エピローグ 夢
寒さに抗うようにベルと身体を寄せ合って眠っていた俺は、頬を伝う温かな涙の感触に驚いて飛び起きる。
深い眠りから急に覚めたせいか頭は碌に動かなかったが、幸せな夢を見ていた、そんな余韻が身体中を巡っていた。
『……なんだ夢か』
そう呟く間にも幸せな余韻は去っていき、さっきまで鮮明に残っていた筈の記憶すら急速にあやふやになっていく。
思い出そうとすればするほど、頭も覚醒していき、夢の残滓は泡沫の様に儚く散っては消えていく。
『デント、どうかした?』
鈴の様な声で、ベルが鳴く。
その顔に怒りはなく、まだ寝たい、そんな思いだけが感じられるとろんとしたものだった。
常に周囲が暗いため時間は分かったものではないが、今が目覚めの時ではないということは眠気でぼんやりする頭が一番に理解していた。
『起こしちまったか。まだ寝るから気にしないでくれ』
『……ん』
ベルは言葉を聞き終わる前にはふわふわの前足に顎を乗せて、直ぐにスースーと可愛らしい寝息を立て始める。
その姿はあまりに眠気を誘い、俺は反射的にベルの懐へと潜り込み、平たいお餅の様に寝そべって瞼を閉じた。
『(そういや最近、悪夢なんて全然見なくなったな)』
再び眠りに落ちる刹那の間、ふとその事に気が付き、多分ベルのお陰なんだろうなぁ、と何故かそんなことを思った。
俺はベルの体温をより近くで感じようともぞもぞと擦り寄り、この上ない幸福な現実を噛み締める。
『(あぁ……俺……生きてるなぁ……)』
夢と現の狭間で感じるその体温はどんな陽だまりよりも心地よく、もう一度だけ幸せな夢へと俺を導いた。




