また一から……もう……」
その音は岩が擦れる音でも、大地を揺らす音でもなく、誰かが独り言を零している、そんな男の声だった。
ガーゴイルはどうなったのか、その男が味方なのか敵なのか、気にすべきことはいくつか頭を過ぎる。
しかし。
しかし、そんな些細な事はどうでもよかった。
俺は警戒も思考も忘れ、ただ無我夢中で地表に飛び出し、声の正体、それが誰なのかを確かめに走った。
「な、なんだっ?!」
当然、こちらが確認に行けば、相手にも俺の存在は見つかり、独り言を発していた男が驚きの声をあげる。
咄嗟に腰に佩いていた剣に手を伸ばすくらいには警戒されているようで、男は俺を見て微かに顔を歪めた。
「なっ、あのおかしなハムスターか?! どうする? 見つかった以上はやるしかないか? だが、こいつが最後の手がかりだぞ……もう時間もないのに」
男は戦うかどうか迷いながら俺の行動を見守り、饒舌にぶつぶつと独り言を呟く。
このまま俺が襲いかからずとも、あと数秒もすれば戦闘に発展する、そんな差し迫った雰囲気がその場を満たす。しかし、俺は絶対にそんなことをさせる訳にはいかないと、危険と分かっていながら降参のポーズをとった。
「なんだ? 戦う気はない……のか? もしかして、俺がガーゴイルを倒したから、守ってもらったと勘違いした? いやでも、魔物が懐くなんて聞いた覚えがないぞ」
男は困惑し切った様子でなおも独り言を続け、剣呑だった雰囲気はやや丸みを帯びる。
俺は男を警戒させないようのろのろと起き上がると、敵意が無いことを伝えるべくあの手この手を使って、男の警戒を解いていく。
『……言葉が通じれば一発なんだがなぁ』
そう言って俺は、この場にベルがいないという事実を心の底から口惜しく思った。
目の前の若い男とは会ったこともない全くの赤の他人。
けれど、話したいことはあの霊峰のように天高く積みあがっていたのだ。
折角、順調に警戒を解き始めていたのに、俺が鳴き声を出したせいか、男はあんぐりと口を開け、信じられないモノを見るような目でこちらを見る。
その様子は、まるで、というかまさしく、俺が喋っている内容を理解しているようにも思えた。
『まさか、俺の言葉がわかるのかっ?! あんちゃんっ!』
「は、ハムスターが喋ったっ!??」
『おいおいおいっ、やっぱり分かるんじゃねぇかっ!! 今日はなんて最高の日なんだっ!』
「ちょ、急に、ぶっ!」
名も知らぬあんちゃんの顔面に張り付き、俺は手厚い抱擁をがっちりと交す。
あんちゃんは有り余る俺の勢いに押され尻餅をつくと、息ができないのか、どたばたと手足を動かしていた。
『おぉ、やべぇやべぇ』
「ぷはっ、い、息が……い、いっしゅん走馬灯がみえた」
『す、すまんな、つい興奮しちまって』
「……い、いや魔物に油断した俺が悪いんだ」
流石に見ていて可哀そうだったので、俺はぽよんと地面に戻り、あんちゃんの姿をじろじろと眺める。
男の、まして人間の男の姿なぞ、眺めていても何も楽しくはないが、今日この場に限ってはそんなことはなかった。
中肉中背にして、平々凡々。
無味乾燥とも表現できそうなあんちゃんは、本当にどこにでも居そうな疲れた顔をした青年だった。
しかし、あんちゃんが持つ黒髪黒目は、年齢以上に若々しく見えるその外見は、決してこの世界に居てはいけない筈の、涙が出るくらいに懐かしい故郷の、ありふれた人間の特徴だった。
『あんちゃんも、転生者なんだよなっ?』
俺は期待に胸を膨らませて問いかけ、対するあんちゃんは息をするのも忘れた様に呼吸を止めて目を見開く。
この世界に来て初めて出会った獣人以外の人類。
それはなんと数奇な縁なのか、同じ青き惑星より舞い込んだ人の良さそうな青年だった。




